129 | ナノ
セトシン

窓を開けても暑くて暑くて、その気温に白旗を早々に振り挙げたシンタローは窓を閉めてクーラーをつけた。まだ温い室内でかつん、かつんとマウスをクリックしてはコップに移したコーラを飲む。一度コーラを倒してキーボードを壊したことでほとほと学習したらしく、容器は蓋を閉めて床においてある。
じいわりと肌に涼気が当たるようになったころ、エネがひょこりと画面端に飛び出してきた。縮小ボタンのちょうど上に出てきたエネを、シンタローはうっかりクリックしたが、エネは白い矢印をべっと横に投げるだけに止めた。

「ご主人最近アジト行かないですね」
「最近そればっかだな......。こんな暑いなか、わざわざ行かなくてもいいだろ」
「結構アジトが気に入ってたっぽかったんで、急に途切れたのが疑問なだけです」

特に答えもせず、シンタローはエネに投げられた矢印を動かす。エネはちょろちょろと矢印についていくように動き、会話を続けようとシンタローのネットサーフィンの邪魔をする。

「なにかありましたか?」
「......なにもない」
「ご主人嘘つくの下手ですねぇ」

がしっとついに矢印を捕まえて尋ねてきたエネから、シンタローは分かりやすく目を逸らした。
エネはそんなシンタローをけとけと笑いながら、ぶらーんと白い矢印にぶら下がる。矢印が動くとエネの体はブランコのように揺れた。

「で、どうしたんですか?そういえばこの前言っていた人生相談、結局されていないので今でもいいですよ」
「しつこいな」
「性分です。ご主人はちょっと諦めやすすぎなのでぴったりですよ!」

楽しませるためにシンタローはゆらゆらとエネを揺らす。たまに一回転させるとうひょーと嬉しげな悲鳴が上がった。

「言いたくない......」
「そうですか。あ、ご主人、今度は二回転してみましょう!」
「目が回っても文句言うなよ」
「吐いた人を見ると目を回すくらいかわいいもんですよね」
「うるせえ!」

ぷすすと笑うエネの言葉で思い出した失態にシンタローはいつものように怒鳴る。自棄のようにマウスを掴み、エネのお望み通りにぐるんぐると動かせば、楽しげな声がいっそう高くなって部屋に響いた。

セトは指折りで日数を数え、五本の指がたたまれたことにため息をついた。シンタローがアジトに来なくなって五日が経つ。電話には出る、メールは返信が来る、けれどもアジトには来ない。セトは原因に心当たりがあり、それを思うと傷ついた。
目敏くため息を見つけたカノがセトの手を見てやれやれと肩を竦める。洗濯物を運んでいたキドがカノをたしなめようとして、結局諦めた。

「見てられないよ、その情けない顔」
「情けなくもなるっすよ」
「そんなに気になるなら見に行けばいいじゃん」

マリーから借りたのか、分厚い本をカノはぱたむと閉じた。本の外に垂れたままの紐が揺れる。
セトはそれが出来たらとうぐうぐ唸る。心当たりが心当たりなだけに、セトのいつもの一直線はぐゆぐゆにうねっていた。
カノはそんなセトをあきれたように見る。

「らしくないね、シンタロー君になにしたのさ」
「まあ......いろいろ」
「歯切れが悪い返事だな」

キドも内容が気になったのか会話に加わる。
ソファに座って洗濯かごに入れた衣服を手早く畳んでいく。ほらとキドに促されて、カノもセトも手伝い始めた。

「ケンカしたならお前が謝った方が早いぞ」
「そういうわけじゃないんすよね......」
「そうだろうね、セトって頑固だから、ケンカなら情けない顔はしないだろうし」
「ああ、本当に怒ると絶対譲らないもんな」

うんうんと頷きあう二人に、セトは拗ねた顔をしてみせる。

「まあ、そんなに行きにくいなら仕方ないな」
「お、解決策でもあるの?」
「ちょっと待ってろ」

キドが立ち上がってキッチンへと消えるのをセトとカノは首をかしげて見送った。少ししてキッチンからキドが出てくる。キドは戻ってきてセトの顔にべちりと小さなメモ用紙を叩きつけた。

