116 | ナノ
セトシン

「シンタローさん、口」
「だから、嫌だ」

べっと舌を出してみるけどこれもダメらしく呆れたような顔で見てくる。そのまま出した舌で荒れた唇を舐めるとまたぎゅうっと閉じられた。頑なに開かない。

「あー」
「やだって」
「じゃあ舌だけでも」
「それなし崩しのパターンだろ」

言葉で催促してもぺしんと返される。十分だろ、と言ってくるシンタローさんにそれもそうだけれどと妥協の道を歩みかけそうになる。
がぶ、と閉じるように噛む。はむはむ甘噛みするとなんだか奇妙な呻き声がうぐーと漏れた。

「しつこい」

一回離してみるとごしごし口を拭かれ、べちりと顔を叩かれる。そんなに嫌がられるとショックなんすけどとぼやけばハッと鼻で笑われた。

「男が落ち込んでても情けないだけだからその顔止めろ」
「なんで今日だけはダメなんすか」
「鼻詰まってるから」

ティッシュ取ってと言われて大人しくティッシュを箱ごと献上する。最近ずっと風邪気味だと言っていた。シンタローさんが鼻をかんでゴミ箱にティッシュが増える。その度に苦しそうに息を口からぷはーと吐き出すシンタローさん。

「てかお前こそなんで今日そんなにキス魔なんだよ」
「ずっとマスクしてたからっす」
「ええ......意味わからん......」

風邪気味だからと最近マスクをしていた。そりゃ移ったら悪いと思ってくれてのことでお礼はすれど責めるものじゃない。けどこっちはお預けだったわけで、ようやく今日外してきてくれたわけで。
顔を近付けると抵抗はしないけれど口は結ばれる。ガキだろうな、ガキだ。キスせずに抱き締める。

「あーめんどくせーですよセトさーん......」
「キスしたいっす」
「してるだろ」
「口の中舐めたいっす」
「その言い方はさすがにキモいから止めろ」

大分嫌だったらしくシンタローさんの声が固くなる。

「お前酔ってないよな?」
「飲んだことないっすよー」

心配そうに俺の顔を覗き込んでくるシンタローさんの目に不貞腐れたようなカッコ悪い俺が写る。誤魔化すようにがぶりとシンタローさんの口を噛むとバシンッと思い切り平手打ちを食らった。地味に痛い。

「犬か!」
「わん」
「思った以上に可愛くないな」
「可愛さを求められているとは思ってなかったっす」

可愛くないと言いつつ犬を撫でるようにわしわしと頭を撫でてくる。頭を撫でられるなんて最近めっきり無いから少し気恥ずかしい。

「情けねー顔」

撫でられて鼻声で小さく笑われると小さな子供や聞き分けのない犬にでもなった気分になる。

「あー、......今日は泊まるから、我慢しろ」

そういうことを言ってしまうのだから余計情けなくなるのだと、言ってもきっと分かってもらえない。
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