人狼の正体


ひるんだ人狼の右足にもすかさず銃口を向け打った。今度はしっかりと当たった。

これで先ほどよりも動きが鈍くなるだろうと安心するジオヴィス。

それとは裏腹にまさかこうなるとは思いもよらなかったレヴィランド伯爵が逃げていくのを視界の端に捕らえた。

(逃がすか!)

ジオヴィスは人狼を警戒しつつ、走り去るレヴィランド伯爵を追う。

しかし、間に入ってくるボディーガードの男達に邪魔をされ、仕留め損なってしまう。

「邪魔すんじゃねぇーよ!」

イライラしながらも次々に男達を殺していくが、後ろから近づいてくる気配に気づきジオヴィスは慌てて柱の陰に隠れた。

近づいてくる気配へと神経を集中させる。

先ほどよりも遅い速さで走ってきた人狼は、ジオヴィスなど眼中にもないのかボディーガード達へ向かって行く。

訳が分からないのはジオヴィスだけではなくボディーガードの男達もそうだ。

今まで主人のペットだった人狼がいきなり自分達に牙を向けたのだ。

驚かないわけがない。

混乱状態のなかで人狼はそのまま廊下を走り正面の窓を突き破り、姿を消した。

(奴は後回しだ、先にレヴィランドの方を殺さないと後が厄介だ)

ジオヴィスもまたこの混乱状態に紛れ男達の目を盗み、逃げるレヴィランド伯爵を追い裏口から車に乗り込むその姿を見つけた。

全神経を集中させ、ジオヴィスは銃を放った。

この機会を逃せばしばらくは足跡を見つけることすら出来なくなるのだろうから。

銃声と共に銃口から出た弾がレヴィランド伯爵の眉間を貫通する。伯爵だった物体【モノ】は重力に逆らうことなく、その場に倒れた。

(これで……残るは奴だけか)

ジオヴィスは人狼が飛び出した窓の先、林のほうへと走っていった。

「まさか、またここに来ることになるとはな……」

もうこないと思っていた。住む世界があまりにもかけ離れている、だから忘れようとした。

もう二度と会うつもりは無かった。思い出は、良い思い出のままでよかったのだ。

血の匂いを頼りに、ジオヴィスは林の中を歩いた。

そして一つの茂みを掻き分けるとそこに横たわる人物を見て足を止めた。

自然と驚きは無かった。あるのは、あぁやはりといった納得だけ。

良く考えれば、あの植物も、その香りも彼女の部屋にあったではないか。

まさか、と思いたかったが、ここまでこればもう人狼は彼女でしかない。





「やっと、会えましたね」

「あぁ、そうだな。もう二度と会うことも無いと思っていたたが……」

彼女は……ユリアは体を真っ赤に染めながらもジオヴィスを見て微笑んだ。




 
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