25 | ナノ
エネモモ

目の前に見える立体的な彼女。つい触れるのかと思って手を伸ばしたが、手は彼女に触れること無く彼女を通り過ぎた。
手にうっすらと水が張り付きちかりと光る。

「無理ですよモモさん」

いつもの妹さんと言う言い方をせず、にこにこと上機嫌に笑うエネちゃんは、私の行動にだめだめと首を振った。その中に呆れや馬鹿にする物は入っていない。だから私は怒ろうとも反論しようとも思わずにいれるんだろう。

「水蒸気に私の意識を混ぜた光を反射させてるだけですよこれは」
「触れたら良いのにね」
「セクハラする気ですかモモさん!きゃっ!」

可愛らしく身を捩るエネちゃんをむうと睨めば冗談ですよおとからから笑われた。冗談にしても酷いじゃないか。

「こうやって同じ目線で存在できれば満足ですよ」

ぴょこぴょことツインテールを跳ねさせながら淡く光るエネちゃんに、きゅうと何も言えない喉が詰まった。これを存在と言うほどには、彼女の生への執着はひたすら薄い。

「触れないじゃない」
「それはそれで。元々幽霊みたいなもんでしたし。生きてるって実感は無いんですよ」

つい、エネちゃんの脚を見る。ばら、と崩れたような足。足がないのが幽霊なら、確かに確かに、彼女は幽霊だ。
ね?と少し自慢気に言われて悔しくなる。納得したのは私だ。

「まあまあでも、こうやって近付けるのは嬉しいものですよね」

感覚はないが、エネちゃんが私の頭を撫でる。よしよし良い子良い子。その顔は嬉しそうで幸せそうで、ああもうと無性に抱き付きたくなった。
やっぱり触れることが出来たら良いと思うのは、慣れてしまった人間のダメな部分か。

「触れないなら触れないで恋を焦がす事もあるはずですよ」

エネが言うにはこういう事だ。少しでも長く長く、自分に繋ぎ止められればと。まったく厄介な者に惚れられた妹である。
音符マークを飛び出させながら上機嫌で画面に居座るエネに妹への心配を混ぜ込んだため息をついた。

「ご主人早く早く!ちゃんとした個体が欲しいです!」
「こんの腹黒猫かぶり......」
「駆け引き上手の床上手って言ってくださいよおっ!」

処女が何言ってるんだか。
エネは強欲だ。生への執着はひたすらデカイ。一度肉体があっただけにそれへの渇望は醜くて怖いほどだ。一度手に合った物を手に戻したい。簡単に言えばそうだが、それはどうにも難しい。
じたばたと画面で欲しい欲しいとねだるエネにはいはいと適当に返事をする。

「モモさんに触るために!」
「セクハラレズ」
「童貞野郎なご主人には分かりませんよーっだ!モモさんの魅力はね!」
「当たり前だ、近親相姦の気はない」

モモが欲しいと言い出したのはいつからだったか。いやいつでも良い。いつの間にやらあっさり毒牙に掛かって腹の中で食われたことにも気づかないバカだ。いつからなんて覚えちゃいないだろう。
早く触りたいと抱き締めたいと、こんな人間らしく欲望的なエネを妹に見せてやりたい。

「せいぜい私とモモさんの幸せのために身を粉にして働いてくださいねご主人!!」
「ご主人に対しての言葉じゃねーな......」
「それでもご主人はするでしょう」

確信を持ったエネがにやりと笑う。俺はそれを見てまたため息をつく。
そうだ、する。悔しいが、認めたくないが、エネがモモを好きで好きで堪らないのは一番知っている。モモの幸せにこいつは必ず入ってくる。悔しいが。認めたくないが。

「腹黒猫かぶりセクハラレズに大事な妹をやるのは酷く不愉快極まりないが、やってやろう」
「流石ですね童貞シスコンバリタチ人気総なめご主人!」

やっぱりこいつはデリートした方が良いかもしれない。
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