41 | ナノ
モブケン
輪姦

ぺたりと汗を纏った手が腹に置かれて吐き掛けた。抵抗に振り回した腕はしばらく手こずっては貰えたがやはり男複数、あっさりと縛られ今じゃそれを取ろうと足掻いて皮膚が切れている。じわ、と浅く滲んだ血を縄に吸わせて傷を擦って抉る痛みはぴりぴりと脳に届き。いっそ気絶した方が良いのかもしれないと諦めすら思考に混じる。
くそ、と掠れた声が知らず喉を打った。
腹に這っていた手はしばらくしてじとりとした湿気を残して去り、違う手が俺の腕を掴み上げる。引っ張られたお陰で手首の痛さが増してぼうっとしていた意識も表に引っ張られる。思わず睨めば、そいつは下品な笑いを顔にニタニタと張り付けていた。気持ちわりぃと思わず声に出したが、男たちは何かを話していて気付いてくれなかった。有り難いねと思うけれど、じゃあ俺の存在も無視してくれれば良かったのにと理不尽さに涙も出ない。
無防備だったと理解する。一応これでも世界が保護指定までしている研究者なのに、つい、いつも持っている愛しい騎士さま(防犯グッズ)を置いてきてしまったのだ。ああもう馬鹿だろ俺、と自覚せざるを得ない。手首とは違うずきずきと痛む後頭部はしっかり俺にその失態を叱りつけてくれる。
掴まれた腕に、ひやりと何かが強く巻かればちんと音を立てて血管を圧迫させた。ぜっ、と息が一瞬荒くなる。身に覚えが少ないけれど、それをした側に回ったことが何十じゃ足りないほどある。どうにか血管を狙われないように少しでも動きたいが、男たちもよく分かっているようで。肩を痛いほど地面に膝で押さえ付けられ、全体重を掛けられる。じりっとする熱い痛みの中に冷たく鋭く小さく皮膚を破る針、が。
これが何か分からないほどさっきまでの確かめるような探るような行為に鈍感じゃない。ついでに押さえ付けられた頭。頬に冷たい地面がべたりと触れる。
動脈注射。血管に流される異物。しかし吐き出されること無く馴染むそれは薬物の類いで。しかも今の俺に最高に相性が最悪な物。
こんなくたびれたおっさんに起つとかどんだけ若いんだよ、猿じゃねえの。まだ見れる顔をしているのは何の配慮だよ。死ね。どれだけ崇められる脳の中で呪詛を唱えようと意味はない。地面の味が不味い。

「じゃ、頑張ってくださいね。センセ」

何をだよ。ああ、ナニか。
顎を掴まれ上を向かされ、リーダーの役割を担っているんだろう一人の男と無理矢理目が合わされる。お前みたいな親不孝教師不幸の奴の先生なんて、死にたくなるから遠慮してえな。ばちん、と外された圧迫。血が異物を乗せて回るのが分かって、じりっと脳の横が痛んだ。

吐瀉物の酷い臭いと青臭い白濁の臭い。げらげら笑って顔に掛けられた濁った液が気持ち悪い。お陰で胃の中は空っぽだ。腹に薄く伸ばされたねとりと滑る液体。高くも無いくたくたのズボンはベルトを引っ掻けたままどこかにぽい。ああホント最悪。ぼうっとする思考の鈍い頭が鉄の骨剥き出しの天井を見詰めている。
気持ち悪い。臭い。
吐きたいもそこに加わりそうになるがもう吐いても胃酸しか出ない。代わりに加わるのがひたすら思考に混じる夏だ。内臓全部をじわじわと徐々に溶かしていく熱さ。目が勝手に脳に異常を報せる。途切れ途切れの成分が脳で繰り返される。適正量をあっさりオーバーしている。過呼吸みたいにかはっと息が漏れ、ひゅーひゅーと風みたいな音が喉から落ちる。異常。吐く。頭痛い。制御できない目がちかちかと脆弱に微弱に微かに赤を灯らせているのが分かる。たまに顔を見る男の一人がぎょっと目を見開いているのは滑稽だ。
媚薬より違法ドラッグに近い薬は脳を犯す。その無理矢理によって生じる痛みは、時期に体にも訪れるんだろうなあと他人事みたいに。気持ち悪い。
回るカメラは何の為。ああ、私利私欲の人間の為。俺だって言えたような物じゃないが、死ねば良いと心の底から呪いも産める。

