44 | ナノ
カノキドとセト

暗いと言うよりこれは深い、遠く遠く果てのない空間。それに散らばる大小の様々な石は意思を持って名前を付けられる。僕がいるこの岩も、名前も番号も忘れてしまったけど何か付けられている。それをなぞって線を引き、いつしか声が話を紡いで広がる様は蜘蛛の糸が広がり巣を作り上げていくようで、それだけは結構面白かった。神話の神様ほど人間臭いものも無い。
星を巡り星の間に通る線路、死者を呼んで旅をさせて。人は死んだら星になると言う言葉、これも大変興味深かった。もう何度も読んで読み壊したどこかを漂っていってしまった物語の本。ぼろぼろになるまで読み返した。
とっ、と蹴ってみるとふわんと体は浮かび、暗い場所へと足を踏み出す。地面がないはずなのにまるで滑らかな大理石のような床が有るようにかつかつと靴は震えた。どこに行こうか、なにをしようか。この広い世界は、地球と言う星しか暇を潰す場所がない。この地球とやらも何年も何年も歩いて見付けた物だから、頑張れば他にも有るんだろうけども。
かつん、と一回大きく真空を揺らす。空気もない冷たい深い世界。その中で青く光るその地球って物は、ずいぶん綺麗に在る。僕に似た者はいっぱい有るのに僕と同じものは絶対に居ない。そこでふと気付いた。
まるで仲間が欲しいみたいな、そんな。おやあそれは考えたことがまったく無かった、失念していたとでも言えば良いかな。
宇宙って深い黒い青の中、僕は一人だと、その時実感したような物で。なるほどそれは、確かに離れがたいものだ。

「へー、仲間かあ。」

声に出したのは意思表示か、決意表明か、目標前進か。どれでも良い。これらじゃなくても良い。僕は少し歩いてみることにした。バラの咲いている小さな小さな星でも有れば、僕はそれで良かったのだ。それはきっと、僕には見えないかもしれないから。
かとんかとんと底を鳴らして地球に近付く僕は、誰かが見付けたら騒ぐんじゃないか。光る星を見ていた人は望遠鏡を覗いていたのに、そこには歩く人影があり。ああそうなったら僕は有名人だな。黒い印字にでかでかと写真付きで載りそうだ。
まあ無理なんだけどもね。そんなこと有り得ない。そりゃあそう、他の人にはごうごうとじわじわと燃え尽きていく隕石に見えるらしいから。僕の目がそうさせていると気付いたのはいつだったか。ずっとずっと、忘れるくらい昔だった気がする。
すーと機械の破片が僕を横切る。固い鉄に青やらなんやら線をはっつけて、どこから来たのか。銀河鉄道の破片だったりするかもだなあ。それの果てない旅の背中を見届ける。深さに溶けた彼は、はてどこに行くのか。大口開けて何でもかんでもボアみたいに丸飲みにするブラックホールに彼が会わなければ良い。
かとかとことこと、見えない大理石に鉄道の音よりずっと小さい僕の走行音。ブーツの底は楽しげに、僕の思考はぼうっと呑気に。脳みそなんて物があるのかは分からないから何とも言えないけれど、くるくるころころ回る思想も思考もあるんだから、考える場所って意味なら僕の脳は現在休憩中なんだろう。優雅に優美に紅茶でも飲んでいるのかもしれないし、がらがら笑いながら酒でも煽っているかもしれない。
ぼうっと呑気に暢気に陽気に。歩くのも飽きてきて、僕は近くの星の地面を蹴った。摩擦がない世界は僕を落とすように滑らせる。そう言えば、宇宙はラテの色らしい。ラテとやらを飲んだことはないけれど、宇宙を飲むって結構楽しそうだ。地球に着けたら飲んでみようか。
くあっと欠伸をする。伸びをして横を通りすぎる星を眺めた。

