51 | ナノ
ケンセト

石油の重たいストーブが空気をむしゃりと食って熱を吐く。それはもう部屋全体に滞りなく行き渡り、空気を薄くさせてぼうっとするような、酸欠に近い熱さになっていた。こふこふと風の音は止まず、結露で汗だくの窓は時おりがたこたりと震えている。ぎし、と古い安物の黒い人工の皮を纏った回転椅子が俺の体重に泣き、その音にびくりと過剰に肩を揺らす踞った物体に、俺はそっと笑んだ。
ぎゅうっと必死に肩を抱いて、血が回りすぎて赤くなった顔は泣きそうな、そんな一歩手前をぎりぎりで歩いている表情。相変わらず加虐心煽る顔をすると見ていれば、そいつは俺の視線から逃げるように顔を逸らした。まあ、そういう反応も良いんじゃないか?
足に取り合えず引っ掻けていただけのスリッパで床を一回打てば、やはり過剰な反応は変わらずに俺へ向けられた。怯えでは無く羞恥なのがまた面白い。さすがビッチと罵ってみたらこいつは泣くのか泣かないのか。まあどっちでも良いか。
立ち上がって踞るそいつの目の前に立ってみる。かた、と微かに震えた手と見上げもしない顔で、しかし同じ色に染まったうなじでよく分かるそれで、微かな抵抗をされた。さてどうやって立たせようかなと少し考えてみる。どうせ金のことを出せば立つんだろうけど、それじゃ面白くねえ。二人のことで脅してみるか、それはそれで面白そうだな。いっそ前お遊びで撮った売春写真をここに呼び出したキドに渡すのも良いよな。
人から見れば外道と言われても可笑しくない考えをとんとんと出して行く。しかしそれをどうしようかと目の前に並べたところで、踞っていたそいつは関節が固まったみたいにゆっくりぎこちなく立ち始めた。つまんねえなと思わず溢せば、ぎっと睨んでくる幼い男の顔。上だけ纏っていないまだ伸びるだろう発達中の体は、ガテン系のアルバイトもしているのに相応しく筋肉がうっすらとついている。若いって良いなあと思わずうんうん頷いてしまい、不覚にも歳ってものをじわじわ感じてしまった。

「ほん、と、悪趣味っす、ね......!」
「まあ趣味は良くないだろ」

喉の奥から無理矢理吐き出したような声が俺をなじるが、ぶっちゃけそんなことはとっくに自分で分かっている。お前、俺より背は低いけれどガタイはでけえんだぞ、そんな男をわざわざ金払って抱くなんて、正気の沙汰じゃねえ。これで俺より背も高くなってみろ、もしそこで萎えなかったら俺は俺の感性を見直してじっくりとっくり話し合わないといけなくなる。

「思ったより似合わねえな」
「っ、!......似合う、はず、無いじゃないっすか、馬鹿っすか......」

当たり前だろ、って怒鳴るかと思ったが、思ったより自分の現在の地位を理解しているようだ。つまんねえ、こともない。従順なのは好きだ。
思いっきり髪を掴んで上を向かせてみた。ぶつっと髪が抜けた音が指を伝わってくる。痛みで一瞬歪めた顔はすぐに何かを耐える顔に変わって俺を睨むように見た。
女々しいとも言える胸元を押さえる腕は外れない。まあそうだろう。肩から肩紐が落ちているから。
白の布地にはふんだんに可愛らしい飾りが施され、一番小さいサイズとは言え女の物だ、固い男の胸板に、そもそも合うはずがない。じっとそれを見ていれば男の顔は情けなさと羞恥で泣きそうになっていた。女性物下着なんて物を自分からつけて男の前に出るのは、それはそれは情けないだろう。
その顔は見る奴が見れば同情で手を差しのべるんだろうが、生憎俺しかいない。こいつの客運って物はあんまり宛になら無いんだろうな。

「まあ似合おうが似合わなかろうが、ヤることに関係ねえけどな」

元々突発的な思い付きだ、似合うなんてそこまで思っていなかった。が、まあまあ、酷いぐらいに似合ってない。
しかしヤることはきっちりヤる。起つし、平気だろう。むしろこいつの薄れていく羞恥心を詰まらないと思っての行動だ。従順が好きだからと言って反抗心が無いのが好きな訳じゃない。嫌々従ってるのを更に屈服させるのが好きとでも言えば良いか。
こんな環境に慣れさせたくないって思いも勿論ある。一応前々からの顔見知りだし、子供の頃から知っている。大きくなるまで見守ってきたって気持ちも勿論あるさ。まあそんな庇護欲を感じるはずの対象に加虐心を感じて起つとかかなり頭イッてるとは実感しているが。
ぐっと唇を噛んで最後の抵抗にか腕は外さない男の睨む顔は、胸元にある可愛らしい下着のせいでずいぶんアホらしい光景だ。アンバランス、ミスマッチ。まあそんな物だろう。
外されない腕を指でなぞれば一瞬目を見開いた後、黒髪も揺らして首を何度も振った。泣きそうになっている顔は俺の指をじっと見る。ぞくっと首の裏にも広がる震えににやりと口が歪んだ。
金と一単語言えばこいつは諦める。そんな魔法の言葉で喉を震わしかけて、止まる。

「......、そうだな」

腕をなぞった指を上らせ、泣きそうな顔の額を軽く押した。訝しそうに歪んだ顔が俺をじっと目も逸らさず見るのが馬鹿正直さを表しているようで思わず爪でも立てて見たくなったが、抑えて言葉を吐いてみた。

「無理強いより、面白いことが良いよな」

つまりこいつがそんなこと分かんなくなるまでぐちゃぐちゃにすれば良いわけだ。
能力を使わずとも読み取れたんだろう、セトはやっと小さく震えて一個だけ泣いた。
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