「腰が引けるなら背中を押してやる、それをシンタローのところに届けてこい。団長命令だ」

腕組みをして座るセトを見下ろすキドに、セトはぎょっと目をむく。なにを言っているのだと立ち上がりかけ、堪えて考え直す。
確かにセトは申し訳なさなどで腰が引けている。強引だがここまで背中を押されている現状もキドとカノもシンタローを心配してのことだろう。そこまで考えてセトは肩から力を抜いた。

「じゃあちょっと、いってきます」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい、帰りに油揚げ買ってきてくれ」
「うっす」

メモをたたんでポケットに突っ込み、セトはドアを開ける。日々最高気温を更新し続けているのではと疑うほど暑い空気が肌を撫でる。ぐたりとした草花、熱されたアスファルト。
セトはシンタローの家まで歩き出した。

暑い日差しのなか、モモはフードをかぶって歩く。モモはコンビニから帰る途中で、手にはコンビニの袋がさがっている。なかにはアイスが入っているが、暑さでもう全部溶けたのではとモモは心配で日陰に過剰に入っていた。
アスファルトの熱でゆらりと向こうが揺れる景色、そこにモモは見慣れた姿を見つけた。手をあげるとあちらも気づいて手をあげて返す。距離が縮まり、二人はお互いの目の前で立ち止まった。

「セトさんバイトですか?」
「いえ、シンタローさんに用事っす」
「あ、最近アジト来てませんよね。だからですか?」
「それもあるっすけど、あとはキドからの用事もあるっすよ」

セトの言葉にモモはそうですかと頷く。兄が心配をかけているなら申し訳ないと思いつつ、モモはありがたいと思った。誘う度に言いよどんで断るシンタローを、モモも心配していた。嫌がるという様子じゃなく、ただ言いづらいから聞かないでほしいという信号に、モモはすごすご一人でアジトへの道を行くしかない。

「お兄ちゃん部屋でパソコンしてますよ。あと全員分のアイスあるんで、お兄ちゃんにもアジト来たらアイスあるって言っといてください」
「ありがとうございます、了解っす」
「じゃあまた」
「気をつけてくださいね」

ひらりと手を振って二人は別れる。
モモはセトの後ろ姿を見送り、エネが秘密で勝手に作ったエネ専用アドレスにメールを送る。思い出されるシンタローの気まずそうな顔に、モモは気を利かせた。

「セトさんが、そっち行くらしいから、こっちおいで、......っと」

なんとなく好奇心で袋のなかのアイスに触れると、ふにと溶けた柔らかい感触が指に伝わり、モモはアジトに急いだ。

エネがなにやら上機嫌で去った数分後、シンタローは聞こえた二回のチャイムにダルそうに階段を降りた。母がいるとてっきり思っていたが、そういえば今日はいなかったとやっと思い出したのだ。三回目のチャイムが鳴りそうな玄関にシンタローは急ぐことなくインターホンも出ずにドアを開けた。

「あ、シンタローさん」

にこりと笑うセトが玄関先に立って、今まさに三回目のチャイム手をかけているところだった。シンタローはぎくりと冷えた体を自覚し、ああと当たり障りない返事を返す。

「どうした」
「ちょっとシンタローに用事で」
「あー......入れ、居間の方」
「お邪魔します」

玄関先で話してもらおうかと思っていたシンタローは、予想される会話の内容に理性的なストップをかけた。
セトが少し意外そうな顔をしたあと、お辞儀をして玄関をくぐる。セトが靴を脱いでいるあいだにシンタローは玄関から上がって居間に入った。
誰もいない居間にクーラーがかかっているわけもない。シンタローはキッチンに入って作りおきの麦茶を冷蔵庫から出し、クーラーをつけた。
そろそろと慣れていない様子でセトが居間に入ってくる。シンタローはセトにソファを指し、座らせた。

