winter love 







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「カズ兄!料理はこれで全部だよな!?」



「飲み物もこれで大丈夫ですか!?」



「あぁ、料理はこれで全部だ。飲み物は…あ、冷蔵庫にシャンパンが冷やしてあるから持ってきてもらえるか?」



「それなら今持ってきましたよ。」



「千尋さん!ありがとうございます!」



四つ葉荘のクリスマスパーティーは、何だかんだと言いながら結局全員が参加する毎年恒例の行事になっていて。



「ケーキ…無いの?」



「あ、文太さん!!どこ行ってたんですか!?」



「あ、文太!!どこ行ってたんだよ!?リビングの飾りつけ担当だろ!?居なくなったと思ったら急に戻ってきてケーキの心配かよ。」



「あのっ…!大丈夫です!!栗巻さんは写真の準備でアトリエに行ってただけですから。飾りつけも終わりましたし…。」


「あれ!?沙耶ちゃん!帰ってたんだ。」



「うん。講義が早めに終わったら。でも、少ししか手伝えなくてごめんね?」



「そんなこと無いよ!!早く帰れて良かったね。」



「おいおい、何の騒ぎだ?」



散らかっていた調理台の片付けを終えてリビングに顔を出せば、いつものように賑やかなやり取りが繰り広げられている。
休日はそれぞれの予定があるだろうからと、金曜の夜に設定したパーティー。
午後から空いていた創一と翔吉。その後少し遅れて帰宅した千尋は料理を。
更にそれから少し遅れて帰宅した文太と彼女にはリビングの飾りつけを担当してもらっていたはずだ。



「そう言えば…一人うるさい奴が居ないようだが…?」



「あぁ、裕介さんならもうすぐケーキを買って帰って来るはずですよ。さっき連絡が来ましたから。」



「ふーん…。あの人が準備に参加してないなんて珍しい事もあるんだな。」



「清田…裕介がいなくて寂しいのか?」


「ばっ…!?ちげぇよ!!何でそうなるんすか!?」



「キヨ、キクさんに『バカ』って言った…。」



「はぁ!?言ってねーよ!!」



「こらこら!お前達、騒ぐんじゃない!裕介が帰ったら始めるからグラスとか取り皿とか準備してくれよ。」



そんな騒ぎの中で、いつになく落ち着かない様子のキミは窓の外を気にしたり、そこに映る自分の姿を見て髪を直してみたり…。



「裕介なら後5分くらいで帰ると思うよ。」



「えっ!?あっ…和人さん。」



「文太はケーキ待ちだけど、沙耶ちゃんは裕介待ちなんだろ?」



他の奴等に聞こえないように、小声でそういえば、『!!』と目を見開いて驚くキミの頬がパッと桜色に色付く。



「大丈夫、誰にも言わないから。それに、その髪型も似合ってるよ。」



「え…?あ…あのっ…」



いつもは下ろしている髪を後で一つに結んで、可愛らしいシュシュをつけている。
自分でも慣れないのか、シュシュの位置を直したり前髪を整えたりと、今日は何度もそんな仕草を見かけている。



君を見ればつい目で追ってしまうから、いつもと違う髪型も裕介を意識する姿も気付かずにはいられない。
そんな事は知るよしもない君は、思いがけない指摘に戸惑うばかりで…。
でも、そんな困った姿も愛しくて。



「さ、うるさい奴等に気付かれる前に準備に戻って。」



何の特にもならないと分かっているのに、こんな風に彼女の片想いを応援してしまうのは、管理人という立場のせいなのか…。



「はい…。ありがとうございます。」



いや…。
ただ単に、こんな風にふわんと優しく微笑む彼女の笑顔が見たいからだ。



彼女に惹かれ、意識するのと同時に気付いたのは彼女の片想い。
俺が好きな優しくて眩しいくらいの笑顔の先にはいつも裕介がいる。



「みなさーん!!裕介さん帰って来ましたよー!」



「たっだいまー!!裕ちゃんサンタはケーキと一緒に雪も連れてきましたよー♪」



「はい!?雪って…何言ってんすか!?」



「創ちゃーん…。反応が悪いなあ。ホワイトクリスマスなんだってば。ホワイトクリスマス!!」



「あっ!!本当だ!!沙耶ちゃん、外見てみなよ!!雪が降ってる!!」



「わぁ…ほんとだ…。」



翔吉の言葉に促されて窓の外を見遣れば、夜空を背景にチラチラと白い結晶が舞い落ちている。
そんな景色を嬉しそうに見つめる君は、まるでサンタクロースを待ちわびる子どものようで。



今年初めての雪よりも、君の笑顔に見惚れていると、突然その笑顔が驚きに変わる。




「沙耶ちゃんっ!!」



「ひゃぁっ!?」



「ははっ!!びっくりした顔も可愛いねー♪」



「なっ…何!?何か冷たいものが…。」



雪にみとれていた彼女の背後からそっと近付いた裕介がその頬を指で触れたようだ。



「ん?そんなに冷たいか?」



「冷たいよ!私の手と比べてみてたら分かるよ。ほら…。」



そう言った君は裕介の手を取ると、自分の手で挟むように包み込む。



「うっわ…あったけぇ…。」



「ね?さっき手袋してなかったんじゃない?それでケーキ買って来てくれたから…。」



「あぁ…朝はそうでもなかったのに、午後から急に寒くなったからね。手袋持ってなかったんだよ。」



「そっか…。ずっと寒い所に居るとそれに慣れちゃうしね。」



「うん。それでさ、沙耶ちゃん。」



「ん?何?」



「オレはずっとこのままでも全っ然構わないんだけどさ。ちょっと渡したい物があるんだよね。」



ニコニコと嬉しそうに自分の手を見ながらそう言った裕介の言葉に、あっと小さな悲鳴を上げた君は慌てて裕介の手を離す。



「ご、ごめんねっ!!私ったら…。」



自分の行動の大胆さに今頃気付いて真っ赤になる君を見ていると、君がどれ程裕介を好きか思い知らされる。



「オレも沙耶ちゃんの手を離すのは名残惜しいんだけどさ…。これを渡したくて…はい。プレゼント。」



「わぁ…可愛い…。これ、貰って良いの?」



裕介がポケットから取り出したのは可愛らしくラッピングされた星型のクッキー。
ミントグリーンのアイシングとカラフルなアラザンをあしらわれたそれは、クリスマスツリーのオーナメントを思わせる。









    
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