136 | ナノ
セトシン

ぐち、と合わせて擦られると、ひっと息が引きつった音を喉が出した。みっともない荒い息を繰り返すのに、頭がぼんやりと霞んでいく。熱気だけが高まって、とにかく熱くて汗がTシャツに吸いこまれた。セトの息がかかって、唇がぶつかる。
背中に当たっている壁がすでに温くて、下のシーツも同じ。熱に浮かされているのに、ふわふわと軽いものじゃない。どろりと固まっていないコンクリートのように重くて仕方ない熱。
もう何度イったか、なんて、思い出したくない。

「ひ、っ」

一緒に擦られて、二人分の先走りで音が無視できない。亀頭を触られる度に、がくりと脚が震えた。セトの体が邪魔で、脚が閉じられない。辛うじて引っ掛けている下着とズボンが邪魔で、蹴ることも出来ないのは誤算だ。着ている黒のTシャツの下の方が不自然に黒ずんで見ていられない。
するりと入ってきた手が、ない胸を触る。もうすでに何度も触られ弄られ、ひたりと指が当たっただけでぞわりとした。

「っう、……ん」
「ん、シンタローさん」
「う、あ、なん、だよ……?」

唇が離れ、セトに呼びかけられる。なんとか絞り出した返事に、セトが少し拗ねたような顔でまた近付いた。ちゅ、と軽くこめかみに触れ、ふは、と息を吐かれる。

「いれたいっす……」
「むり」
「なんでっすかぁ」

肩にぐりぐりと額を擦り付けらる。その間も手は動かすんだから器用なものだ。ぐり、と摘ままれて危うく声を大きく上げそうになった。
情けない声のくせに、欲情しきっているそれは訳もなく鳩尾あたりに熱を落とす。

「おま、え、の、好きにしていいから、いれんな……っ」
「だから、なんでって」
「ひっ、つ、お前オレとっ、話したいのか話したくないのか、んっ、どっちだよ!」
「話したくて、触りたい」

どっちかにしろと叱る前にがばっとTシャツを首まで捲られる。は、と行き場をなくした勢いに息が零れ、がちりと歯を打った。

「ん、ぐっっ、はぁ……!」

べろ、と、急に舐められた。ぎゅうっと足がシーツを掴み、がたがたと震える。
辛うじて飲み込んだ嬌声がごとりと喉を詰まらせて熱に溶けた。そして下も急に早く擦られ、少し治まったそれが急速に高まっていく。じゅう、と吸われて後頭部を壁に押し付ける。性急なそれに息が止まり、はくはくと空気を求めて口が開閉した。

「っっは、ぁ……!」

ぎゅうっと目を閉じると暗闇のどこかがぱちかち光った。息を思いっきり吐き出し、ぐたりと何度も味わっている感覚へと強制的に浸らされる。セトもぜえっと大きく吐き出し、顎から落ちそうな汗を拭った。腹に置かれた手がぬるりと生温い液体を纏っている。
その手が不意にずるりと落ちていき、太股を触って、その下へ。行き先に検討がついてがしりとセトの手を掴んだ。くっと悔しそうな顔をするセトを睨みつける。

「そんなにしたいか、猿」
「仕方ないじゃないっすか、シンタローさんが誘ってくれたのに」

おさまんないっすよ、なんて拗ねた顔で言われてうぐっと詰まった。誘ったというほどのことはしていない、はずだ。
ただ脱げと言っただけだ。結局セトは最低限しか脱いでいないので今更ながらも苛立ちが湧く。

「せめて理由は聞きたいっす」
「り、ゆう、って」
「本当に嫌なら俺だってしないっすけど、でもここまで許してくれといてってなるっすよ……」

思い出すだけで羞恥で思考が焼き切れる。じわあっとうなじが熱くなってぶわっと汗が吹き出た。話せと、あれを。
話すか、許すか。究極な二択だが、一方を選べば本末転倒だ。

「……引くなよ」
「え?えっと、はい、解りました」

こくりと頷いたセトの顔を見ないように下を向こうとして慌てて横を向いた。なんというか、間抜けな図だな。

「一人で、……その、したわけだ」
「……ああ、はい。一人で」
「なんでちょっと赤くなってんだよ」
「いえちょっとっ。あの、続きどうぞ」

さあさあと促すセトの勢いに押されて話そうとし、口を閉じる。これは死にたい、これは、死にたい。やっぱり来なきゃよかったと遅すぎる後悔に苛まれる。

「シンタローさん?」
「だか、ら……、その」
「……あの」

困惑した声に呼ばれるが頭が沸騰しそうなことを言うための心の準備はまだ終わらない。だからだな、とかあれがだな、とか。意味のない言葉だけが喉を転がり、肝心の言葉が出てこない。

「えっと、満足できなかった、とか」
「……っっーーお前のせいだからなあああ!」

言い当てられたことに愕然としながらも、それを上回る八つ当たりに叫んだ。ばちんっとセトの頬を思いっきり叩くがセトは口元を押さえて微動だにしない。

「お、お、お前のっ、お前のせいでっ!だ、だからいれなきゃいいと思ったんだよ!わりいかこれが理由だよくそおおお……!」

顔を覆って溜め込んでいた分を吐き出して叩き付ける。情けなさと後戻りできない体に涙が滲んだ。ばしばし肩を叩いていた手を止めて、セトのタンクトップを掴む。

「そ、れは」
「引くなよ!?お前のせいだからな、絶対引くなっ!」
「いえ、あの、引くというか」

理不尽でもなんでもない、全てセトのせいなのだから。
セトが引いたら今すぐセトの顔写真と番号でアレなサイトに登録してやると決意を固めた。エネにも手伝わせて複数のサイトに登録してやる。ある意味オレの前の体の敵討ちのようなものだ、全然理不尽じゃない。
そんな思考に囚われていれば、急に掴んでいた手を取られてぐいっと引っ張られる。ぎょっとしてセトを見ようとすれば、そのままシーツに倒れさせられて見れなかった。ベッドに顔を打ち、痛みより衝撃に呻く。
セトに抗議しようと体を起き上がらせようとしたが、その前に馬乗りになられたらしく、肩を押さえ付けられた。

「っ、セト!」
「シンタローさん、すいません」

降ってきた声に、びしりと体が固まった。セトの手が肩から離れたが、体の向きを変えることも起き上がることもできずにシーツを凝視する。

「そんな理由なら、もう我慢できないっす」

べろりとうなじが舐められたが、びくりと震えただけで声も息も出なかった。さあっと血の気が失せていく音が耳の奥で聞こえた気がして、シーツを掴む。

「俺無しじゃ、いられなくなりましょうね」

欲情で漬け込まれた声が、どろりと倦怠感よりずっと重く降って、オレの中に染み込んだ。
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