59 | ナノ
シンカノ♀

欲しかった。ちょっと強引過ぎたのは自覚している。けど、欲しかった。
くはっと息を絞り出す。ぎゅうっと目を閉じて肉を割り開く男を受け入れた。かた、と足が震えて、痛くて。それでも勝る満足感は大きかった。
女らしいかと言われると確かに女の子ではあるけど、魅力的なとかそういう字が一切見当たらない体であるのは知っている。胸も小さいし、色気もないし。可愛らしい態度でも取れたら変わるのかなと思わないでもないけど、人をからかって弱味を握って笑う女にそういうのも無いだろう。

「う、んっ......!、ひ、ぁ」

ぐち、と緩く動かれて中が擦られる。赤い服を思いっきり掴んで、僕より大きいけど男らしくはない肩に顔を埋める。恥ずかしさとはしたなさと罪悪感。ぜえっと激しい運動をした訳じゃないのに汗を作って息を荒くするその姿に胸がぎゅうっと捕まれた。甘えるように肩に擦り寄れば、動きを止めて髪を掻き上げ目で問い掛けてくる。優しい、苦しい。
いっそぐちゃぐちゃで前後不覚になるまで追い立てて強引にしてくれたら良いのに。ごめんねと一言で良いのに、声が出なくて口が震え、結局声は出なかった。はくはくと声無く口を動かしたことが気になったのか、ジッと僕を見て待ってくれる。優しい、大好き、苦しいよ。
好き。

「うご、いて......、」

心配そうな目に唇を噛む。赤い目に気付かれないようにと一度目を伏せてシンタロー君を見た。きっと笑ってるように、慣れてるように、見えてるはず。
薬を盛っただけ。いつも以上に側に付いて回って、いつも以上にからかって、いつも、。油断して涙が落ちかけた。
そっと言い訳を繰り返す。
だって気付いてくれないから。だって欲しかったから。だってせめて体くらい。だって、初めての相手くらい、好きな人が良い。
抱き付くように服を掴む。早くと言えばシンタロー君は少し苦そうに顔をしかめて動いた。片手が大して大きくもない乳房を弄る。童貞って言ってたっけ、じゃあお互い初めてか。

「ぁ、ん......、あっ」

これでお仕舞いで良いよ、避けられても良いから。ごめんねシンタロー君。
ゴムなんて最初っから用意してない。興奮してても渋ったシンタロー君を無理矢理言いくるめてそのまんま。ぐち、ぐちと擦られる音と僕の喘ぐ声。じわじわとなぶるような気持ち良さに目を閉じた。処女って、バレてないかなあ。

「っ、ぁ、かの」

いつもより低い声が耳元で僕を呼ぶ。ぞわぞわっと走った声に、脳が一瞬だけ、痺れる。答えるように服から手を離して首にしがみついけば、ぴくっとシンタロー君の肩が一回跳ねた。これぐらいなら良いよね。甘えてみたいし、これで最後だし、もう。
もう、希望もない。
早くなる動きにどろどろと馬鹿になっていく。ずきずき痛むような快感。腰に両腕を回されてほとんど密着した体勢にときめく。恋人同士みたいだね、あーあ、やっぱり大好きだよシンタロー君。最後に馬鹿な僕はキスって我が儘を実行してみて、思う。
孕まないかなあ。

「な、何してるの、シンタロー君」
「......水飲んでる」

目を覚ましてケータイを確認する。寝惚けて霞む自律神経狂って痛い頭にはっきりした時間は届かなかったが、取り合えず昼を越えている時間。隣に体温なんて皆無で、まあそんな物だと起き上がって固まった。
なんで普通に僕の部屋でパソコンしてんの。
しかも明らかに水じゃなくてそれコーラだよね。てか服もちゃんと着てるし。え、なんで居るの。
まさかの事態に少し泣きそうだったのに涙は引っ込んだ。立ち上がって僕の前に立ち、要るかとペットボトルを目の前に差し出してくるシンタロー君。

「なんで、居るの......」
「......」

呆然としたままペットボトルを受け取り、思わず素直な感想を呟いた。不機嫌そうな顔をするシンタロー君と目が合う。暫くの硬直状態の後、がしがしと乱暴に頭を掻いたシンタロー君はいつも着ているジャージを僕に投げてノートパソコンをぱくんと閉じた。

「オレだってそこまで鈍感じゃねえよ」

まるで拗ねたような声が呟かれ、むすっとした顔が僕の顔にちか、づ。い、。

「なに、してるの」
「悪かったな、慣れてなくて......」
「ちが、違くて、そうじゃ」

そうじゃなくて。
ぼろっと油断していた証が目から落ちた。そうじゃなくて。震える声で繰り返す。手の中の冷たい液体の容器を握り締める。ばたばたと大きなそれは落ちていく。
なんでこんなことするの。
ぼろぼろ涙が落ちて弾けて。別に一回で良かった、これだけでもう幸せだから、避けられても良いから、一回だけ、抱いて貰ったら、。

「な、んで、っう、やだ......っ」

やだじゃないよ、嬉しいよ。
口から零れた言葉を否定しながら、喉まで窒息しそうな物を溜めていく。ふとすればそれは甘さを孕んで溢れてきそうで怖くなる。

「無駄に、頭良くないからな......。考えてみたんだよ......色々」

嗚呼本当に、無駄に頭が良い。それだから肝心のことに気付かないんだよ。どうしてこれに思い至ったか分かっても、どうしてこれをするまでに僕が悩んだか、絶対に分からないんだ。
嗚呼本当に、。

「シンタロー......くん、に、言って欲しいこと、っ、ある、んだけど、」
「......、」
「ね。分からない、?」

せめてもの仕返しをしておきたい。その無駄に良い頭を使って、考えてよ。きっと一生この時の僕の苦しさなんて分からないんでしょう、シンタロー君は。
苦そうな顔をして口の中で喉の奥で言葉を転がすシンタロー君をジッと見れば、諦めたように悔しそうにため息を付かれた。そして仕方なさそうに、小さく微かに、笑う。

「取り合えず、」

目の前がちかちかする。ああ良いのかな、なんて。
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