135 | ナノ
セトシン

はた、と落ちた汗を追い、声を飲み込む。ぞろりと内臓が引きずり出されるような感覚はいつまで経っても恐ろしい。必死に壁にしがみ付き、意味もなく爪を立てる。がり、と爪が剥がれそうなほど引っ掻き、耐えた。けれど後ろの気配がそれを見咎め、掬い取る。一本一本に唇が当てられ、微かな吐息がぶわりとなにかを起こす。
がくりと膝を折りそうで、できない。ずる、とぎりぎりまで抜かれ、そして奥まで入っていく。それを繰り返されると脳の細胞が逆立つような快感がじわあと掻き立てられ、喉を抉じ開けようとする。抗えば抗うだけ限界を越えて、けれどいつもは見当たらない我慢強さで確実に上書きした。
歯の間から漏れる荒い息、痛いほど噛み締めた奥歯、流れる汗にすらぞわぞわと肌が粟立つ。
恥ずかしい、情けない、そんな声を全力で噛み殺す。
我慢し過ぎて頭が酸欠のようにくらくらした。それに肌を辿る荒れた手や奥を暴かれる度に走る快感がブラスされ、追い立てる。脂肪のない胸を触られ、腰を撫でられ、崩れ落ちそうになれば抱えられ。
もう熱さで脳が腐ってだめになる、薄い皮が破けて中身が溢れる。

「……っーー!」

ふは、と後ろから息が落ち、耐え切ったことを悟った。がくがく震える脚に汗ではない液体がつう、と流れる。壁に額をつけて熱を逃がし、溜めていた空気を思いっきり吐き出した。過ぎた快感に後頭部がざわつく。余韻にどろりと重くなり、ふつりと意識も失いそうになる。

「シンタロー、さん……」

残る痺れがその低い声にもあって、弱まった力に終わったなと再度実感した。眠い、そして怠い。中にある生暖かいどろりとした液体。汗だらけの体が重い。
終わった、と安堵で息をつき、心の中で呟いた。
それが、だめだった。
安堵で力が抜けてがくんと膝が折れ、汗で手が滑った。

「シンタローさっ……!?」
「ひいっ、ん……!」

びりい、と足の裏まで走った。はく、と口が開く。身体中が震え、喉が痺れて息も震えた。
膝が床について、落ちた汗を踏みにじる。

「あ、んん……っ、ま、動く、なっ」
「え、あ……えっと」

いつも攻め立てられるそこを強く抉られた。耐えるという思考が無くなっていたせいで少し動かれただけで声が喉から溢れる。さっきまで散々我慢していたせいか、中々飲み込めない。
また勃ってしまった自身が視界に入り、カッと羞恥が走ったが、ふと気付くとまだ入っているものが、同じように硬さを持っていた。思わず首だけで振り返ると真っ赤になった顔でセトが近付いてくるところで。

「ちょ、っせと!も、むり…むりだってっ」
「あ、の、ごめんなさい」
「んぁっ……あ、ひ」

謝るくらいなら、するなと。
ぐいっと腕を引かれて一度抜かれ、シャツ越しの背中に床がひたりと当たった。制止の声にも謝るばかりで、充てがわれる。先程覚えた形がまたゆっくりと入ってくる感覚にぶわりと引いたように思えた汗が浮かんだ。
さっきよりゆっくり、それについ声が出る。

「う、あー……っん、ん」
「っ、あ、しんたろぉ、さ……っ」

今まで我慢してきたものが壊れていく。涙が出るほど情けなくて、恥ずかしい。死にたい。
そんなことを考えているとはまったく思っていないんだろう欲に塗れた必死な顔が見下ろしてくる。初めてしたときみたいに耳まで真っ赤な。

「シンタロさん、」
「いっは、あ、ん……」

足元から這い上がって来る、血管の中で流れていく。つい目を強く閉じれば、情けない声が呼んでくる。降ってくる。耐え切れず開けばへらりと笑う。こいつはオレをどうしたいんだ、なんて心中で怒って、でも腹いせに目を閉じることもできない。

「ふっ、なんか、すっげ」
「はっ、んんっっ!?」

くらりと視界が揺れる。一際強いそれにばちっと視界に瞬いた。
浅い息で非難するためにセトを見上げれば、琥珀がどろりと、溶けて混ざって酷くギラついているのを見付ける。

「興奮、します」

ぶわっと鳩尾のような、心臓の下辺りが押さえつけられたように痛んだ。
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