「で、用事は」
「最近アジトに来ないことについて、っすかね」
「気分だって言ったら帰るか?」
「帰るっすけど、......納得は、しないっす」

セトの答えにシンタローは気まずそうに頬をかく。麦茶を注いだグラスを持ってソファに向かい、一個をセトに渡した。

「後悔してるっすか?」

シンタローは迷うように目を動かし、麦茶を飲む。

「男に、抱かれた、だけ」
「だけっすか」
「だけだろ」
「本当にそう思ってるんすか」

不自然に黙ったシンタローに、セトは軽く唇を噛んだ。
合意の上での行為で、そういう関係でもある。けれどシンタローはその後日からアジトへぱたりと来なくなった。自覚しているシンタローはセトを気まずそうにちらりと見て、口を開く。

「お前がオレとそういうことできるはずないって、思ってたんだよ」

セトはきょとりとして、小さく声を溢した。それをごまかすように出された麦茶に手をつける。

「......それ、なんで俺と付き合ったんすか」
「いや、うん......怒らず聞けよ?」

今もきょとりとするセトに、シンタローは牽制を入れて躊躇いながら話し始めた。

「......オレは、さ。その、起たないと思ってまして」
「俺が」
「お前が。......あ、いやお前が起たない奴とかそういう意味じゃなくて」
「あ、ビックリしたっす。嫌な疑惑かけられていたのかと」

ぎょっとしたセトにシンタローは予想されるセトの思考を慌てて否定した。不能疑惑など、かけたくもない。
ホッと安堵してみせるセトに、またもごもごと口ごもる。

「あ......はい、なんか分かったっす」
「ああ......その......」
「ショック受けるんで、言わないで」

雰囲気と流れで大体シンタローの言いたいことを察したセトは待ったをかけるように手を上げた。そして顔を覆ってううんと唸る。

「好きって言ったっすけど」
「はあ、言われました」

シンタローが無意味に敬語になると、セトは諦めたようにくたりと笑う。

「それじゃ、ダメなんすね」

ぐっと言葉に詰まり、罪悪感によって居心地も空気も最悪へと変わる。そんな顔をさせたいがために、シンタローはセトを避けるように引きこもったわけではなかった。けれど考えども考えどもぐるぐるとループする思考に吹切がつかず、だらだらとこんな状況を作り出したのはシンタローだ。

「ご、め」

思わず謝罪を口走ったシンタローに、セトはゴトンッとコップを置いた。そして重々しくため息をつく。

「謝ったら怒るっす」

言葉を飲み込んだシンタローを見て、セトはポケットからキドのメモを出してテーブルに置いて立ち上がる。

「キサラギさんがアジトにアイスあるって言ってたっす」
「......あ」
「俺が居ないときでいいっすから、来たくなったら来てください」

じゃあ帰ります、とセトはシンタローを置いて居間を出る。ぱたりと居間のドアが静かに閉められた。その途端ドッと軽減した重苦しさにシンタローは立ち上がる。
キドのメモを乱暴に取ってポケットに突っ込み、セトの後を追い掛ける。ドアを開けると、ちょうどセトが靴を履き終わっていたところだった。

「セト」
「いいっすよ、見送り」
「違う、上がれ」

振り返らなかったセトが訝しげにシンタローを見た。近付いて腕を取り、シンタローは引っ張る。靴のままでも上げようとするシンタローに、セトは流されて靴を脱ぐ。セトを引っ張って階段へ追いやり、シンタローは一番奥と早口に伝えた。
困惑しながらも階段を上がるセトを見て、シンタローは居間に入ってクーラーを消す。そしてなにも考えずに上げた自身を思う存分責めた。ぐたりとその場に座り込み、頭をがしがしと掻く。

「オレが、悪い」

確認するように小さく呟き、立ち上がる。恐らくだが、セトはシンタローを避けてくれるだろう。それが予想できるだけに、セトを帰すわけにはいかない。
オレが悪い。また呟いて二階に上がった。
シンタローが部屋に上がるとセトはすぐに立ち上がった。そんなに時間をかけた覚えはなくとも、すでに十五分ほど待たせているのが時計で分かる。

