84 | ナノ
シンエネ

可哀想、というか、なんというか。
ぺたりと感覚もない壁に触る。触っていると言う事実に少しホッとするのはやはり触覚などが無いから。どこかで何かを遣り過ぎそうになる。いつまで経っても慣れない青く広く果てない世界。日々新しく構築され、時には削られ、そうして出来上がっている世界。全てが全てと繋がっている訳じゃなくても縦横無尽に飛び交う線は多く、まるで蜘蛛の巣のように存在している。そんな世界から目を背けて私が眺めるのは、決まって外だ。眠さで不機嫌になったことも、お腹いっぱいで苦しくなったことも、走って辛くなったことも、面倒で堪らなかった書き取る動作も、春の暖かさも、夏の暑さも、秋の寂しさも、冬の寒さも、今ならあの無神経だと思った言葉にも笑顔で頷けるのに、無くしてから気付くとは正にこの事だろう。むしろ無神経は私だったのだと、今なら思えるのだ。
ふと思い出す記憶は洪水のように溢れ返って郷愁を濃く自覚させる。けれど私に時間を遡る術はない。懐かしく恋しく感じることは出来ても、それを忘れないことしか私には出来ない。それは目の前の人も一緒だ。
ごちりと額を机に打ったまま動かないご主人。ついさっき曲のデータが私のせいでは全く無く完璧に飛んだのだ。小まめなセーブ、じゃないや、保存をしないからそうなるのだ。結構時間を掛けていて、私もご主人が開いてくれていたゲームの実況動画を見ていたから大人しくしていたと言うのに。

「死にてえ......」
「ご主人の涙目なんて誰得ですか、私では絶対無いですよ」
「ああああ......っ」
「今回はご主人のせいですよ〜。私が折角何もしなかったのに」

力無くうるせえと生意気なことを言うご主人にむすっとする。私だってビックリしたのだ、動画が途中で止まりふつりと何もかもが色を無くしていく。あまりにビックリしすぎて思わず早急に新規メールを作り私を添付して端末に飛んでしまったほどだ。そのスピードは神掛かっていたと自信を持って言える。

「あー......やる気無くなった......」
「貧弱ですねえ」
「お前もなってみろよ、一気に何もしたくなくなるぞ」

そんなのとっくの昔に体験済みだ。折角中ボスをがつがつ倒しラスボスをあと一歩で倒せると言う所まで行って突然の停電。突然目も慣れない真っ暗になった部屋の中で呆然としたのを覚えている。その後ゲーム機を壊さんばかりにひっくり返してハラハラと泣き出し、心配で上ってきた祖母に根気よく慰められたものだ。恐らく停電でビックリして泣き出したと思われたのかもしれない。だが、ごめんね、そんな乙女乙女した素晴らしく守って上げたい雰囲気を出せる思考や条件反射などは私に備わっていないかった。
そこから小まめなセーブ癖が付いたのは良いことだったと思う。何と言っても全てのデータが飛ぶような状況にならない限りは安全だったし、遥が私が貸したゲームでそういう事態になり落ち込んだ時には先輩顔して助言できたからだ。相手より優位だと気分が良かったからその日は随分良い顔をしていたと思う。思わず思い出して笑えば、ちょうど顔を上げたご主人が私を見てすごく変な顔をした。女の子の顔を見てそんな顔をするなんて、本当に変わっていない。

「何笑ってるんだよ」
「ご主人の失態に」
「うるせえ!ほんとうるせえ......っ」
「聞いたのはご主人じゃないですか!それにご主人の方が私よりずっと煩いです」

うううっとまた更に落ち込むご主人に呆れる。しかしこの人は可哀想だ。何と言うか、ついてない。タイミングの悪さなど、私が知る中でのランキングに確実に間違い無く上位に食い込むほどだ。相当酷い。
ずーんっと重い空気がご主人の上に乗っかっているのが分かる。何ともこの空気を滅多に入れ換えない部屋に似合う。淀んでいるようにも見える。可哀想な人だ、この人は。
仕方ないなあと溜め息をはふっとついて、やけに延びた声でご主人の名前を通常より倍長めに呼んだ。涙目で情けない顔、無気力が態度や動作にバターのようにべたりとまとわりついている。

