97 | ナノ

『貴音へ』
『僕の絵を全部貰って欲しい。全部全部、結構頑張って描いたんだよ。こういうのなんだろうなーって思って描いてたんだけど、貴音全然気付かなかったよね。相変わらず貴音だね。』

「どういう意味よ」

『貴音の写真好きだよ。綺麗でいっぱいで。でも僕は撮らないよね。』

「遥も私描かないでしょ」

『僕は、あんまり生きれない。壁に絵を貼るとか、貴音と同室でとか、色々我が儘が許されてたら流石にね。うん、でも本当はもっともっと前から気付いてた。元々僕はそういう身体だった。』
『小さい頃からずっとそう。でもやっぱりこういうの書くの怖いね。字がガタガタで読みにくかったらごめんね。』

「綺麗じゃん、嫌味かっての」

『貴音、僕いっぱいズルしてるんだ。貴音が言いたいこと知ってたんだ。どれくらい前だろうね、ずっと見てたから。』
『僕は長くなくて、だから貴音に責任が取れないから、ズルしてたんだ。』
『キスしちゃってごめんね。誤魔化しちゃってごめんね。』
『貴音、その時無反応で焦ったよ。』

「ビックリしたんだから」

『正直叩かれると思った。』

「殴りたい」

『貴音って僕に遠慮しないからすっごく痛いんだ。こういうことされると痛いんだって、初めて知った。誰も僕を叩いたりしないから。』
『そういう性癖は無いからね?でも嬉しかった。』

「マゾじゃないの」

『大学受験羨ましかった。置いていかれちゃったなって思って、ちょっと嫌だったな。』
『僕が高校卒業出来たとき、貴音やっぱりちょっと泣いてたよね。言ったら泣いてないって殴られたけど。』
『一緒に食べに行ったところ、ご飯すごく美味しかった。あ、でも僕が食べ過ぎてお金足りなくなっちゃって、それで先生呼んだよね。』

「あったね、そんなこと」

『楽しかったね。』

「そこそこね」

『貴音。』

「何」

『貴音。貴音、僕、僕まだ』

『まだ、死にたくない。』

『本当はこんなの書きたくない。もっと遊んで、大学も行って。』
『貴音、』
『好きだよ。』
『全部好きだよ。一緒に居れたらなって、一緒に居たいなって。』

『貴音大好きだよ。本当に大好き。ずっとずっと貴音が大好きだよ。』

「遥......、遥っ」

『ねえ、貴音』

「ずっと、言いたいことが......っ」

『僕を撮ってね。』

ボロボロ視界が歪んで崩れておく。
私はやっと気付いた。ずっとずっと、あれだけ長く見てきたのに、私はようやく気付いた。遥が描いていた絵は、全部私が撮れなかった写真だった。失敗した写真だった。遥が壁に絵を貼るようになった時期、私は写真を撮っていた。
あの音は、遥が描く線も色も全部、私が望んでいた絵だったのだ。

床に広がった絵の上で卒業証書の裏に描かれた私の絵と遥の言葉を抱き締める。ずっとずっと言いたいことがあった。

「遥、大好き......っ」

私は遥を愛していた。
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