12 | ナノ
セトシン

起きた途端、黄色い花びらが降ってきた。
顔に落ちて頬を撫で、隙間に入っていった花びらを一枚取って見る。夏によく咲いている花、おそらく向日葵の花びら。
そうして見当を付けている間にもどんどん降ってくる。ぶちっとむしった音の次にぱらぱら落ちてくる黄色。
しばらくそれを見ていれば不意に花びらは止んだ。上を見る。寝っ転がっているため少し見にくいが、やはりと言うかなんと言うか。
無惨に花びらを無くした向日葵を持ったセトが、そこに立っていた。
興味を無くしたように紙袋に残骸を突っ込んだセトに何がしたいんだかと花びらを数枚顔の上から取る。
ぶちっと、また音がした。
降ってきたのは真っ赤な大きい花びら。薔薇だろうなと強く香る花びらを見る。次に白、紫、ピンク。様々な色の様々な花。
ぶちぶちと無理矢理引き裂かれて俺の上に降る花びらに災難だなあと心の中で呟いた。可愛そうにな。
ぎし、とベットが軋む音に思考を引き戻される。見上げれば、いつの間にかセトが俺に馬乗りになっていた。
にこりと俺に笑みを向けてくる。気持ち悪い顔だなあと溢せば、口を閉じさせるように唇を合わされた。
男二人が乗っているベットは少しの動きでも軋んで煩い。まるで退けと言われているようだ。
色んな花の匂いが濃く充満していて吐き気がする。それの中でやたら鼻につくセトの匂いに少しムラムラした。
合わせただけで離れたセトに腕を回す。

「珍しく乗り気っスね」
「酔った」

近い距離で笑まれて、釣られたように俺も笑んだ。デカイ手が俺の頬を撫でて髪に引っ掛かっていた花びらを取る。
それを俺の口に持ってきた。答えるように食べれば、苦い味がした。
噛み砕いていると唇を合わされる。そっと開けば、舌が隙間から口内に入り込んできた。噛み砕いた花びらを味わうように口内で舌が動く。
息が声を含んで口の端から漏れていく。舌を噛まれて、絡まれて、口内をぐちゃぐちゃにする。なんかこれだけで犯されている気分。

「不味い」

ごくん、と唾液と花びらを一緒に飲み込めば、セトが嬉しそうにそう溢した。溢れた唾液を拭えば、花びらの欠片が指にぺたり張り付いた。
べろ、と舐めとれば、やっぱり苦かった。

「不味くないわけないだろ」
「でも、甘そうな色っスよ」
「そうか?」

目の奥が犯されそうな、濃く色付いている花びらを見る。こいつの感性はよく分からない。理解するのを諦めてセトを見上げる。
いつもは優男っぽいのに、なあ。
堪らずクスと笑えば、セトは不思議そうに俺を見る。そんなセトを引き寄せて触れるだけのキスをした。

「ヤらねえの?」

目を見開いたセトに意図してにっこり笑って聞いてやる。少しだけ優越感を感じながら頬を撫でると、撫でた手を取られてしまった。

「あざとい」
「媚びた声であんあん言ってやろうか?」
「萎えるっス」

服の中に入り込む手にぴくっと体を震わせて、軽口を叩けば真剣な顔で止めろと遠回しに言われた。
残念と思いながら、俺は花びらを蹴散らした。
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