「散歩でもしましょうよ、気分転換に」
「なにもしたくねえ......」
「って言って寝ても、どうせ晩御飯を食べ損ねるだけじゃないですか。ね、確実に暇なんですし!」
「まあ確実に暇だけど」

言いにくそうにぼそぼそ返してくるご主人に好機と見た。最近苛めにも少し飽きてきたところで私の気分転換もしっかり兼ねている。これを逃せば暫くはまた通常通り暫くの鬱々とした薄暗い生活。そう思えばこのぼそぼそした聞き取りにくい喋りも気にならない。にこりと自然に出来上がった笑顔でばたばた腕を振る。

「最近は暖かいですし、そんなに寒くないですよ!」
「まあそうだけど、散歩ってどこ行くんだよ」
「アジトに行きませんか?ちょうど今はお昼より早いですし、遠回りして行きましょうよ!」

なるほど、と考え出したご主人は団長さんの料理が結構気に入っているらしい。見ているだけでも美味しそうと分かるあの料理だ、そこそこ忙しいご主人のお母さんの負担も減るとなれば行かない手はない。それに朝頃にアジトへの訪問の有無を尋ねるメールに僭越ながら勝手に、「行くと思う」とご主人を装って返しておいたエネちゃん、素晴らしい手際ですよねと自分で自分を褒める他無い。

「連絡はしときますから、行きましょうよ!」
「でも遠回りだろ?」
「途中で公園とかコンビニとかちゃんとあるルートですよ、ゆっくり行けますって!」
「......まあ、良いか」

よしっと勝利のガッツポーズを作る。とは言ってもあからさまにやるとこの底意地の悪いご主人は学習もせずやっぱり止めたと言うことも有り得るので支度をしようと立ち上がり顔を背けた瞬間を狙った。ご主人はだらだらと着替えて財布をポケットに突っ込んでいる。最近はもう鞄すら持つのが億劫らしく、くずっぷりがここで遺憾無く発揮されているがもう仕方無い。ああこれはもう手遅れですね。
ご主人の背中に生暖かい視線をプレゼントし、私は早速団長さんとご主人のお母さんへのメールを作成する。

「連絡送りましたー」
「おー、じゃあ行くか」

最近は私を連れていくのを渋らず、あっさりと私が入った端末にイヤホンを差して連れていってくれる。良い傾向ですよねと思いながらちらりとカメラから家の中を見回す。隣の部屋から音がしなかったところを見ると妹さんは不在、と言うことはアジトに居る可能性高い。ご主人の遺伝子のせいで友達が少ないのは不憫でなら無い、涙無しには語れない。思わず泣き真似をしかけてご主人に不審そうな顔をされてしまった。

「家から出たら左に行ってくださいね!」
「その道からだと大分遠くないか?」
「ちゃんと途中でセトさんに教えて貰った抜け道がございます!流石エネちゃん、抜かり無い!」
「自分で言うなよ」

びち、と指で頭をタッチされた。恐らくチョップのようなものだろう。この端末が若干心地良いのは、こうやって触られているような感覚が少なからずあるからだ。うひひと笑えば不気味と一蹴されたがご主人の口が少し緩んでいたのはばっちり見えた。
がちゃ、とドアが開く音がして、私はわくわくと外を覗いた。天気予報でチェックはしていたが、何とも清々しい快晴が広がっている。青い高い空と暖かそうな日光、木もそろそろと緑が見える良い季節。クラス替えは代わり映えしなかったけど、何だかわくわくする季節ではある。

「どうですかご主人」
「思ったより暖かいな」
「最高気温二十度ですって」

欠伸混じりの気の無い返事が聞こえる。想像するしかない私と体感しているご主人とでは色んなものが違うのだろう。良いなあと羨ましくも妬ましくもなるが、こうして外に出て地面に立って歩いているというご主人を見ていると少しだけそれも無くなった。
この隣を歩いていた子を思い出すと、切なくなる。彼女が望んだことだから、私が何かを言える訳じゃないけど。私もその時は隣に居るのは違う人だったのだから、何とも奇妙な感覚だ。いっそ可笑しくなってくる。

