二人の出会い


暖かい日差しが、木々の間から差し込みとても気持ちが良い。

手を広げ大きく息を吸い込みゆっくりと吐いた。澄んだ空気がとても美味しく感じられた。

ユリアが心を休めていると茂みの中で何かが動いた。

体を震わせるが、しばらくしても何も起こらなかった。

気になったユリアは恐る恐る茂みへと近づいた。



(綺麗な人……)



茂みの中に居たのは、血まみれの男だった。

本来なら叫ぶなりして人を呼ぶべきだったが、ユリアは声を出すことが出来なかった。

恐怖ゆえにでは無い、男の美しさにだ。

病人のような白すぎる肌に、艶々の漆黒の髪が血の紅を際立たせていた。

綺麗だと思った。

閉じられた瞳が何色なのか、その口から話す声はどんな声なのか知りたいと思った。

ユリアは男の近くに音を立てないようにそっとしゃがみこんだ。

しかし、足元から音がしてユリアは肩を震わせた。

膝を突くとき小枝を折ってしまったようだ。



瞼を上げた男と目が合った。

底の見えない海のような深い青。

目が逸らせなかった。



ユリアの草原のような明るい緑の目と男の青の目が直線上に並んだのは一瞬のことだった。

「んっ……」

「声を出すな」

気づいたときにはユリアの口は男の手に塞がれていた。

もう片方の手には銃が握られており、その銃口はユリアの喉元に突きつけられていた。

ユリアは驚いたけれど、焦りや恐怖は不思議と無かった。首を縦に振ると口を塞ぐ手が離された。

「俺のことを誰にも話すな。そうすれば殺すつもりは無い」

「……分かりました」

男にしては少し高めのしっとりとした声にユリアは逆らうことなく頷いた。

あっさりと従うユリアに男は不審を抱きつつも、立ち上がるべく拳銃をユリアに向けながらもう片方の手に体重をかける。

「くぅっ!」

「……大変、怪我をしているのでしょ!」

苦痛に顔をゆがめる男にユリアは自分に向けられたままの銃を気にすることなく傷口を見た。

血は止まっているようだが、消毒をしなければいけないと思った。

「ここに居てください。今消毒液を持ってきます」

それだけ伝えるとユリアは足早に差っていった。

待てと男は手を伸ばすがそれが傷に響くのか結局止めることが出来なかった。

人を呼ばれたりでもしたら今の自分に逃げ切れるだけの体力が残って無い。

男は慎重に銃を構えたままユリアの消えた方を見ていた。



しばらくすると、存在を隠すこともなく茂みを掻き分ける音がした。

人の気配は一人、だが男は構えた銃を降ろしはしない。もし彼女で無かったら、危ないのは自分なのだ。

「大丈夫ですか?」

茂みの中から現れたのは籠を持ったユリアだった。

ふぅ、と男は息をはいてからハッとする。

なぜ自分はほっとしているのだろう。まだ危険な状況には変わり無いのだ。

ユリアは男の隣に座り傷ついた左腕だけコートを脱がし、所々裂けているシャツの袖をめくる。

持ってきた籠から水の入ったボトルを取り出し、水をかけて乾いた血を濡らす。その後、ガーゼで綺麗にふき取った。

「沁みるかもしれませんが我慢してくださいね」

新しいガーゼに消毒液を染みこませ男の傷口に当てた。

「――っ!」

眉を寄せつつ男はその痛みを我慢した。

今まで何度も怪我をしたことがあるが、痛みになれることは無い。

仲間たちは「それがまだ自分達が人間らしいってことだろ」と笑ったが、男は痛みなど感じないほうが良いではないかと思っていた。

消毒が終わるとユリアはご丁寧にも包帯を巻き始めた。

痛みの引いてきた男はいい加減ここから離れようかと思ったが、おとなしくユリアの好きなようにやらせていた。

どうしてかは男自身も理解できていなかった。

ただ、二度と見知らぬ人間に手当てされることは無いだろうと思うと、最後までやらせても良いのではないかと思えてきた。

「この道具を借りる理由、実は怪我したウサギが迷い込んだってことにしてあるんです。こんな大きなウサギいませんよね。」

ふと、ユリアは困ったように笑いながら言った。

「私、家の敷地から出たこと無いから、外のこと気になっていて……。良かったら教えてもらえませんか?」

「……」

「テレビとかで有る程度知っているつもりですけど、やっぱり実際に暮らしている人に聞いたほうが確かじゃないですか。だめ、……でしょうか?」

男は黙ったまま話を聞いていた。




 
TOP