45 | ナノ
カノマリとセト

好き。
視界でからからと笑う彼はまるで太陽の光を室内でも直接受けているように、ちか、かちらりと光っている。緑のフードは脱げて、黒い黒い髪は私の髪とは正反対の色を持って、楽しげに彼が動く度揺れて。
好きよ。
笑顔はふわりと浮く、重力なんて感じないもの。近くに居れば日向ぼっこしているようでポカポカする空気は春みたい。いつもいつも私を心配してそして私の言葉をしっかりと丁寧に聞いてくれる。その度に笑顔で私を見てくれる。骨張った大きな固い腕、手。乾いてざらざらすると少し気にしているのを知っている。水仕事が多いからかな。バイトで頑張っている姿はカッコいい。
好き、大好き。
たまに持って帰ってきてくれる小さな花束。花の匂いを少し漂わせて、私を撫でてくれる。思わず顔が綻ぶ彼の行動。そして話してくれるバイトであった事。何を見付けたか、何を言われたか。嫌なことだけは話さずに、だって言ったら言葉にしたら、悔しさも風船みたいに抜けてしまうって。彼らしい。
好き。
大きな背中は私が足を止めるとすぐに気付いて、私に譲られる。ゆらゆら揺れて、固いのにふわふわ浮遊する不思議な感覚。足につかない地面、周りをゆっくり過ぎる景色。疲れたかなって顔を覗くと、平気そうな顔で笑って見せる。それは至近距離じゃすごく眩しい。
大好き。
ちりっと何かが刺さる。刺さったところからぶわりと透明な水に垂らした濃い色水のように広がる、毒みたいな甘い甘い溶けた刃物。顔が緩む。
振り返れば君が居た。猫みたいな君の目がジッと彼を見る。キツくキツく、睨んでいないのに刺さる縛る視線。常に弧を描く声を吐く場所が今は真っ直ぐになっていて。私がぼうっと見ていた彼を射抜く鋭いそれは痺れるほど。
好きよ。好き。大好き。
いつも意地悪な言葉は姿を隠して喉を通って脳の中で溶けてくるくる回るような猫みたいに歩く足は重く重く木のように立ち止まって。
好きなの。
全部好き。もちろんいつもの顔も好き。気紛れな猫みたいな、どこにでもすらすら滑るように行ってしまいそうな雰囲気も。でもね。でも。
そんな君に使い古された君の君らしい空気より、そうやって猫じゃなくてちゃんと男の子している顔がね、そう、好きなのよ。好きで堪らないの。
ぎゅうってしかめるでも無くて赤い目で隠すでも無くて、分かりやすく睨んで居ないのに無表情で肉の洞窟の中で白い石をぎしぎし言わせるように食い縛っている君が。

「ねえ、カノ、大好き」

好きよ、本当に。
だって猫みたいな君が男の子に戻ってくれるのなんて彼を見ている私しか出来ないんでしょう。じゃあ何度だって彼を見るわ。だってだって、君はそしたら乱暴に私のことを肩を掴んで振り向かせてくれるでしょう。いつか。ね、きっと。
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