105 | ナノ
ヒビモモ
@fqさまへ

はたはたと地面を打っては色を濃くする存在にくたりと脱力する。むっとした湿る生暖かい空気、地面から飛んで足を濡らす滴。がたばたとトタンの屋根が激しい音を立てている。ために通る風は涼しいけれどその分吹かない時は暑くて堪らない。まるで牢獄のように感じてしまう。
堪らず暑いと言ってしまえば隣から鋭い視線を受けた。ぎくりとする体を無視して睨み返す。頭一個分程度の身長差。

「あんまり言わないでくれない、もっと暑くなる」
「仕方ないよ、暑いんだもん」

また、と呟く声を無視して顔を上げる。空はまだどんよりしていて重苦しい、閉塞感すら感じる。さっきまで晴れていたのに何だと言うのだろう、蒸し暑いこの牢獄に生意気な小学生と二人きり。
手に持ったビニール袋がうっすらと濡れている。中に入っているのは菓子類だ。その中にあたりめがあるのだが、それに渋い顔をされたのは見なかったことにした。

「もう走って帰っちゃう?」
「せっかち」
「なんだと」

かちんときて視線をちょっと落とす。見えたのはバカにする顔、なんとムカつく憎たらしい顔だろうか。頬を引っ張ろうと手を伸ばせばあっさりぱしりと叩き落とされた。そういうところもムカつく。
そこまで激しく降っている訳じゃないし、走って帰れない距離でもない。そもそもこんな暇はごめん被りたいのはあっちもだろう。そう判断しての言葉だったのに。

「直ぐ止むよ」
「......止む様子が全く無いけど」
「そう思うならそれでも良いけど、ここからだと走ったらずぶ濡れだと思う」
「うええ......、それは困る......」

あんまり濡れないかなとか思っていたが相手はそうでもないらしい。目測が苦手でいつも検討違いのことを言ってしまう私としては相手を信じた方が無難というものだ。
ここで大丈夫大丈夫と言って風邪でも引いてしまえば目も当てられない。それに明日はドラマの仕事だ、今度こそ風邪を引いてくれるなとマネージャーに念を押されまくった後だった。

「誰でも良いから傘くれないかな......」
「そういう思考が許されるのって結構なことだよね」
「な、何が?」
「別に」

閉まったシャッターにがしょんと背をもたし、一人言を呟いた。はずだが、まあ二人だけなのだからもちろん筒抜け。バカにした感じというより呆れたような顔をされてしまい何だか悔しい。ただの妄想みたいなものなのに。

「モモ、お金持ってる?」
「ん?まあ千円くらいなら」
「待つの飽きたんだったら買ってくるから頂戴」
「え、買ってくるって」

財布を覗いて答えれば何てこと無いように答える幼い顔。けれど表情が大人びているからどうにも年齢と合わない。

「傘だよ、まあ無駄になるかもしれないけど待つならまだ僕のせいに出来るでしょ」
「風邪引くよ、だめ」
「さっきは走って帰ろうなんて言ってたじゃん」
「それは二人でだよ、だめだからね」

財布を仕舞って頑として受け付けなければ、隣の体温が首を傾げる。変な持論、と呟いた声にそれでも私は受け付けない態度を示す。それで諦めたのか、相手はぼんやりと空を見上げる。私は横顔を眺めていれば、その顔はくるっと突然こっちを向く。

「晴れた」
「え」

勝ち誇ったような顔に止まっていた思考が言葉によって動き出す。わたわたと慌てながら空を見上げればぱらっと少し降った雨を最後に雲が遠くなっていく。本当に言われた通りすぐ晴れてしまった。隣を見れば、満足げに空を見上げている。

「予言者?」
「......なにそれ」

少し驚いた顔をされた後、くつりと笑われる。急に雰囲気が変わって幼くなる顔。

「予言が出来るなら最初から傘持って来たよ」
「あ、そっか」

そこではたと一緒に来なかったとは言わない所に気付いて妙にむずむずした。
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