「ご主人、お土産に何か買っていきましょうよ!いつもご馳走になってるんですし」
「そんなに金無いんだけど」
「ご主人がお金に逼迫しているのは今に始まったことじゃないですから知ってますよ。道すがら何か見て考えましょうって言ってるんです!」
「最近しょっちゅうどこかしら行ってるから更に無いだけだ。まあご馳走になってるのは本当だし、色々見るか」

どうやら熱心に取り組んでいた物が消失したことによって潔くなっているらしく、なんだかさくさくスムーズに話が進む。物足りない訳ではないのだが、少し気持ち悪いと思ってしまうのはもうご主人の気持ち悪さによる特殊効果と思っておこう。
次の道を聞いてくるご主人に右と答えながらそんなことを思っていれば、桜の木が満開で咲いているのが視界の端に見えた。おおっと内心で歓喜の声を上げて目に焼き付ける。本当は近くで見たいがそっちに行くと工事で通行止めの道に行き着くから止めておいた。途中でバテて貰ってはやっとの外出なのに中途半端に嫌な感じに終わりそうな予感がする。桜が特別好きな訳ではないが、やはりあると綺麗で見てしまうし、桜が散っていく道を歩くのは密かな楽しみでもあった。その時ばかりはイライラしていたのも忘れてゆっくり歩いたものだ。

「桜ってこんなに早く咲くものだったか?」
「ご主人が外に出なさすぎるから早く感じるんじゃないですか?」
「出ないのは本当だけど家の窓から桜見えるんだよ。去年はもっと遅かった気がしたんだけどな」

昔からあんなに詰まらなさそうにしていたから、日々の感覚が遅かったからでは。なんて言いそうになって堪える。きっと怠惰に過ごすより、ずっとずっと遅かったんだろう。遅々とした日の回転にも緩い絶望を感じていたんじゃないかと思うと、この変わり様は微笑ましい。今は遅くないってことかと思うと尚更笑みは深くなる。こういう時、体感時間と言うものが一番嘘をつかないと私は思う。年を上に持ち上げれば持ち上げるだけ時間は早くなると言うが、しかし一年でそんなに実感するほど劇的ではないはずだ。

「お花見でも企画しましょうか」
「......煩そうだな」
「あはは、静かなお花見が許されるのなんて恋人と行くか中年になっての一人お花見くらいですよ!」
「さらっと現在の希望溢れる可能性と未来の絶望満載の可能性を同時に提示するな!相容れねえから!」

いやいやそうでも無いですよと言う意味を籠めてにこにこととびきり笑顔をサービスすればご主人は震えた声で止めろと呟くように言ってきた。まあ最初の可能性だけでも天地がひっくり返るほどのチャンスが無ければね。この人の長所はたまにビックリするくらい度胸がある所と賢い所ぐらいだろう。顔は論外だ、ダメダメだ、顔で惚れるのは無理過ぎるくらい無理だ。あとは当たり障り無く優しい所。まあ優しいと言っても人が感じる程度にもよるし見付けようと思えば誰にでもそんな所は見付けられる物だ。

「まあまあ落ち込まないで、六十億分の一の確率でご主人にも出会いがありますよ!」
「人類中でたった一人かよ!」
「え、もっと出会いがあると思ってるんですか......?あ、いえご主人がそう思っているなら、良いですけど、......ええ......信じるものは救われますもんね......」
「おい止めろ、そういう反応は止めろ......!」

真っ青な顔で端末を両手で持つご主人に心中大爆笑の嵐が巻き起こる。今にも顔に出そうだがそこは我慢して、とは思うがあまりに必死なご主人の様子にぶはっと思わず吹き出した。けたけたと我慢した分思いっきり笑えばご主人は途端に間抜けな顔で私を見て端末を持つ手に力を籠め始める。みしっと嫌な音がしたが、それまでだ。ご主人の非力な腕力ではこの端末を壊すことなんて出来やしない。

