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ぽと、と布団の上に落とされた花を見る。
濃い青の薔薇。茎の棘は取られて青と白のリボンが綺麗に結ばれている。すん、と嗅げば、花の匂いと絵の具の匂い。
「なにこれ」
「白い薔薇が余ったって店長が」
「へえ......」
くるくると回し眺める。
これは無惨に引き裂かれなかったらしい。
「さっきの花は?」
「お客さんからっス」
「イケメン自慢か、爆発しろ」
「男からっス」
「良かったなー、モテて」
舌打ちせんばかりに睨んでみたが同姓と聞いてざまあみろと笑う。ころっと態度を変えれば呆れたように俺を見てため息をつくセトにいつもの事だろと言ってやりたい。言わないけど。
セトが布団に入って来て一気に狭くなったベットに蹴落としたい衝動を抑える。
「せま」
「文句言われても広くならないっスよ」
髪を撫でる手が俺を宥めるようで、少し気にくわない。まあ正論だから言い返したりしないけど。
「寝る......」
「泊まるっスか?」
「泊まる......、モモに言っとけ......」
うと、と眠気が忍び寄ってきた。それに逆らわずに目を閉じれば、じわじわと体から力が抜けていく。
苦笑いしながらモモに知らせるためにベットから出るセトの気配を感じながら、意識をどんどん沈ませた。
すう、とすぐに聞こえ始めた寝息にベットを見る。相変わらず寝入るのが早い。近付いてベットに腰かける。手を伸ばして髪を掬い取って耳にかけると、くすぐったさに唸る。
「シンタロー」
男の客から貰った。全く間違ってない。けど言ってない言葉があるだけ。
シンタローにと、男の客から貰った。色とりどりの花。一目惚れをしたと、渡しておいて欲しいと。
それも全てゴミ箱の中。存外独占欲が強かったようだ。
青い薔薇をシンタローの手から抜き取って髪に指す。赤のイメージが強いからか、どうにもしっくりこない青に笑う。
ふと、花びらを食べた時のシンタローの顔を思い出す。心底不味いと言う顔。それがあの男に対しての答えのようで、笑ってしまう。
起きないように声を潜めて笑えば、自分は本当にどうしようもないんだと、実感出来た。
「シンタローには偽物の方が似合うんスよ」
シンタローに返事を望まず、俺は部屋を出た。