「キドのメモでも読んだんすか?」

セトの問いにシンタローは首をかしげ、ポケットに突っ込んだメモを引っ張り出した。くしゃりと寄った紙のシワを開こうとするが、セトに制される。メモを手から抜き取られ、セトのポケットに戻った。

「読んでないなら、いいっす」

セトの声を聞いて、さっきまでの声に冷えがあったことにやっと気付いた。なにがセトの気分を上げたのか、呆れが混じりながらも温度が戻っている。
シンタローは思ったより冷えていた指先を擦り、何気なく下ろす。

「セト、ごめんな」

ぴく、とセトの表情が動いた。一瞬だけ顔をしかめ、けれどどうにか飲み込んでいる。

「怒るって、言ったっすよね」

苛立ち混じりの声を、今まで聞いたことがない。シンタローは謝りそうになるのを一瞬止め、絞り出す。繰り返すほどにセトの感情が荒立っていくのが表情で分かった。

「シンタローさん」
「ごめん」
「ねえ、ホント怒るっすよ」

セトがシンタローの肩を掴み、腹立たしさを押し殺した声で呟くように告げる。痛みで声を漏らすほど一度強く掴まれ、シンタローの声は震えた。

「怒れ」

意味が分からないと目を合わせるセトに、シンタローは目を逸らすのを懸命に堪えた。

「お前は怒っていい」
「なんすか、それ」
「ごめん」

ぎゅう、と寄った眉間のシワ、つり上がった眉尻、細められた金色の目。

「ごめんな、セト」
「ズルい」

シンタローが言い終わるか終わらないか、セトが非難する。くしゃ、と顔が崩れ、泣きそうな顔を作った。

「それはズルい、貴方はズルい」
「ごめん」
「好きっすよ、本当に」
「うん」

シンタローが頷くと、セトはシンタローの腕を離した。ぐす、と一回だけ目を擦る。

「シンタローさん」
「なんだ」
「触りたい」

シンタローは一回だけ目を閉じ、セトに頷く。怒れよ、と少し呆れて言えば、無理っすと情けない声が答えた。

う、と異物感で顔をしかめるシンタローをセトは見下ろした。前戯もおざなりで、ろくな準備もない。とにかく指を濡らして慣らす。
前回の行為を思い出しているのか、シンタローは少し青ざめて耐えていた。震える体に、セトも罪悪感を抱かないわけではない。けれど仕返し、といえばいいのか、止める気には到底なれなかった。
たまに性器を擦るとシンタローは上擦った声を溢すが、その他では反応は鈍い。セトはぼんやりと熱が溜まる脳でその反応を焼き付ける。
ぐち、と音を立てて指を増やせば、また狭くなる。息が浅いシンタローに、さすがに意識を集中させるのは酷かと指を動かした。ずり、と中を擦る。大袈裟なほどびくっと震えたシンタローがセトを見上げた。

「セト」
「大丈夫、大丈夫」

宥めるように汗で張り付いた髪を払った。それでもシンタローは不安そうな態度を潜めず、うろうろと視線を動かす。
シンタローはずっと泣いていたことをセトは思い出した。とにかく未知の感覚に恐怖しか感じておらず、どれだけ宥めようと無理だと首を振っていたのだ。
行為自体がトラウマになっているのかと、セトは今更ながらに思い至る。セトのことも、行為自体も。今だショックなのは変わらないが、しかし愛しさが込み上げる。
指を引き抜くと、シンタローはあからさまにホッと安堵した。仕返しとしては十分かと、セトはとりあえずショックを逃がしてシンタローを抱き締める。

「なん......」
「シンタローさんのビビり」
「うぐっ」

自覚しているのかシンタローは分かりやすく言葉に詰まった。うろうろしていた目がやっと落ち着き、セトを見る。微かに痺れたように細かく震える手が延びて、セトの髪をくしゃりと撫でた。

「ごめん」
「もういいっすよ」

お腹いっぱい、とおどけるとシンタローはぎこちなく笑った。
力が抜けたシンタローの体にセトは手を這わせる。服の中に入って身体中を撫でるように、時々マッサージでもするように擦った。

