だから、もっと… 

もっとあなたを知りたくて…。



だから、



もっともっと、傍にいたい。




























「そういうわけだから、夕飯は各自で済ませて貰えるか?」



「あ、僕は大輔…えっと、友達と約束があるので大丈夫です。ゆっくりしてきてください!!」


「1日中沙耶ちゃんを独り占めかぁ…。ちょーっと妬けちゃうけど、誕生日くらい家の事は気にせず楽しんできてよ。」



「たまにはまともな事言えるんっすね。」


「たまにはってなんだよ!そう言う創ちゃんだって沙耶ちゃんをとられて悔しいって顔に書いてあるぞ。」


「はぁ!?何で俺が悔しがらなきゃなんないんだよ!!」



「そうやってムキになるところがアヤシイ…」



「あぁ!?なんだと、文太!!」


「創一さんも文太さんも止めてくださいよ!!」


「朝からやかましい…。宝来さん、こいつらは放っておいて早く出掛けた方がいいですよ。」




リビングから聞こえてくる賑やかな会話を聞きながら出掛ける準備を整える。


11月20日。
今日は和人さんの誕生日。
週末ということもあって、久しぶりに2人で映画を観に行こうと提案したのは私。
勿論、和人さんのお部屋でゆっくり過ごすのも大好きだけれど、特別な日くらいは2人きりで過ごしたくて…。




出掛ける準備はできたのに、リビングから聞こえてくる会話に、出ていくタイミングを失っていると、こちらに向かって来る足音。




「そろそろ出掛けるけど、準備はできたかな?」

コンコン、というノックの後に聞こえるのはいつもの優しい和人さんの声。
扉の前に立っているんだからすぐに出ていけるのに、さっきまで繰り広げられていたリビングでのやり取りを聞いていたのがバレないように、一拍おいて返事をした。











「待たせてしまってすみません!」


「こんなの待ったうちに入らないよ。あいつらがいちいち騒ぐから別々に出てきた方が早いしね。」


あの後、直ぐに部屋を出て和人さんと一緒にリビングを出ることもできたのだけど、珍しく全員揃っていたリビングは菊原さんの一声でも静かにならなくて。
冷やかしの洗礼を浴びないようにと、和人さんが気を利かせてくれて、時間差で四つ葉荘を出る事にした。


「ただデートするってだけなのに、何だか大騒ぎだな。」


「ふふっ。ほんとですね。」


いつも賑やかで、なんだかんだと言いながらも仲の良い四つ葉荘も大好きだけど、シェアハウスという空間では、お互いの部屋を行き来する事も気が引けて、なかなか2人きりで過ごすことができないのが実状。
それに、お互いに仕事や課題に追われる忙しいし日々を過ごしていると、同じ屋根の下に暮らしていても、顔を合わせない日だってある。


つまり…


お付き合いが始まる前とあまり変わらない日々を過ごしている。



「さぁ、行こうか。」


そう言って当たり前のように差し出してくれる大きな手を取れば、優しい温もりが心地良くて、繋ぐ手にきゅっと力を込める。



「いつも家ばかりでごめんね。」


「え?」


「仕事ばかりでなかなか出掛けられないだろ?」


「そんなこと…。お仕事が忙しくないのも困りますから。それに家事だってあるし…。」


「それは一応大家だからね。忙しい学生のサポートをするのも仕事さ。…って、結局仕事ばかりだな…。」


あはは…と気まずそうに笑う和人さんは本当に優しい。
自分の事よりも周りに気を遣える上に、後回しにした自分の仕事だって落ちが無い。
こんな大人な和人さんが私みたいな子どもっぽい学生と付き合ってくれるなんて、何だか申し訳ないような気さえしてしまう。
今日だって、和人さんを独り占めしたくて映画をダシにしたようなものだから。

「映画まで時間があるから、先にランチにしようか?それとも買い物したいとかある?ほら、最近駅前のショップがリニューアルしたって話題になっちてるから…。」


ほらね。
こんな風に、自分の誕生日でさえ自分の事は後回し。


「和人さん…」


「うん?」


「今日は和人さんのお誕生日ですから、和人さんの行きたい所に行きたいです。」


「え…あぁそうか。そうだね。」


ばつが悪そうに苦笑した和人さんは、それなら先にランチでもいいかな?と言って歩き出したのだけど、何が食べたいかってまた私の希望を優先しようとするから、結局ちっともお祝いモードにならないまま映画館に向かう事になった。












    
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