134 | ナノ
セトシン

その音が血管を通って鼓膜に届いているのか、漏れ出ている音が耳に入っているのか、もうすでに分からない。常にうなじにゾワゾワとした神経の震えを感じて、グッと手を伸ばして抑えたくなる。だがそれは叶わないため、懸命に首を縮めて耐えるしかない。
ヴヴ、と音がして、耳を通って脳を揺らした。喉がひくりと震え、変な声が漏れるのを必死に噛み殺す。じわあ、と熱が腹に溜まって、それがどんどん高まるばかりだから、汗がつとりと流れた。

「ひ、っ、っ……」

意識しないようにと思考を逸らすが、微かな振動に呆気なく引き戻される。は、と浅い息が繰り返し。
じりじりと、炙られている、嬲られている。
拘束をされていないだけに、余計情けなくて、退路も活路もない。いっそ自由に動かせる手足がなければ、などと考えるほどには八方塞がりだった。
なぜ、こうなったのか。そんなこと分かりはしない。原因がなにを考えているかなど、分かりたくもない。

「もう、やめ、ろ……」
「なにをっすか?」

しらっととぼけて見せるセトに、奥歯を噛んだ。
実際セトは、今は、なにもしていない。オレに後ろから抱きついているだけだ。それも強い力というわけでもなく、抵抗すればすぐに離してもらえるという空気がある。だからこそ、一層たちが悪い。
弱い刺激が、後ろで緩く快感を与えてくる。ぎゅうと折り畳んだ足は細かく震え、しがみつくように前に回ったセトの腕を掴む手は、力を入れ過ぎて真っ白になっていた。
大人のオモチャ、とでもいうのか、酷く目に痛いピンク色だったことだけは覚えている。それが体内で震え、今自身を苦しめているものだと思うと、目が眩む。

「ん……っ」

セトはなにもしない。触れてはいるが、そういう意図で触れない。ただ抱き付いて、オレの情けない姿を観察するのみ。
起ち上がった自身が、もうすでにドロドロになっていることが嫌というほど分かる。下着が気持ち悪くて、けど脱ぐには自分から行動しなければいけない。想像しただけで羞恥で頭の芯が痛む。
達することのない、けれど続く確かな快楽というものは、正に生き地獄と称して遜色ないはずだ。後ろに体温があるのが余計に恨めしい。これで触れ合っていなければ、まだ振り切れて焼きつくような苦悩もマシだったかもしれない。
膝の骨の下に、痺れが溜まる。それを額を押し付けてやり過ごすが、足の裏がつりそうなほどシーツを掴んでしまい、震えが止まらない。

「は、んんぅ……!」

もどかしい、達したい。勝手に進めてもらえる有り難さというのもあるのだと気付くが、こんなもの気付きたくも有難く思いたくもなかった。
ほと、と涙がズボンに落ちる。体を縮めて耐えるしか、方法がない。動きが制限されていないのだから勝手に一人でしてしまえばいいのかもしれないが、首にたまにかかる息がそれを止める。
ゾクゾク、と髪の生え際まで、走っていく。耐えろという理性ともう無理という欲望。

「あ、……ひ、ぁ」
「シンタローさんは、もうちょっと、理性が薄くなってくれると、いいんすけどねえ」
「ふ、ざけっ、ひ、いっ!」

つい、悲鳴。ぞぞぞっと、背骨を一気に駆けていく。達しそうでしない、一歩手前。
強くなった振動に、セトの腕をがりりと引っ掻く。背中が痺れて、セトの体温さえ辛い。丸まって、縮こまって。視界が涙でことこと揺れる。走った後のような激しい呼吸が肋を叩く。

「も、むり、むり……っ!」

意味もなく首を振った。子供の頃に戻ったようにかたかたと。セトが小さく笑ってオレを抱え込むようにピッタリと抱き付く。甘えるように肩に頬擦りされ、それだけなのにビクリと手が反応した。引っ付いたせいでセトのが起っているのが分かって、それにじゃあ触れよと怒りたいような、脳の下がざわざわと波立つような。

「い、けなあ、あっ……!」
「辛いっすか?」
「っ、ぅ」

耳の側で囁かれて、一も二もなく頷く。それにも小さく声が漏れたが、もう知ったことではない。解放されるなら、止まるなら。背に腹は変えられないと、何度も頷く。

「でも、きもちいでしょう?」
「へ、あ?うぁ、あっ、なん!」

かちち、と音がして、もう一段快楽が強くなる。ぎゅう、と抱き締められて、本当に嬉しそうな声が子供のように無邪気に笑う。

「もっと、きもちよくなってくださいねー」

ぞわっと、快感とは違う寒いものが体を通ったが、それもすぐに熱に飲まれて消えた。
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