6 | ナノ
シンタローと皆

もう良いかい。
もう良いよ。

かくれんぼをしている声が聞こえた。神社の鳥居の向こう側。赤い鳥居は夕日で赤く見えるが、所々表面が剥げている。青空の下で見ればきっとくすんだ色をしているんだろう。
きゃっきゃあとはしゃぐ声。高い声は暑さを感じていないんじゃないかと言うほど楽しげで元気だ。
ふら、と足が石畳に向く。何をしているんだろうかと思う。それでも俺はフラフラと登っていく。
鳥居を潜って石畳を登って、ざわざわ揺れる林を聞きながら徐々に近づく。彼岸花が近くに咲き、風に揺られてふらふら不安定だ。
子供の声が近くなって、ふと足を止めた。あれ?と思う。
蝉の声が聞こえない。わんわんサイレンのように聞こえる声が聞こえない。夕焼け小やけが遠くで鳴る。
後ろを向くと、夕焼けがじわりと向こう側に溶けている。ついそっちに行こうと足を一段下ろすと、子供の声が一際高く大きくなった。
そう言えば、俺はなんでここに居るんだろう。
ポケットを探るが、常に持ち歩いているエネの居るケータイは無い。首に引っ掻けていたイヤホンがかつんと落ちた。
きゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあ。
なんで俺はここに居る。
後ろからそんな思考を咎めるように声が響く。じわじわ溶ける夕日に焦る。ぽう、と灯籠が灯りを灯し、冷や汗が首を伝った。
なんでこんな時間に帰ってないんだろうこの子供は。
きゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあ。
なんでこの声は一つだけ。
思い至った途端ぐいっと後ろから服を引っ張られた。こわい。
ぐいぐいぐい。何度も引っ張る手が後ろを向くように催促する。頭がわんわん鳴った。
しばらくして諦めたように離れた手にホッとしたが、次に手を取られた。こんな夏に不釣り合いな程冷たい手にびくりと肩が跳ねる。しまったと、後悔する。
きゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあ。
耳元で聞こえる声。大音量のそれに体が震える。頭が痛む。強く強く握られる手が痛くて堪らない。振り払いたいのに体が金縛りに合ったみたいに動かない。
握られた手に何かを触らされる。ぬとりと滑ったソレに鳥肌が立った。何を触らされているか分からない事も気持ち悪い。

「シンタローくん」

懐かしい声に呼ばれる。知ってる声だ。でも振り返りたくない。なのに、体が勝手に振り向いた。何かが視界に入る。
子供。
それを子供と言えたのは辛うじて残っていた服。それが無ければぐちゃぐちゃにされた肉片。
片目は潰れ、頬はでろんと皮が剥がれて辛うじて繋がっている。鼻は無くなり骨が見え、脳がでろりと垂れている。体液と血が混じって薄い赤になった液体がぼたぼた地面に落ちていた。歯は全部無く、舌が千切れたようで無惨だった。
俺が触っていたのは、子供の口。
噛もうとしているのかがちゅがちゅと口を動かす子供。だけど歯が無いから噛めない。
吐きそうになる。気持ち悪い。
噛むのを諦めた子供は頬を掻く。ぐちゅぐちゅと頬を抉るその行為に、がたがた震えが止まらない。
きゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあ。声が聞こえる。
その子供の後ろにまた子供が居た。きゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあ。首がない。きゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあ。切断された首から声がきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあきゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ聞こえる、声がぎゃああああああああああああああああああああああああああ悲鳴に助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて変わって。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

「シンタロー!!」

肩をぐいっと引かれて、後ろを向かされた。
後ろに居たのは、カノさん。メカクシ団の皆だった。
確認した途端息がぜえぜえと荒くなる。急いで周りを確認すれば子供は居なくなって、そこは神社でもなんでも無かった。
ドッと汗が吹き出る。さっきの光景が鮮明に網膜にこびりついていて吐きかけた。口の中が酸っぱい。

「うわ、すごい汗っスよ」
「すいませ、あり、がとう、ございます......」

がくがくと体が震えて息も過呼吸に近い状態だが、なんとかお礼を言った。助かった。顔をタオルで拭かれる。

「ちょっとご主人!熱中症ですか?!」
「大丈夫かシンタロー」
「お兄ちゃん?」

心配する声が聞こえる。しかし俺は別の事に意識を取られた。
真っ赤に濡れた手とべたべたと手形が幾つも付いた腕。手のひらを開ければ、彼岸花の花びらが落ちた。

「好かれたね」

コノハが一言呟いた。
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