「ーー、ーーーー」

耳がくわんくわんと嫌な音で溢れて脳を揺らす。二日酔いみたいな気分だ。何を言っているのか分からない声は随分楽しげで。
びりっと襲った痛みが、その脳の痛みも奥にやった。
絶叫、とまではいかないが、裂かれ拡げられる痛みに喉が震える。

「う、ぎっ......っ、が......ぁ!」
「お、戻ってきた」
「あーあ、切れてるぜこれ」

ぶわっと汗が浮く。眼鏡なんてどこかにやられて視界はクリアなんかじゃなかったが、生理的に滲んだ涙は半透明のビニールでも張ったみたいに目を覆った。感じたことの無い圧迫感と痛みに吐き気がぶり返す。胃の下が、焦げる。見えない目に映る男の背格好。アレが入っている、なんて自覚してしまい今すぐ自分の皮を全部剥いでしまいたくなる。がり、と伸びたインクで黒い爪がコンクリートの地面を掻く。汗はぼたっと耳の近くを通って地面に吸い込まれる。
奥に引っ込んだ痛みは徐々にぐわんぐわんと脳をかき混ぜるように再発し出した。それを治めるように冷気を吸おうと口が喘ぎ、しかしそれは違う男の手で阻止された。ごつい手が俺の口を覆う。

「先生、俺らね、死なないなら何しても捕まんないんだよね」
「っ......、っ」
「良い仕事だよホント」「強姦しようが無罪放免だって」「しかも金くれるって言うしさ」

息が詰まって肺が痛い。鼻まで押さえれれ、肺は中に入らない酸素を求める。どく、と耳元で心臓が泣くのが大きくなっていき、右側の肺がびきっと音を立てる。
そんな中で足を持たれ、ゾッとする。痛い。肺が痛い。
ずる、と抜けていく感覚がぞわっと肌に這う。ひきつる痛みとびりびりと信号みたいな痺れ。内臓にぶわりと鳥肌でも立っているんじゃないかと思う。

「ーーっっっ!!」

ぐいっと上を向かされ喉が反った瞬間に勢いつけて入ってきたそれに出ない叫びが確かに響いた。抜き差しがまとわりつくような血の音で一層そういうことなのだと照らし出される。
肺を抉る痛みが、酸欠でぐらぐらあっちこっち傾く脳に届く。吐き気は霧散し、ただひたすらに生きる糧の酸素を求める。がり、と血が出るほど噛んだ手は慣れているとでも言うように離れない。
肌を打つ音とぐちと抉る音がやけに大きい。

「良いぞ」
「かはっ、っっ、ぃぎ、......っ?!......は、っ!いぁっ、あ!」

腰を振る男がにぃと笑んで、俺の口を覆う手を指で叩いた。途端に入ってきた酸素のあまりの多さに喉が詰まり肺が大きく振動したことで苦しいほど活動が再開される。さっきの非じゃない痛みにじんと肋も痺れる。
次第に慣れていく肺に、苦しさが徐々に去ると同時に入れ替わるように熱さが戻ってくる。違うと思ってみてもそれはしっかりと体に染み込む。

「気持ち良くない?センセー」
「や、っめ!いあ、あっひぎ、ぃあ!」
「良い感じ?」

腹をぐっと押されて突かれ、響くようなそれがそれだなん
て。信じられない気持ちと広がる熱。脳に直接、電気が走る。ずんと重い下腹に歯がかちっと鳴った。

「効きが遅いのが難点だな」
「体勢イケる?持ち上げるかぁ?」
「ついでに誰かくわえてもらえば良いんじゃね」

男たちの会話の意味なんて分かりたくもないのに、痛みとそれとでどろっと溶けそうになる回路が繋がって見たくもない正解を出すのが分かる。
引っ張られ起き上がる。口に当てられ吐きそうになる臭いが歯に当たり、今度は指が入ってきて無理矢理に歯を開いた。舌を掴まれ引っ張り出され、その上にまた当てられたのは、男ので。脇で俺を抱える男はげらげらと笑って噛んだらと脅しを耳に吹き込んだ。
吐きたくなるような味に、どろっと溢れた液に。

「精々頑張ってよ」

呑気な声に。
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