「セト?」
「痛いことはしないっすから」

大丈夫、と囁く。ぎくっと強張ったシンタローも、セトがまた抱き締めると徐々に強張りを解いた。

「知ってる」

腕が首に巻き付き、背中を掴む。じわ、と広がる体温に擦り寄り、セトはまた下に手を伸ばした。また一本から入れ、慣らす。ぐ、と背の服を掴むシンタローの背中をとんとんと叩いた。
そして前回覚えた前立腺を擦って探す。息を詰める声が耳元に直接聞こえ、指を止めそうになるのをセトは耐えた。

「ひっ、っ」

しばらくして聞こえた悲鳴のような引きつった声に、またそこを擦る。シンタローの背中がびくびく震え、セトに更にしがみついてきた。しこりのようなものを見付け、ぐにぐにと押す。

「あっ、ぐ......!」

シンタローがぎり、と歯を食い縛る。ぐいぐい顔を肩に押し付け、息も止める。セトが動きを止めて伺うと、やっと息を吸う。

「シンタローさん、息」
「わ、ってる」
「ん、いい子っすね」

こつ、と額を合わせて子供のように褒めれば、不満気に背中を引っ掛かれる。それに苦笑しながら、セトは指を増やした。
しばらくは無心にそれを繰り返すと、指が三本入るようになっていた。どれぐらい経ったか正確には分からないが、セトには何時間と経っているように感じる。
ぐらぐらと頭が茹で上がったかのように熱く、顎から汗が落ちた。

「っ、う、ん」

ぐち、と抉ると腹を震わせて反応する。萎えていた前も起ち、シンタローはもう掴まっていられない状態になっていた。セトが見下ろして顔を眺めても、気付かずに声を噛み殺す。目の前の痴体に、ぞくぞくっとセトの背筋に震えがかけ上った。指を動かしながら足を肩に乗せる。

「......?」
「息、吐いて」
「まっ、っーー......!」

取り出して宛がう。目を見開いたシンタローが青ざめるより前にぐっと押し込む。シンタローの喉が反って声にならない声がその喉の内側から滑り出した。
割り開いて飲み込ませる感覚にセトは奥歯を噛み締める。耐えがたい時間を耐えたお陰でそこまでの抵抗はなく、セトはすべて納めきった。

「っっ......、はっ、は!」

シンタローが思いっきり息を吸って吐くのを、セトは見詰めた。激しく上下する肋の形。

「う、ぁ」
「シンタローさん」
「っん......」

呼び掛けに視線だけでちろりと答えたシンタローに、セトは頬を軽くつねった。

「思い知ったっすか?」
「も、じゅーぶん......」

参った、とシーツの上で両手を顔の横に持ってくる。それにセトは破顔し、眉を下げた。

「ひっ、あ!」
「じゃあもうちょっと、思い知って」
「っ、んあ、あ、あっ」

腰を掴んで引き抜き、大きく動かす。シンタローは泣きそうな顔でセトを睨む。けれどセトはにこりと笑んだ顔でシンタローを見下ろした。

キドからメモに預かったメモを開く。綺麗な読みやすい字でアジトに来いと書かれたメモ。くしゃりと潰し、ゴミ箱に捨てる。セトは窓の外が夕方になっていくのを見てケータイの電源をつけた。

「シンタローさん、アジト行くっすか?」
「立てねえ......」
「あはは」

メールを作成し、帰れないと報せる。シンタローが呻きながら時計を見て、ゲッ、と苦い声を出した。

「......ごめんな」
「こういうの、惚れた弱味って言うんすかね」
「は?」

しおらしく謝罪され、結局は怒りなどとうに霧散している。許すしかない心境に、セトは深くため息をついた。シンタローはなんのことやらと首を傾げる。

「もっと、思い知ってください」

シンタローが返事に窮するのを見て髪を撫でる。

「俺は貴方が抱きたいんすから」
「......むっつりか」
「そうっすねぇ、もう一回くらいは」
「おやすみ!」

急いで布団を被るシンタローにセトは思う存分笑う。ケータイが返信を報せたが読む気になれず、そのままセトも布団に潜った。
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