52 | ナノ
シンキドとメカクシ団

「キド誕生日おめでとー!」
「マリーと俺で飾り付けしたんすよ!」
「頑張ったんだけど、どうかな......!」
「団長さん、詰まらないものですが」
「ラッピング、可愛く出来たとぶふぅっ......!お、思いませ、あっはっは!ひー可笑しい!」

朝起きて、年末の大掃除で片付けた綺麗なリビングのカラフルに変わり果てた姿に呆然とした。さっきからくらんくわんと脳へと強い驚愕と共に鳴り響くクラッカーの色様々なテープと火薬の臭いの余韻。去年まではささやかだった俺の誕生日はアジトの人口がグッと増えたことによってこんなに鮮やかになってしまった。
呆れれば良いのか嬉しがれば良いのか、しかしそれよりも目の前に出されたプレゼントらしき物に俺は酷く困惑していた。後ろの方にコノハとヒビヤを見付けて助けを求めれば、コノハは何のことか分かっていないのかキョトンとしてるし、ヒビヤは俺と視線をぶつからせることもしなくなった。そんな雰囲気から伝わる「無理です」と言う言葉を感じ取れないほど俺は馬鹿じゃない。馬鹿じゃないが、あんまりだと思う。
非常に困った事態になっている。
エネが腹を抱えて大笑いしているのを睨み付けながら、両脇からセトとカノに押さえ付けられた黒髪。ぐるぐるとガムテープが巻かれ、その上から赤いリボンが可愛らしく綺麗に結ばれていた。おまけとばかりに首にもリボンが結ばれ、頬にはマジックで「一日どれい」とかなり個性的且つ前衛的な字で書かれている。漢字が書けていないところから多分キサラギなんだろう。口にはべったりとガムテープが貼られ、完全に如月シンタローという人物はプレゼントという枷に巻かれていた。

「いやー大変だったよ、捕獲」
「シンタローさん説得しようとしたら悉く負けちゃって、結局力付くになったんすけど、傷は無いっすよ!」

ああ、伊達に頭良くないもんな。どんな言葉も抜け道を見つけられてしまったんだろう。あと捕獲って動物か。色々言いたいことは貯まりに貯まっていくがそれによって喉が震えることは無く俺はじっとシンタローをみる。
しかしそれにしても、すごい状態だな。
はあ、と浅く息をついていつもの赤ジャージじゃなく普通の私服であるシンタローの前にしゃがんだ。綺麗にふんわりと結ばれた赤いリボンをほどき、ガムテープも剥がしていく。肌に直に巻かれたわけでは無く服の上からぎちぎちに巻いてあるようで、これじゃあ確かに抵抗できないと呆れた。シンタローの非力さにとかそんなことじゃなく、団員たちの強引且つ実力行使の行為に、だ。大体説得がダメだったなら諦めるという選択肢があるはずだ、わざわざこんなにしてシンタローを不機嫌にさせてまで、こいつらは何をしたいんだか。こんなに怒っている相手に「じゃあ遠慮無く奴隷で」とか言えるわけがないだろう。
エネの残念そうな声がスマホからマナーモード時の振動音と共に俺へ向けられるが、腕をべりっと解放すればシンタローは勝手に足のリボンを乱暴にほどきガムテープも剥がす。ガムテープの粘着面を見れば真ん中に二センチ程度のビニールが貼ってあり、念入りなことだと頭が痛くなる。全ての拘束が解けたシンタローは、しかし口に貼られたテープだけ外さない。まさかと団員へ顔を向ければキサラギが目を逸らしながらカノの後ろへと少し隠れた。
すうっと息を吸う音がして、一気にばりっと剥がされたテープ。の、したの唇は、皮が剥がれて血が流れた。

「キサラギちゃん、用意したテープ......」
「ま、間違って普通の貼っちゃって......」
「あー、どうりで口だけでも外そうって言ったときシンタローさん思いっきり嫌がったんすね」

お前らなと怒鳴りたくなる。シンタローは顔を歪めて口を押さえ、洗面所へと向かっていくが、誰も追わずにへらへら見送る。マリーはせっせとガムテープとリボンを片付けに部屋に消え、さあてと言うように残った他の団員が俺へ向き直った。

「全く、ご主人ったら往生際が悪いですねえ」
「いや、あれ往生際云々より拘束が嫌だったんでしょ」
「団長さん、バカ兄はほっといて、これどうぞ」

口ではそう言いながらシンタローが去った方を一回見たキサラギは、すっと絵本の夜みたいな紫色の綺麗な二つ折りのカードを手渡してきた。受け取って顔を上げれば、にこにこと笑うキサラギ。戻ってきたマリーも俺の手にあるカードを見てぱあっと顔を輝かせた。そんな美少女二人の可愛らしい笑顔に押されて俺はそっとそのカードを開ける。
『Happy Birthday』と銀の字で大きく書かれたそれにほわっと暖かいものが体を包んだ気がして小さく笑い、そして下に続く文字にその笑みは固まった。ぎしりと音でもしそうな気分で、俺は急いで二人へ顔を上げて、後悔。

「可愛くしてあげますよ」
「安心して身を委ねてくださいね」
「キドのために頑張るね!」
「私、一肌脱いじゃいますよ!団長さん!」

いつの間にかヒヨリまで増え、両腕を捕らえて四人が俺を部屋へと引きずり込む。誰か、と助けを求めるがセトとカノはいってらっしゃいと手を振り、コノハは論外。唯一頼りになるはずのヒビヤでさえヒヨリの一睨みに沈黙して最後の手向けか虚ろな目で俺を見送った。
敵しか居ないと早々に悟り、なんとか抵抗へと繰り出そうとする。しかしそれは可愛らしい女の団員たちという手加減の対象によって呆気なくあっさりと阻まれた。これがカノやセトだったら遠慮は無かったのにと歯痒く思う。第一にして大事な大事な可愛い団員であり手の出せない女と言う時点でもはや勝敗は決している。
ずるずると引きずり込まれたマリーの部屋にはどこから用意したのか複数の可愛らしい洋服がずらっとベッドを綺麗に埋め、机の上には複数の化粧品やら髪止めやらアクセサリーやら。靴や鞄まで複数個置かれ、俺はさあっと青ざめる。

『お世話になっている団長さんへ。五時までシンタローさんと帰ってきちゃダメですよ』

可愛らしい女の子っぽい丸い文字で、恐らくヒヨリによって書かれた内容。この状況。周りのきらびやかな惨状。目の前の可愛らしくも何だか不穏な雰囲気を纏う団員。エネがスマホの中で出してくるなんたらスタイルだのなんたら系なんたらだのの写真。後ろは当然出口は無いし、無理に払えないマリーが俺の腕を掴んでいるために目隠しは出来ない。退路は、無い。
誕生日って、なんだ。
思わず自問した声に答える前に、俺は、。

「さあ、可愛くしますね!」

可愛い団員に天使顔負けの笑顔を向けられた。
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