「まあ今日のご主人の恋愛運は最低ですから強ち間違ってませんけどね!」
「お前なぁ......っ」
「いやーん、そんなに怒らないでくださいよごっしゅじーん!ほらほら、こんな美少女と歩いてるって思えば恋愛運なんて気にならないですよ?キャッ、エネちゃん罪な女の子!罪作り!」
「だから自分で言うなって!それに美少女って」

私を見てハッと鼻で笑うご主人にむかっと頭の片隅が音を立てた。こんな美少女になんたる暴言。相変わらずムカつく顔ですことー!懐かしいけれどそれと同時に昔の遺恨がふつふつと音を立てて煮立ってくる。どうしてやろうかとご主人にぎゃんぎゃん文句を言いながら考え、地図を眺めた。もっと遠回りさせようか、それとも変な道に迷わせようか、それともセトさんから聞いた危ない近道に。ぽんぽん出てくる嫌がらせにさてどうしてやろうかと内心ニヤリとスーパーキュートに笑う。

「って、あれ?」
「なんだよ」
「ご主人、今どこ歩いてますか?」
「はあ?住宅街だけど」

住宅街。それはカメラのレンズを通してきっちりと分かる。しかし地図ではもう商店街を通って居ても可笑しくないはず。あれー?と首を傾げて地図を見ていれば、違和感。おっとこれは、と思わぬ形で見付けた衝撃の事実に、私の声は少しせっかちに口から溢れていた。

「......あ」
「......嫌な予感しかしねえんだけど」
「やだご主人、今日は察しが良いですね!」
「おい、おい......!」

てへっと良いながら少し疲れてきただろうご主人に種明かしをするために分かりやすく線を書き入れる。ご主人は何となくどういう類いか察したのか、その場に立ち止まって額を押さえていた。ようやく出来た二色の線を書き込んだ地図をご主人が見やすいように掲げる。
何と衝撃の事実!道を一本間違って結局ぐるりと一周しちゃってました、てへぺろっ。がくりとカメラからの外が急に落ちて一瞬あまりのことにご主人が端末を落としたのかと危惧したがそういうことは一切無く、地図を退けて四角い窓からご主人を見れば踞っているようだった。というか地面に手を付いているから土下座でもしそうな体勢だ。まあご主人の体力と日頃の運動量にしては大分歩き回った方だ。

「ご主人が女の子を馬鹿にしたから天罰ですかね」
「お前が引き当てる天罰は質が悪いな......!」
「いやいやご主人のくじ運ですって。まあまあ、散歩と軽い運動にはなりましたね、思ったよりご主人の反応も良い感じなので普通の道通りましょうか」
「くそ、歩き損かよ......!」

当初の目的としては全くそういう訳でもないけれど反応が面白いし何よりさっきの発言はまだまだ私の中で尾を引いているので黙っておくことにする。何ともまあ可哀想な人だ。ぶつぶつ文句を言う姿はもう立派な不審者かつ頭の可笑しい人で何とも言えない。むしろ笑える。
くっくっと落ち込みまくっているご主人に気付かれないように肩を震わせて笑い、道の先のお店を調べる。いっそのことお土産に服でも買わせて皆さんに「知ってました?服を贈るのって脱がせたいって意味なんですよ!」とか言ってみたい所だけれどそんな財力が残念ながらご主人には全く無い。これだから金遣いの荒いご主人はと嘆く。まあ貯めたところで本業もこなさないヒキニートのご主人に与えられるお小遣い、こればっかりは仕方無い。自主的に自宅のなんちゃらと若干でも様になる言い方をしようとヒキニートはヒキニートだ。引きこもり職無しコミュ障ニートでどうしようもない人だ。

「急に哀れんだ目をすることに込めた意味は」
「ご主人ってどうしようもないですね!」
「お前は毎日毎日オレの傷抉って楽しいか?!」
「楽しくなかったらしないに決まってるじゃないですか!頭可笑しいんですかご主人!」
「少なくともお前より正常だ!」

