56 | ナノ
セトシン

「あ、いらっしゃいシンタローさん」
「用事?ああ、そうそう、そうっすね。俺が呼んだんでしたね」
「座ってください、お茶淹れますよ」
「忘れてたと言うか、ちょっと嬉しいことがあって。すいません」
「え?......ひ、酷いっすよ。俺は元からこんな顔っす」
「ちょ、カノみたいとか止めてくださいって!」
「あーはい、用事っすね。シンタローさんホント家好きっすねえ」
「悪かないと思いますよ?まあ俺が寂しいだけで」
「......シンタローさん、あの、ちょっとは俺の言葉を聞いても」
「はいはい用事っすね!つれないっすねえ......」
「用事って言うか、用件っすかね」
「そうっす。シンタローさん、最近体調悪いって言ってたっすよね」
「ストーカーじゃ無いっすよ?!キサラギちゃんが心配してたのと、俺の前で気持ち悪いとかよく言うじゃないっすか」
「無意識っすか、嬉しいっすねー」
「睨まないで欲しいっす......」
「分かりやすいっすよー。だって今も顔真っ青だし、吐きそうっすか?」
「いやさっきから口に手を当ててるっす」
「ベッドで休みます?」
「良いんすか?いやシンタローさんがそういうなら良いっすけど」
「あ、紅茶どうぞ。マリーみたいに上手く淹れれ無いんすけどね」
「、あ、そうっすか......」
「いや、だってシンタローさんが不意打ちでそんなこと言うから」
「う、指摘するのは、止めてくださいっす......」
「あついっすね......」
「あーあー!はい!話に戻すっすよ!シンタローさんも話を逸らさないで欲しいっす!」
「露骨に舌打ちしないでください。体調どうなんすか?」
「へえ、それは良かったっすね」
「え?」
「なんでって、そりゃあシンタローさんが元気なら嬉しいっすよ。嬉しいと笑うって普通じゃないっすか?」
「......、」
「シンタローさんってたまに勘良いっすよね」
「わ、わわ、クッション投げないで!」
「いやツッコミ所はそこっすか......。いつも鈍感じゃないっすか」
「え、ええ......、シンタローさんが、そう思うんなら、良いと思うっすよ?」
「......さっきから脱線しまくって進まないっすねえ」
「わ、分かったっす、落ち着いてシンタローさん。......じゃあ、はい、本題に入るっすよ」

