コノケン
ぐい、と襟を引っ張られ、乱暴にキスされた。がち、と歯が当たって痛い。それでも構わず舌を突っ込んでくるのは痛みに鈍感なのか、気にしている余裕がないのか。
子供だと、思う。歳や体格の割りに幼い。記憶がなくなったせいか、なんなのか。
「なんで」
何が。
聞いてやるほど俺は優しくない。勝手に話してくれ。
ずっと掴んでいる腕を掴む。離されると思ったのか、絞まるほど力が入れられて諦めた。パッと離せば小さく顔をしかめられた。
「ずるい」
いつもはぼうっとしている顔がしかめられて、珍しいなあと眺める。
ずるいとか言われても、俺がお前に答えることは無い。お前が勝手に俺を想うんだから。抵抗なんて面倒だ。学校の生徒ならまだマシな対応をしたが、これはただの我が儘な子供の押し付けだ。
「俺はお前を何とも想えない」
ハッキリ、何度告げたか分からない言葉。それでも耳を塞いで聞かないで理解しないで受け入れようとしないで、俺に膝をついて嫌だと言う。傲慢だ。
薄い赤の目が俺を見て歪む。
「無理なんだ」
「やだよ」
「無理だ」
やだ、と白い髪をぱさと揺らす。いやだと。ああなんて子供だ。しかも厄介な。欲しいものを手に入れないと満足しない。俺の間違いは許してしまったことか。キスから始まって、体まで。
そこまで貰って気持ちも欲しいと欲を出す。お願いだからと駄々をこねる。
なんでも貰えると思ってしまった。
「これだけはダメだ」
気持ちだけはやれない。他のものなら良い、けど気持ちはやれない。もうずっと、一人だけ。
くしゃりと泣きそうに歪む顔。どうにか耐えている涙。可愛そうだと思う。けどそれだけだ。
「好きだよ......」
ちっとも気持ちが揺らがない言葉を吐かれる。可愛そうに。確かに最初はそうだったんだろう。その時なら少しは揺らいだだろう。けど、こんな歪な関係になれば、それはただ好きなカードを全部集めたいと言う言葉にしか聞こえない。後一つだけ足りないから。それがレア物だから。
「今のお前に好きと言われても、薄っぺらいとしか思えない」
せめてこれだけはしっかり言っておこう。
「今のお前にはなにも想えない、コノハ」
コノハはそれを聞いて更に顔をしかめたが、何も言わなかった。ただ一回だけ俺にキスをして、部屋を出た。そのドアを見て、俺は何も思えない。
「子供の世話も、終わりだな」
パソコンを立ち上げて椅子に座る。
その時不意に思ったことに、少しだけ驚いた。あの声でもう呼ばれないのか。そう思ったことに。
「意外とまだ好きだったのか」
それでもそれは、手間のかかる生徒が卒業したくらいの物だった。