がつっと何かに当たった衝撃に目を開ける。寝ていたのかと自覚した。
僕がぶち当たったその星の地面に手を付いて体を浮かせ、くるっと回り着地。ざらざらした地面が僕の靴に踏まれた。なんだったか、この白い白い星は。よくよく周りを見れば、青い星は近かった。視界に収まらない青に、思わず面食らう。ずいぶん近くまで寝ていたものだ。

「ああ、ここは。」

地球を回る星だ。白く光り、真っ黒な天上に穴を開ける夜の姿が過る。ぼうと雲を薄く透かす。

「月だよ。」

聞こえた声はざくっと思考世界に切り込みを入れた。ぱっと振り向く。それが勘違いであったなら僕はきっと思った以上に脳が駄目になっていたと思っただろう。それでもそれは否定された。
長い緑の髪、見てくる目は真っ直ぐに。無かったはずなのに今は鮮明に飛び込んでくる、痛烈なほどの気配が肌を刺す。黒い空気と白い地面でその中に立っている。

「今晩は、猫。」

さてどうしたら良いんだろうか。僕はその瞬間、月の幽霊に、彼女に会った。
泣いてる彼女に逢った。


白い地面が鳴く瞬間、それは俺に一匹の猫の訪問を知らせる呼び鈴になった。ちりんと高く微かな音を鑢にでも掛けた音だと毎回思う。たんっと白い地面を蹴るそいつはくあっと一つ眠そうな人間みたいに欠伸をする。そして俺を見付けて片手をあげた。ひらんと手が軽く振られる。

「こんばんはあ、幽霊さん。」

舌が痺れたみたいなだらあとした声に、また来たのかと視線を投げた。へらんと笑う顔は全くなにも変わらずいつも通り。最初は俺の目隠しに戸惑っていたくせに、どこかでコツを掴んだらしくすいすいと雑踏でも泳ぐ大人みたいにこいつは俺を楽々と見つけ出すようになってきた。悔しさに少しばかり舌打ちしたくなったって構わないだろう。素直に一つ、舌を打つ。

「幽霊は止めろ。」
「良いじゃない、名前無いんでしょー?幽霊さーん。」
「嫌なやつだな、お前......。」

こつこつとまるで固い床を歩く音に、ああこいつは変な奴だとも思う。俺みたいな物じゃない。者でもない。ただでも似ているものだ。俺とこの猫は。
俺の言葉にからんと猫は嬉しげに笑って目を細める。

「お前じゃないよ。」
「猫。」
「カノだって。」

カノ。個の名前。人間臭い。いや、こんな所に居なければきっとこいつは人間にしか見えないんだろう。
かろころと笑う猫はふわっと浮かんで俺との距離を詰めた。肩に手を置かれて、顔はぐっと近付く。鼻が当たるぐらいの距離に思わずキツくキツく猫を睨んだ。へらんとムカつく笑顔。一瞬だけ目元に触れた指が浅く濡れて離れた。それが思ったより綺麗に見えて。

「今日も泣くんだねえ。」
「......煩いぞ、猫。」

ぱしっと肩の手を叩いて払った。その時にぱっと空中に広がる水滴が忌々しい。いつから止まらないのか、そんな数字は忘れてしまった。ただでも、あの時からだとははっきり思い出せるんだ。
猫のせいで最近昔を思い出してばかりいる。いい加減にしろと自分自身に叱りつけたくなってくる。
猫は叩かれた手を何度か擦って浮かぶ水滴をぱっと一回払った。風でも受けたように水滴は広がってどこかへ消える。透明は黒を受け入れてその中に亡くなることに、少しホッとした。

