117 | ナノ
セトシン

「男が好きでシンタローさんが恋愛対象になってるんすけどシンタローさん的にはこれどうなんすかね」

にっこりといつも通りに笑う顔がとんでもない言葉をオレに投げ掛けた。ペットボトルが手から滑り落ちてがごんっと落下音がする。プラスチックが一瞬凹んでまたもとに戻った。
変な沈黙にぶわっと汗が吹き出た。暑いのか寒いのか分からない。

「へ、」
「ハッキリ言うとセックスしたいんすけど」

間抜けな声を前にハキハキと告げられるショックな事実。セトの変わらぬ笑みにサアッと血の気が失せていく。突然目の前の男が得体の知れない化け物にでもなったような気分になる。

「顔真っ青っすよシンタローさん」
「っ......!」

心配そうに伸ばされた手を叩き落とす。覚えのある感覚にゾッとする後悔と罪悪感が沸き上がったが、それでもその手に触れられたくないというのが本音だ。
ハッキリ言うなら、気持ち悪い。
男同士の恋愛なんてネットやテレビの中だけで、本当に近くに存在していると思っていなかった。確かにそういう人が確実に存在しているとは知っていたがオレがその対象になるなんて予想外すぎる。しかも肉欲込み。

「予想通りの反応っすねえ」

手を閉じて開いて、感心したように見る。
セトは気分を悪くしたようにも傷付いたようにも見えない。もしかして冗談だったのではと期待が募るが、セトはその系統の言葉を口に出したりしなかった。

「なんで、そんな、急に」

気持ち悪いとつい吐きそうになる口を違う言葉で形を変えさせる。うん、と考え出したセトは本気なのか。
黙っとけば良かっただろ、と自分勝手な気持ちが湧く。もしかしたら夢なのかもしれないと手のひらに伸びていた爪を立てたが痛いだけ。

「そうっすね、知ってもらおうかと」
「......知りたくなかったけどな」
「それはシンタローさんの我が儘で、これは俺の我が儘っすよ」

ああどっちも自分勝手ってことか。

「それに人ってマイナスからプラスに転じるのは簡単なんすよ。覚えがないっすか、優しく話し掛けられたりかわいく笑ってたりするとあんまり好きじゃなかった人間もああいい人だって思っちゃうこと」
「......」
「あるっすよね」

まるで知っているかのようなセトの態度に目を反らす。覚えがある、人間は結構単純な造りだから。

「そういうことっすよ」
「......つまり、お前は、オレを」

言葉が詰まった。なんだか自意識過剰な気がして先を言い淀む。けれどセトはいっそう笑って宣言した。

「あわよくば、落とさせてもらうっす」
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