10 | ナノ
マリー

ふと真夜中なのに目が覚めた。つうっと頬を伝う涙がこそばくて拭えば、また新しい涙が頬を伝った。
またかあと思いながら起き上がる。
机には内職のバラを作る道具が散乱していて、ベッドに積み重なった本がどさっと雪崩を起こした。いつもの部屋。なのに涙でぼやけて仕方ない。
顎を伝い、布団に落ちる涙をぼうっと眺める。ふと視線を窓に向ければ真っ赤な椿が置いてあった。

夜泣き椿。どこかのお寺で人の不幸をひっそり泣いて知らせる椿。
どうやら私はその椿に好かれているらしい。こうやって私の涙で不幸を知らせてくれるほどには。
椿を両手で持って、花びらを撫でる。わざわざありがとうと呟けば、どこかで木がざわめいた。
ぱたぱたと落ちる涙を拭って電気をつける。ぱっと明るくなった私の部屋は、いつも通り本だらけだ。
ぺたぺたと裸足で歩いて部屋を出る。暗い廊下を歩けば、ある部屋の前でぼろっと大粒の涙が溢れた。ここかとドアに向かう。
キドの部屋。
しばらくじっとドアを見て、そのドアの前に椿を置く。数歩後ろに下がれば、椿は急速に枯れ、真っ赤な花びらを一枚落として溶けた。その花びらを拾ってとんっと部屋のドアに押し付ける。
ぴたりと急に涙が止まった。
ホッと息をつく。
これで大怪我はしない。何故かは分からないけどそれが分かる。するのは小さな小さな怪我だけ。まるで椿が不幸を吸っているみたいに。
ぺたぺたとまた部屋に戻って、窓の向こうを見た。椿の木は見当たらない。

「ありがとう」

心の底から感謝を呟けば、答えるようにまた木がざわめいた。ふふ、と小さく笑う。
ぱちっと電気を消して、ベッドに入った。とろとろと睡魔が体に満ちる。程なくして私は眠りについた。

朝の音にぱちっと目を開ければ、眩しい光が窓から溢れて私を照らしていた。
ふあっとアクビをしてベッドから降りる。顔を洗って、服を着替えて、雪崩れた本を片付けて、そして忘れないように引き出しから絆創膏を出す。
よしっと大きく言って部屋を出た。キドが食事の用意をしている。

「キドおはよう」
「マリー、おはよう」
「はい絆創膏」

にっこりと笑って絆創膏を渡せば、面食らったようにぎくっとした後、敵わないと言うようにキド首を振って絆創膏を受け取った。
目の前で腕に貼り付けられた絆創膏。

「マリーにバレなかった事がない......」

キドの言葉に私はえっへんと胸を張ってみた。
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