「俺、鳥なんすよね」

「......信じてないっすねえ」
「突拍子無いもんすよ、世界って」
「あいたた、真面目に言ってるっすよ!真面目に!」
「メドゥーサだって居るんすよ?鳥人間くらい居ても可笑しくないっすよ」
「いや飛行機とか作ってないっす。そういうんじゃなくて動物の」
「羽根なんて無いっすよ」
「いや、四月一日じゃないっすからね」
「証拠っすかあ、うーん」
「その前に取り合えずちょっと話をね」
「まあまあ、シンタローさんにも関係あるんすよ」
「いや本当っすよ、そんな顔しないで」
「取り合えず話して良いっすか?」
「鳥って言っても鳥が化けてとかそういう妖怪の類いじゃないんすよ」
「なんて言うか、俺みたいなのを作る研究所が合ってね」
「俗に言うキメラっすかね」
「そうそう、そういうのっす。人間と鳥類を混ぜ合わせれば繁殖はぐっと多くなり少子化は無くなるとか、鳥類の渡りは無くなるとか色々言われたっす」
「非現実的。正にそうなんすけどね。まあ本当は鳥類の処分に困ったんすよ、研究所」
「絶滅した鳥とか居るじゃないっすか」
「そうそう、朱鷺とか」
「それのレプリカをね、成功させてしまったんすよ」
「色々居たっすけど、全部非合法で」
「さすがに隠しきれなくなっちゃって。バレるわけにはいかないもんだからどうにかしてそれを処分しないといけない。けどその処分だって容易じゃない」
「それを発表して、人間に適応出来るようになったら、それこそ大変っすよ。自分じゃないのに自分が居て、しかもそれを兵隊に使ったら、あちこち戦争だらけでパニックになるっすよ。もしかしたら誰かをレプリカとして生き返らせることも可能になれば、それは、。まあ、それは良いんすけどね......」
「お金をかけたそれを簡単に燃やそうと思い立てるほど研究所も金があったわけじゃなくて。むしろ無かった方っすね。それでもうどうしようもないってなったんすけど、」
「そこからはあんまり知らないんすよ。取り合えず研究データを読んで、どれだけ死んだかが問題だったんすよ」
「孤児院からね、引き取った子供を使ってたんす」
「俺もそう。孤児院から出されて注射されて知らない間に鳥と一緒」
「羽は日に当たれば当たるだけ人間の肌に近く色を変えて編み込まれて」
「ぐちゃぐちゃに擂り潰された記憶がね、同化して俺の記憶にあるんすよ。飛べない雛も、成鳥も、全部全部痛いと泣けば頭を先に潰されたっす。暴れたら羽根を切られて」
「拒絶反応が一番大きくて、俺は早々に施設の隅で荷物みたいに置かれてたんすけど、どうやら能力が大きく関わっていたみたいでね」
「精神が壊れて廃人になるかもしれないって言われたんすけど、俺持ちこたえちゃって。能力でいっつも見てきたからっすかね」
「気付いたら成功例は俺一人」
「誰にも気付かれなかったんで、逃げ出す際に幾つかの研究データを警察所の前に放置してきたんすよね」
「それで俺は孤児院に帰って、」
「......信じられないっすか」
「シンタローさん、結構大事なことを後回しにしてるっすよ......」
「シンタローさんとの関係っすかあ」
「夫婦?」
「ふざけてないっすよお......」
「ああ、そっちっすか」
「ええと、ここで厄介だったのが一つ合って」
「俺の場合失敗することを前提に作られていて、雌とか雄とか関係なく俺に入れられちゃって」
「なんて言ったら良いのやら。鳥類って卵生なんすよ。人間って胎生じゃないっすか」
「まあまあ聞いて欲しいっす。だから俺種二つ持っているんすよね。鳥類の」
「中々動物って上手く出来てるんすねえ」
「拒絶反応が意外と今も響いてるのが難点っすか」
「ちょっと知り合いに科学者が居て、頼んじゃったんすよ」

「どうにか男でも妊娠できないかって」

「面白そうって理由で受けてくれたんすよねー、って、シンタローさん大丈夫っすか?」
「あ、まだ話終わってないっすよ。それにもう無理っすよ、この頃体調良いんすよね?キサラギちゃんやエネちゃんに体調良さそうでって聞いたときは嬉しかったっすよ」
「おっと、やっぱりまだちょっと安定しないっすね。ふらふらっすよ」
「ああ、そうそう、続きっすけど。どうやら俺の体もね、都合が良かったみたいで。あとはシンタローさんの体だけだったんすけど、薬盛ってるのがバレなくて良かったっす!」
「たまに頭痛薬って出したのもそうなんすけどね」
「シンタローさん、気持ち悪いんすか?」
「顔真っ青で今にも吐きそうっす、大丈夫っすか?」
「......ねえシンタローさん、俺、今すっごく嬉しいんすよ」
「中に出して、シンタローさんが孕むのを待つのもね、楽しかったっすけど」
「ふふ、シンタローさん可愛いっすね」
「シンタローさんは殺せないっす。産まれてしまえば殺せないんすよ、シンタローさんは」
「気持ち悪い?つわりっすか?」
「シンタローさん、なんで泣くんすか?そんなにしんどいんすか?」
「死にたいなんて言わないで、シンタローさん」
「シンタローさん」
「大丈夫っすよシンタローさん」
「シンタローさん」
「シンタローさん、」

「幸せになりましょうね、シンタローさん」
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