「また来るよ。」
「もう来なくて良い。」
「待っててね、あなたっ!」
「少しは人の話を聞いたらどうだ。」

痛まないはずの頭が痛くなるような会話に思わず頭を押さえ肺から空気を出すフリ。思わず出た忘れていた人間の仕草。それに気付いて自己嫌悪が喉に広がって毒みたいに心臓が腐っていく痛みが走る。かち、と歯が空気を噛む。
来たときと同じように猫は手を振る。それに応えることもせず背中を見せれば、諦めたように気配はあっさり離れた。きっとこの青に行くんだろう。羨ましい、なんて。
星なんて概念でこんな世界を括るのは、果てなく愚かで、それでもそんな愚かも愛しい。この青にある緑に、声に出して全てに届くなら、いっそ叫んでだってみせる。

「帰りたい、か......。」

お姫様お姫様、どうかどうか。この言葉を覚えている。
郷愁を声に出せば、存外俺は滑稽になった。


にゃあ、と黒い毛皮が鳴いた。
珍しいなとベンチにまだ開けていなかったペットボトルを置く。それに擦り寄った宇宙に浸したみたいな黒猫は、ぱちんと瞬き一つで男の手へと変わった。やあれ、と首を回してペットボトルの蓋を開ける男を見る。茶の髪と猫みたいな目が赤さをほんのりと撒き散らして溶けていくのがどうも慣れない。

「久しぶりっすね、カノ。」
「やあセト、また老けたんじゃない?」
「まだ十代っすよ......。」

毎回のやり取り。そりゃああんたに比べれば俺の成長はまるで教科書に載っている成長過程写真のような早さなんだろう。やっと同じくらいの年格好になったのに、やっぱりカノの方が生きている歳は上なのだ。
参るなあと思う。到底追い付けないのだ、目の前に降りてきた地球外生命体には。背以外は、だが。

「あは、変な顔。」
「失礼な人っすねぇ......。」
「君もね。」

これだ。
全部見透かすように目を細めて俺を見る。舌打ちでもしそうになるがぐいっと飲み込んでため息に混ぜた。吐かれた息はひどく重い。鉛のようだ。
半分まで飲み干されたペットボトルが放り投げられる。ぱしゃんと水が透明なプラスチックの中で波を打つ。すぐに飲む気にもなれず、それを持ったままカノの隣に座った。四角い鉄の網のジャングルジム、褪せてよく分からないものになっている動物。

「で、どう最近。」
「急がしくって楽しいっすよ。この間青森まで行ってきたっす。」
「そう。相変わらずみたいだね。」
「そっちはどうっすか。」

その質問の中に入っているのは目のこともあるのだとは知っていたが、日常を答えることで平気だと示す。カノはあっさり済ましてしまうけど、結構顔に表れる方だと思う。安心したと顔を緩める瞬間を俺は知っている。そっちも、相変わらずだ。
いつものようにカノに返す。毎回毎回「ふっつー」とか「星が燃えたねえ」とか、そんな物。でも今回ばかりはそんな返事は無い。カノと話しているにしては長い沈黙。一瞬見上げた視線は空に真っ直ぐ向かう。

「月に兎は居ないって知ってる?」
「......馬鹿にしてるんなら帰って良いっすよ。」
「違うって!短気だねえ。」

げらげら笑うカノにばんばんと背中を叩かれけほっと咳が出た。強く叩きすぎたと分かったのか形だけの謝罪がカノから軽い調子の声で差し出される。それを無視して続きを促した。いつものようにべらべら一方的に喋ってもらった方が安全だと思ったからだ。

「兎は居なかったけど、幽霊は居たよ。」
「......はあ?」
「わあ、そのとうとう頭に隕石でもぶち当たって脳が可笑しくなったかこいつ!みたいな顔すごく傷つくー。」
「あ、こいつじゃなくてこのチビって思ったっす。」
「気にしてる傷に塩とか止めてくれない?!」

反撃できたようで何より。
笑顔を歪ませて乙女のように心臓で両手握り拳を作る様はハッキリ言ってしまうと気持ち悪い。顔にありありとその感情が出ていたのか、カノはしばらくそのままで固まった後何事もなかったかのように座り直した。いつの間に取ったのか、手に持っているペットボトルをカノは仕切り直すように一気に煽ってにこり。

