3 | ナノ
カノマリとセト

カノがマリーを見る目がどんな意味を持つか知ってる。そこまで俺は馬鹿じゃないし鈍感でもない。
マリーがカノを見る目の意味も、俺は知っている。
気付いてないのは本人たちだけなんて、ああ、なんて焦れったい。

「か、か、カノの、馬鹿!!」

顔を真っ赤に俺の横を走って行ったマリーに、俺は視線だけ寄越す。こういう時追いかけないのかと聞かれて、男の嫉妬って見苦しいっスからー、と一度キドに溢した事を思い出す。バイトに行く前に無駄な体力を使いたくないのもあるが。
背中の方から聞こえたばったんと大きく閉じられたドアの音に、俺は溜め息をつく。ソファに座ってもう一度、今度はわざとらしく溜め息をついた。ぴくりと隣で反応する気配がする。

「僕の横に座んな、狭い」
「......ああ、体格が目立つっスね」
「煩いよエセ優男」
「しばかれたいんスか、ドチビ」

イラッとして睨み合えば、カノがあっさり顔を背けた。らしくもなくぶっすーっと不機嫌そうにしている。
目付きが悪いからって常に笑うことを心がけている癖に、マリーが絡むとすぐコレ。最初っから苛めなきゃ良いものを、それが出来るほど大人でも無い子供だ。
知らず知らずに溜め息をつけば、ぎろっと睨まれた。こっちとしては原因が分かるだけ呆れを感じる。

「また何言ったんスか」
「......別に」
「......じゃあマリーに聞いてくるっス。ついでに優しく慰め......、なんスかその手」

立ち上がろうとした俺の服をがっちり掴むカノは、顔を背けたままだが表情を苦く歪ませているのだろう。手に取るように分かるカノの表情に、仕方なくまた大人しくソファに座った。
腹黒野郎とか溢したので殴っては置いたが。

「で?」
「......可愛いって言っただけ」
「それだけであんな罵りがマリーから出るわけ無いじゃないっスか、馬鹿っスか。どーせ恥ずかしくなって余計なこと付け加えたんスねー、バーカ」
「腹黒の癖にエセ優男演じてあたかも無害そうにしてる男よりはマシだよ」
「それでマリーになつかれてる俺に嫉妬している見苦しい男は誰っスか」

別に無害にしてる訳じゃないのに心外だ。
言い返せばカノはぴたりと口を閉じた。どうせ言い返す言葉が見つからないんだろう。自分でも自覚している事だろうから。

「したくてしてない」

ぽそっと、聞き逃しそうになるほど小さな声で、カノは言った。なるほど、恋は理屈じゃない、か。青い。
まあ年変わんないけど。

「......なんでも良いっスけど、マリーには謝ることっスね」
「......分かってる」

拗ねて遅く返事をするカノに、俺はバレないように小さく笑う。恐らくバレてはいるんだろうけれど、それでもバレないように。

「あと、勢いで告白でもしたらどうっスか」
「っ、ぐ、げほっごほっ......こほっ!なんでそうなるのさ!」
「うわ、きたな。こっち向かなくて良いっスから、むしろ向くな」
「相変わらずムカつくねこの野郎......!」

カノが麦茶を飲んだ瞬間を見計らって爆弾を落とせば、カノは予想通り気管に麦茶を入らせ、ごほごほと咳き込んだ。
ムカつくと言いながら口を笑みの形にしているカノに、ようやく調子が戻ったかと立ち上がった。
まあ、これぐらいは許してほしい。

「ヘタレなカノには無理っスね、無理難題、越えられない壁、高いハードル。身長の小ささって心にも影響するんスね......」
「哀れんだ目をすんな根性曲がった詐欺師、マリーにバレろその本性」
「愛情表現小学生が何か言った気がするっスね、まあ小学生に何か言われても......」

可愛いあの子が好きな人。大事な幼馴染みが好きな人。この複雑な心が、少し毒を吐いたって、許してほしい。
まあマリーに毒なんて吐けないんっスけどね。
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