138 | ナノ
セトシン

まぐ、と大口で肉まんに食らい付く。はふ、と湯気が一気に増え、空気を白く漂った。ふかふかに蒸された白い生地に、味の濃い熱い挽肉や玉ねぎ。それが三口で手から消え、そして新しい物を掴む。
容器を開けて、中の出汁が零れないように持ち直す。絶え間ない色付いた空気を顔に被るのも構わず、割り箸を割った。出汁の染みた大根を二つに割り、口に放り込む。じゅる、と汁を啜る音が口を動かす度聞こえ、たっぷり含まれていたことが分かる。卵も半分に、ぱっくり。ほくほくの黄身と出汁に染まった白身。割った瞬間少し溶けた黄身を残念そうに見ながら出汁を白身で少し掬って招き入れる。ふは、と飲み込んだ口から熱い息がぶわりと吹き出され、まるで怪獣が火を吹いたようだった。マフラーを少し緩めて、手袋を外した真っ赤な指で箸を扱う。中まで熱々のこんにゃくを箸で掴み三角の一角にかぶりつく。

「はー、幸せっす!」
「だろうな」

ふはーっと幸せそうな笑顔のセトを見ながら、そうでしょうともと頷いた。えへへとだらしない顔でまたおでんに向かうセトを横目に、買ってもらったホットココアをすすった。さっきラーメンを食べたばかりでよく食えるもんだと感心する。こってりのトンコツラーメン、白く濁った濃いスープに絡まった麺をちゅるっとすすり、スタンダードな丸く盛られた玉子炒飯とパリパリに焼かれて羽のついた餃子を胃に収めた後のはずだ。それがするすると目の前で皿から去って行くのを味噌ラーメンを食べながら見ていたのだから間違えなど一つもない。しかもその後替え玉も頼んでた。
ちくわを一口で口に収め、オレの視線にも気付かない集中力。バイトの後とは知っていたが、まさかこれほどとは。
閑散とした公園にはベンチに座るオレたちしかいない。夜の九時、あたりはとっぷりと暗くなり家々の明かりや街頭くらいしか照らすものはないのだから、当たり前だろう。間抜けにも徹夜の眠気に耐え切れず夕方にかくりと眠ったオレは深い眠りであっさり夕食を食べ損ね、そこで丁度帰ってきたセトに起こされてこうやってセトと外食するに至ったわけだ。

「よく食うなぁ……」
「シンタローさんも食べるっすか?」
「入んねえよ」

そうっすかね、と不思議そうにオレを見るセトに手を振っておでんへ引き戻し、ぬるくなってきた缶を両手で握る。ふー、とベンチに凭れるとコート越しでも分かる冷たさがじんわり腰に染みた。手袋をしていても冷える指先、足も感覚が鈍くなるほど冷たい。
ちらりとまたセトを見ると、丁度食べ終わったのか満足そうに容器の蓋を閉めていた。ぱこく、と薄いプラスチックが鳴る。

「ごちそうさまでした」

ご丁寧に、手を合わせて言うセトの頬は真っ赤だ。熱いのかコートの前を開け、ゴミを袋に詰めて行く。ココアを飲み干してついでにと渡せばはいはいと受け取られた。

「美味かったか」
「やっぱ冬は肉まんとおでんっすよね!」

ぐっと握り拳を作って熱を込めて言うセトに、そうだなと適当に返事をした。鼻歌でも歌いそうなほど嬉しそうにベンチを立ち上がったセトに、やはり年下なのだなと実感する。
ふ、と微かに笑ったオレをセトはきょとりと見下ろす。

「どうしたんすか?」
「いや、お前が食べているところを見るのは面白えなって」
「えー、普通の食べ方っすよ!……ですよね?」
「どうだろうな」

オレの答えにがんっとショックを受けるセトを置いて早く帰るぞと言いながら歩き出す。名前を呼んでも止まらないオレに、セトは走ってゴミを捨てて追い付く。どすっと後ろから倒れないほどの衝撃、両肩から一本ずつ腕がにょきり。

「え、本当に俺そんな変な食べ方なんすか!?」
「ちょ、重い!うぐ、腕を回すな絞まる!絞まるって!」
「シンタローさんが答えるまで離さないっすからね!」

しつこく聞いてくるセトの重さや苦しさに耐えかねて足を思いっきり踏んで抜け出す。ダッシュでまた捕まらないように離れれば、不毛な追いかけっこが始まった。ぎゃーぎゃー迷惑だろというような声で言い合いをしながら二人で走り回る。どうせならもう少し焦らせておこうとか、ざまあみろとか、年上ながら大人気ない思いが色々あるけど、少しくらいはいいだろう。
寒い中散々見せ付けられた礼だ。ざまあみろ。
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