またまた暴言入りました。これは一度がつんと痛い目を見た方が人類、引いては世界平和ですね。とは言っても今までの痛い目で懲りないご主人はそれはそれでマゾなのかもしれない。うわっと思わず引けばご主人が何故か無言で電源を切ろうとした。この察しの良さを良い方に使えないのがこの人の特徴と言えば特徴なのだろう。

「で、お土産どうします?」
「色々あって考えてなかったな」
「ご主人は今誠心誠意働いている人の敵ですね。社会にはもっと辛いことがあってですね、ついでにこれはとある社会人たちの愚痴を......」
「さあ、オレはまだ十八だからな」

顔を背けてこっちを見ないご主人はだらだらと冷や汗が流れているのを自覚しているのか。くす、と私が笑えばご主人はぴくりと肩を震わせ、少しの期待を顔に点らせてこっちに視線を戻し、固まった。
良い顔ですご主人と一枚ぱしゃり。画像をそっとエネちゃん秘蔵フォルダ、別名恥ずかしい写真炸裂フォルダに保存した。ついでに私が開いたページは涙無しには読めない学生苛められっ子たちのネットへ向けた切なる助けを纏めたページ。

「ご主人顔色が悪いですよ?」
「ごめんなさい」
「ええ?突然どうしたんですかご主人」
「いや本当にすいませんでした」

また顔を背けるご主人の目には確かに情けなく涙が溜まっていて私としては大満足の結果だった。しかし骨がないですご主人、まだまだあったのに。折角探してきたページは取り合えず消してご主人を呼ぶ。警戒しているのか全くこっちを向かないご主人にそっと秘蔵フォルダと言えばバッと勢い良く気持ち悪い顔がこっちを向いた。

「あ、団長さんからメールですよ」
「キドから?」
「お使いですね〜、生クリームと砂糖を買ってきて欲しいって。お昼に間に合わなくても良いらしいのでお菓子でも作るんじゃないですかね」

確かちょっと道は反れるけどこの先を少し曲がればすぐにスーパーがあったはずだと地図に書いて示せばご主人はそこに真っ直ぐ向かっていく。面倒臭そうなのはずっと変わらないがぐだぐだ言わなくなったのは成長だ。

「でもお土産にお菓子はダメとなると、いよいよ選択の幅が無いですね。無難に茶葉でも買っていきます?」
「そう言えばマリーが林檎?だかなんだか欲しいって言ってたな」
「マリーさんのお土産みたいになっちゃいますけど、結局皆さん飲みますし、アップルティーですね!」

おー、とダルそうな声。しかしさっきと違いアジトには着実に近付いている上にお昼もそろそろだ。コノハたちも今日はアジトに居るらしくお昼が大変だと溢す文章を見て笑う。

「良い日ですね〜」
「いつも通りだろ」

ふむ。少し考え込む。いつも通りと言ったご主人と最悪だなと溜め息をついたご主人。これはこれは良い傾向どころか目に見える良い雰囲気ですね。にこにこと笑顔で画面に居れば、ご主人は不思議そうに私を見て私の頭を指で軽く叩く。どうしたと聞いてくる声に何でもないですと答えれば、ご主人は首を傾げながらも言及はしなかった。

「ご主人、また散歩しましょうね!」
「今度は道間違えるなよ」
「このエネちゃんを信用してください!」
「どっちの意味でだ」

ぱちっと可愛さ満点でウインクして答えれば引きつり笑いのご主人の顔が見えた。けどエネちゃんを誤魔化せませんよご主人。このぱっちりお目めには全てが赤裸々丸裸。

「楽しいですか?」

にししと笑いかければ少し目を見開いたご主人は今度は私の頭を撫でてちょっと呆れたように笑った。素直にそうやってれば良いんですよ。
昔と比べるとずっと良くなったじゃん、くそ生意気は相変わらずだけど。ね、嫌いだったものも結構良いもんでしょ、如月シンタロー。
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