「あ、そうそう、幽霊の話だっけ。」
「ちょ、後でそれ金払ってくれるんすよねカノ。」
「いやあ僕みたいに人間みたいな女の幽霊だったよ。すごい美人の。」
「話聞いてるっすか?」

さらっと無視されて続けられる話。このチビ、とうなじ辺りがびきっと突っ張るが、もう良いと首を振った。こんな事でカノに体力を使うのはただの無駄だと分かりきっている。どうせのらくらかわされて終わるのだ。

「幽霊らしくどっかに未練があるらしくて、泣いてるんだけどね。」
「月にっすか......、へえ......。」
「信じてないねー。」
「......信じてない信じてるで言えば信じてるっすよ。かぐや姫なんてお伽噺もあるから、信じた方が面白いっすからね。」

からかうみたいな声。責めるでもなく悲しいでもないその声に俺は少し苛立つ。思ったよりも声は乱暴に吐き出されてカノに叩きつける。カノが少し驚いたように目を少し見開いた。懐かしい。
俺がカノを目でつい見付けた時と同じ顔だ。

「ただカノが言うと嘘臭いだけっす。」
「酷くない?!てか何怒ってるの。」
「怒ってないっすよ、カノうざいっす。」
「怒ってる、怒ってるよセトさん。」

怒っていないと言っているのにしつこい。怒っていない、本当に。ただ当たり前だと言わんばかりの声がムカついただけでそれ以外は何もない。カノにとっちゃ微々たる時間でも、俺は結構長い付き合いだと思っているのだ。そんな俺をカノが悪い方に勝手に決めつけるなんて、なんて腹立たしい。

「あー......。......えーと、で、かぐや姫ってなに?」
「あれ、知らないんすか?」
「その手はあんまり。」
「うーん、俺も全部事細かに、って訳じゃないんすけどね。」

言葉を探すようにしていたカノの目が楽しそうに細まる。目は口ほどに物を言うとはよく言うが、カノもそれなんだろう。
どんな話だったか。確か古典の授業でうつらうつら細々と聞いていた小さな毛糸玉の形をした記憶の端を持つ。するするとそれを引っ張ってほどく。

「確か、月に帰ったお姫様の話っす。」

あ、誰かこれを月の幽霊みたいだと、言っていた気がする。


投げた本は弧を描くでも地面に落ちるでもなく真っ直ぐ幽霊に飛んでいく。後ろを向いていた幽霊はぱっと振り返ってその本を叩き落とした。地面から跳ねた本がどこかに行かない内に、幽霊はそれを自分の方へ蹴り上げて受け取った。それを見て漸く地面に足を付ける。
本をくるりと回してぎゅうと顔をしかめる幽霊は、何だか意味が分からないといった顔で僕を睨むように見た。

「何だ、これ。」
「竹取物語。昔の話。」

幽霊が、もっと理解を離された顔をした。表紙の文字をじっと見る。しかし暫くして外国語でも見たかのような顔で本を返してきた。その本を受け取って、はてと首を傾げる。幽霊は確か日本のはずだと表紙の字をなぞって、納得する。横字が無い時代だからか。
幽霊はまた投げ返された本に苛立たしそうに僕を睨んだ。美人が睨むと迫力がある、......まあそれは置いておこう。僕は左から右へと指一本で線を引く。

「左から右。横字はそう読む。」

読み方が分からなかったはずの幽霊は、教えられた事への不快さを露にしながらも大人しく読む。一度左から右へと動いた目が、涙を落としながら大きく鋭かった瞳は見開かれた。混乱からか、ちかっと赤が一瞬混じる。
焦ったように何度も何度も読み返す目。最後には表紙の文字を一つ一つ確かめる指の動き。真っ青とまではいかなくても、大分顔色が悪い幽霊は、唇を噛み締めて本を地面に叩きつける。それが弾かれ浮いてしまう前に、足で地面と本を縫い付けた。たったそれだけの行為。それでもぜえっと喘ぐ幽霊。

