127 | ナノ
セトシン

う、と食べ過ぎによる吐き気でオレは呻いた。すかさず隣にいたセトがオレの背中を擦る。
じゅう、と肉の焼ける音、絡んだタレの匂い、もうもうと上がる煙、目の前の焼き肉用のタレと割り箸、大皿に盛られている赤と白の生肉。全てがダイレクトにオレを襲う。明るすぎるほどの黄色の照明が眩しい。
成人男性としてどうなのかと言われそうな量しか食べていないが、元来オレは肉が得意でない。味云々もあるが、体が基本的に肉を受け付ける作りでないのだ。脂身など、胃に鬼門。そんなオレが牛をひたすら食べるなど、無理がある。
だから今日誘われたとき、本当は断ってさっさと帰るはずだったのだ。しかし流されやすいオレは頭数が足りないだの割り勘だからだの説得を重ねられ、さらにはセトが先に陥落してオレの説得に追加されたのである。
ふざけるな。本当にふざけるな。
そして行ってみれば合コンで、オレは全力で帰ろうとしたがセトにまた説得させられてここにいる。軽度のコミュ障を背負ったままのオレは自己紹介から喋ってない。頭数が足りないのでは格好がつかない、そのためだけだから別にいいだろう。誘った奴らは女の子がセトに興味津々で若干涙目だ。ざまあみろ。
そんなこんなで数時間、オレにしては耐えたし食った。飲み物を飲んで事なきを得ようとしたオレに途中で厄介な世話焼き女が気付き、やけに肉をオレの皿に乗せていったのだ。食べないわけにもいかず、どうにか胃に納めていたが、もう限界だと胃が悲鳴を上げた。

「大丈夫っすか......?」
「む、り......」

店員に頼んですぐに水を渡してくる辺り、こいつも慣れてきたなとぼんやり思う。どうしたどうしたと誘った奴らがオレを覗き込もうとするが、その前にセトにさらっとかわされている。当たり障りなく、今日体調悪かったみたいで、と告げている声。

「すいません、諦めさせれば良かったっすね」
「どうせ、オレが流されやすいからだろ......」
「あはは、バレてたんすね」

それぐらい、分からないわけがない。気持ち悪さの中、セトを睨む。本当に申し訳なさそうな顔をしているのを見て許してしまうのは、さすがに甘すぎだろう。
肩に頭を乗せて下を向く。もう照り付けるような照明も怖い女も懲り懲りだ。

「帰るっすか?」
「かえりたい......」

呻くように答えればセトは手早く荷物を纏めて事情を説明している。女に参っていたのか、セトも荷物を纏めていて、どうやらオレを送る流れにしているらしい。そつがない。
不満そうな声と申し訳なさそうな声が聞こえるが、もうなにも言う気になれなかった。黙殺して吐き気に耐えていれば、セトに腕を引かれた。やっと帰れるとホッとし、顔を上げる。帰りましょう、と笑いかけるセトに頷いてふらふら後をついていく。
外に出るとやっと少し気が楽になる。依然吐き気は喉奥で迫っているが、気分だけでもマシだ。

「一回吐くっすか?」
「......いい。どっか、すわりたい」
「もうちょっとで公園っすから」

もう少し、と言ってオレを引っ張る。一滴も飲んじゃいないのにふらふらと、端から見れば酔っ払いだろう。
言われた通り、公園にはすぐついた。ベンチに座って吐き気をやり過ごす体勢に入る。

「寝なくていいっすか?」
「ん......」
「飲みかけっすけど、水どーぞ」

半分くらい入っているペットボトルが渡されて、隣に座られる。セトの肩にまた頭を置く。少し高くて広い、固いことに目を瞑ればいい頭置き。くしゃくしゃ頭を撫でられる。

「焼き肉臭い......」
「そこは我慢してほしいっす」
「もう行かない、絶対行かない」
「俺も、もう頼まれても誘わないっす」

セトが軽く笑う。ふー、と深く息を吐けば、ぎゅっと手を握られた。外だぞと文句を言おうと思ったが、夜の公園など誰も来ないだろう。もういいかとそのままにしておくと、セトがもっと握ってきた。はいはいと返事をするように握り返せば、うーんと唸る声が聞こえる。

「なんだよ」
「キスしたいっすね」
「焼き肉味はごめんだぞ......」
「そうっすよねぇ」

少し悔しそうにもごもご口を動かしているセトに、バカじゃねえのと呟いて胃を落ち着ける作業に戻る。死活問題っすよ、と真剣な声でまたバカなことを言われたが無視して目を閉じた。
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