139 | ナノ
セトシンと盗む

頬を掠めたさらっとした不思議な感触に肩を見た。黒い鱗に赤い目。するすると腕に巻き付かせた体を解き、首に引っかかる。戯れに首を撫でてやるともう一度というように手に擦り寄ってくる。人懐っこいものだなとまた撫でた。首はちくちくしていて、生きているのにひったりと冷たい。

「なんっ」

震えた声に顔を上げた。いつの間にか帰ってきていたセトはオレの目の前に立ち、ふるふると震えている。盗むが嬉しいそうにセトの顔を覗き込む。
すると、セトは突然キッと盗むを睨み、びしっと指を差した。人に指を差しちゃいけません、と言いたいが相手は蛇だ。この場合どうなるんだろうなと盗むを見れば、セトの指から器用にするすると腕に上がって行っていた。

「ふられた」
「なんでちょっと残念そう、って登らないでほしいっす!」
「登るぐらい許してやれよ」
「だってこいつ!」

セトは頬ずりしてくる盗むをまた指差し、若干涙目でオレを見る。別に蛇が嫌いというわけではなく、盗むによってもたらされた弊害にうにゃうにゃ言っているのだ。過去のことだろうとオレが宥めても、余程その過去が今でも強烈なのか、うぐうぐと口ごもってしまう。好かれていることについては嫌がっていないので時間が解決するだろうとオレは思っている。
なあ、と盗むに問いかければ、目を赤く光らせてこくりと頷いた。それにセトが更にわなわなと震え出す。

「な、なんで仲良いんすか!この間まで怖がってたじゃないっすかぁ!」
「いや、懐かれて擦り寄られると結構可愛く見えてきて。あとちょっとお前っぽいし」
「シンタローさん俺のこと犬みたいって言ったじゃないっすか!犬と蛇なら犬の方が分かりやすく可愛いっすよね!?」
「いや言ったけど、お前なに言ってんの?」

犬扱いされて犬じゃないっすってちょっとムッとしてたの誰だよ。なんで蛇に対抗意識燃やしてるんだ。
盗むは我関せずとばかりにセトに甘えている。それをどうすることも出来ずに苦い顔で受け入れるしかないセトは、見ていて可笑しい。つい小さく吹き出すと、手で素早く隠したにも関わらずセトががんっとショックを受けた。どんどん顔が真っ赤になり、違うんすよだのだってだの、意味のない言い訳をあぐあぐと積み重ねる。

「し、シンタローさんの馬鹿!」
「ぶはっ!く、あはははっ、おま、言うに事欠いて馬鹿って、小学生かよ!」
「ううう……っ」

情けない顔がどんどん赤くなり、じわあと涙が溜まっていく。あ、やばいとは思えど、その様が可愛くて可愛くて。盗むがおろおろとオレとセトを見比べる。

「ふっ……げほっ。あー、泣くなよ」
「泣いてない……」
「そうだな、泣いてないな」

泣きそうなだけだな。よしよしと頭を撫でるとぎゅうと抱きついてくる。こういう後、絶対めんどくさいくらい甘ったれになるんだよなと軽く後悔しながら背中を叩いた。
盗むがオレの顔を見て、ふむふむと頷きながらすかすかに透けていく。言われていないが、邪魔者は退散しようというような空気があった。それに居た堪れず、セトの肩に顔を押し付ける。

「幸助くんは甘ったれだなー」

八つ当たりのようにセトにそう言えば、抱きついてくる力が強くなる。痛いというようにべしべし強く背中を叩けば、ううっと呻く声が聞こえた。

「俺だって」

その後に言葉は続かなかったが、拗ねた声音に何と無く色々分かって、思わずこの年下をああ可愛いなと思ってしまった。

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