「かぐや姫だって。良い名前だね。」
「黙れ......。」
「何で?月のお姫様。」
「黙れ!」

声がびりっと響いた気がした。それは気がしただけで、本当では無いんだけども。
ぜえぜえと荒い息で立つ幽霊は、涙を蒔いて首を振る。違う違うと震える小さい声はまるで知られたくなかった罪でも暴かれた罪人みたいで。
かぐや姫。呼ばれていたのはずっと昔、数百と言う年の数だけ前の話。竹取物語はそれを指す通称ってだけで、彼女が知らなくても仕方ない。

「馬鹿だね。ずっと昔の話じゃないか。」

その言葉に怯えるように肩を震わせる彼女に、僕は近付く。バレないように、目の前に。あーあ、本も安くないんだよ。そう言いながら彼女の足の下から本を取った。取った瞬間、彼女は本が支えだったみたいにくらりと倒れ、座り込んだ。手を差し伸べたがあっさりと無視されてしまい仕方なく隣に座れば、彼女は後ろに座れとさっきまでの震えが嘘みたいにはっきりと、それでも感情は一切刈り取られた声で言った。指示通りに後ろに座る。

「なんで、持ってきた。」
「......本当かなって。からかえないかなーとも。」
「性格悪いな。」
「戦争だ何だまで見てきた大先輩だよ?性格良いわけ無いじゃん。」

そうか、と声は少し笑った。それからああそうだな、とも言った。彼女とこれだけ落ち着いて話したのは初めてじゃないだろうか。それはほんの少しの会話だけど、それでも何となく達成感も何もないのはきっと彼女の声にいつもみたいな感情が無かったからで。いつもの呆れた声の方が、彼女らしい。

「ねえ、名前は?」
「書いてあるんだ、好きに呼べば良いだろ。」
「いやいや、それじゃなくて。」

後ろで首を傾げた気配がした。少し笑ってみれば、彼女は少し体を強張らせた後、徐々に息と一緒に力を抜いていった。それが、過去を追求されなかったからなのか、もっと別の理由なのか。名前があったでしょうと言えば、彼女は少し震えた。
彼女の涙は依然止まらない。

「キド。」
「キド。」
「名前だ、カノ。」

キド。
大切なもののように、その名前は告げられた。僕の名前も一緒に、その口から。
初めまして。
僕はようやく月の幽霊と声を交わした。


お姫様と呼ばれていた。豪華な着物も道具も、よくしてくれた親も居た。何人もの男に求婚され、帝にも見初められ。
誰もが俺を人間だと。
宇宙は空気がない。そのため内臓は酸化せず、肉体崩壊が遅い。だからその世界では必要だった。刻々と倒れていく仲間を見て、最後の子どもだった俺は地球に送られた。必要だった、若い最後の一人が。生きていけないような子どもじゃない、若い最後が。
地球には酸素がある。今まで酸化のしていなかった内臓は急激に酸化し、それを補うように人間にしては異常なスピードで成長する。それが俺の体。
骨身が不安定からしっかりと定着し、若い肉体を作る。そして三月ほどで内臓は酸化に慣れ始め成長はゆるりと止まっていく。
必要だった。わかっている。
拾ってくれた二人は良くしてくれた。遠慮する俺に豪快に笑って「お前のお陰だから。」と押しが強くて俺が根負けして。二人が好きだった。もしかしたらここに骨を埋めるのかもしれないと、そう思ってそう願った。誰も居なくなるのが分かっている空っぽに、帰りたくないと。
泣く理由も流した時も、本当は全部全部覚えているのだ。
守って貰った。大事にされた。
キドって、呼んでくれた。

「キド。」

久しぶりの名前の響きに、つい振り向いた。猫がいる。猫みたいな男がいる。

「今日は何しよっか。」

泣き止む日は近いのだと、最近確信できている。
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