4 | ナノ
セトシンとカノとモモとキド

片耳に直接流れる音楽を聞きながら、俺はお茶菓子のクッキーを手に取る。レモンクッキーと書かれたそれは袋を開けた瞬間仄かにレモンの香りが漂った。

「どうっスかコレ」
「クッキー?上手いけど」
「そりゃ良かったっスけど、音楽の方」

ああそっち。流れる音楽はぷつりと途中で終わり、イヤホンが耳から抜かれる。その時わざとなのか耳を触っていく手に肩が揺れた。

「......びんか、あだっ!」

とんでもない言葉を漏らそうとしたセトの脇腹に肘を食らわす。何を言おうとしているんだお前。
ぷるぷると脇腹を押さえて震えるセトの手から音楽機器を取る。ジャンルの幅広くないか。

「良いと思う、ゆっくり聞ける音楽は好きだ。あくまで俺はだけどな」
「良いんスよ、シンタローくんが好きってので」
「......なんか」
「?」

首を傾げるセトにクッキーを投げつける。顔面にぺしりと当たったクッキーはそのままセトの膝にぽとりと落ちた。地味に痛そうにしているセトに内心ざまあみろと言っておく。

「なにがなんかなんスか」
「......」

クッキーを投げられて聞かれたくないんじゃないかとか思わないのかコイツ。もう一個投げようとしたらあっさり手から取られてしまった。にこっとした顔に、ああわざとかとムカつく。ムカつくから頬を引っ張った。おお、見事に伸びねえ。

「いひゃい、いひゃいっひゅ!」
「おおそうか、よっしゃ」
「ひょっろ!あーもう、痛いっス!」
「あ、なにすんだ」

手首を取られて無理矢理頬から手を離される。赤くなっている頬見て少し気は晴れたが、邪魔をされると気に食わん。

「蹴って良いか?」
「なんでそうなったんスか......」
「いや、イケメン爆発支援組として、な?」
「な?じゃねえっスよ。なんスかその可愛い笑顔」

可愛くねえよ。
イラッときたので無言で何度も蹴ったら取られていた手を後ろに倒された。それに釣られて体も倒れる。ソファに背中を受け止められてセトを見上げた。足蹴しにくくなった俺は諦めて蹴るのを止めてセトを睨む。

「卑怯な手を......」
「無言で蹴ってきたじゃないっスか、あれ痛いんスよ」
「俺は痛くない」
「そりゃシンタローくんは蹴ってる側っスからね!」

泣き言言うなよ、男だろ。
情けない顔で俺を見るセトに、手をぱたぱたと動かした。いつまで掴んでんだ。訴えるように動かしたが、まるで効果がない。拗ねたように俺の目を見るだけ。

「セト?」
「足蹴されて痛いんスけど」
「鍛え方が足りないな」
「シンタローくん俺のバイト全部体験する「すまん」......早いっスね」

そんなことしたら俺死ぬぞ。主にパソコン的な意味で。もっと言うと体力的な意味とコミュショー的な意味も付け加えて。俺お前みたいにイケメンじゃなくヒキニートですから。あはは、ワロエネエよ。
呆れたように俺を見るセトにまあなと少し誇らしげに言えば、更に呆れられた。うん、俺も誇ることじゃねえとは思う。

「シンタローくんは体力つけた方が良いっスよ......」
「日々体力を上げてる俺になんて暴言......」
「ゲームっスよねそれ」
「なぜバレた」

てかそろそろ離してほしい、ちょっと痛い。視線をやれば、やれやれと溜め息をついて離された。それも様になるとか、イケメン爆発しろ。

「そんなに何度も言うほど良い顔でも無いっスよ」
「逆ナン必須男子が何を......お?」
「声に出してるっス」
「え、ニジオタコミュショーヒキニートだがどじっ子だぜ?なにそのステータス要らん」
「いやいや、ヒキニートとどじっ子は共存出来るっスよ」
「うわあ......、マリー廃乙......」

やけにドヤ顔で言い放たれた言葉に引いた。誇らしげにすんなマリー廃。うぜえぞマリー廃。

「ねえ、なんでも良いからさ、ナチュラルにイチャつくの止めろやバカップル」
「イチャつく?」
「バカップル?」

向かいのソファにいるカノさんの珍しい乱暴な言葉に俺たちははあ?と顔を見合わせた。

「無自覚って怖いですねキドさん......」
「そうだな、公害レベルのくせにな......」

キドさんとモモにも何かを言われたが、結局何がとはっきりとは教えられず、俺たちはしばらく首を傾げた。
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