お嬢様の憂鬱


「今日もまた、貴方は来てくれませんのね……」

ちらちらと粉雪の降る夜のユリアは林の中に立っていた。

白い息を吐きながら、手を温めた。

ジオヴィスが現れなくなってから、三度目の満月の日だった。

(どうして……やっとお父様が以前のように優しくなって下さったのに。今度はジオヴィスさんがいなくなってしまった)

この数ヶ月間でユリアの父親は以前通りとまではいかないものの、時間を見つけてはユリアと一緒に過ごしてくれるようになった。

行き成りそんな態度をとられて初めはユリアも戸惑っていたが、やはり父親と一緒に居られることは嬉しいことでありいつしか楽しみにいていた。

だが、それと反対にジオヴィスはユリアの前から消えてしまった。

悲しかった。ジオヴィスが居なくなってから彼への気持ちが愛だと気づいた。

けれど気づいたときにはもう遅く、ユリアは悲しみに染まっていった。

「ユリア、最近ますます頻繁に倒れるそうじゃないか。無理をして部屋の外へ出てはいけないよ。それから、私があげた植物はどうだ? 枯れてはいないかい?」

ユリアが朝食を取っているとき、これから仕事へ行く父が話しかけてきた。

「はい、気をつけます。あの植物なら元気に育っていますよ。とても良い香りがするので、ポプリにしていつも持ち歩いてますの。お父様、素敵な誕生日プレゼント有難うございます」

「そうか、気に入ってくれて嬉しいよ。私はこれから仕事だが、お前は部屋でゆっくりとしてなさい」

優しい眼差しで、父親はユリアの頭をなでる。

子ども扱いをする行為だが、ユリアは嬉しそうにそれを受け入れた。

「それじゃあ、いってくるよ」

「お父様、どうかお気をつけて」

部屋を去っていく父親の姿を見えなくなるまでユリアは見守っていた。





「旦那様、この前の仕事どうやら上手くいったようです。これもすべて『アレ』のおかげですね」

ユリアがいた部屋から離れると、秘書である男が父親へと話しかけた。

その話を聞いて彼は微笑んだ。

「素晴らしいだろう、『アレ』ほど私にとって力強い味方はいないからね」

二人は玄関先に止まっている黒い車へと乗った。

「マゼンダ卿、わざわざ迎えに来てもらって申し訳ない」

「そう気にする必要は無いよ、私と君の仲じゃないかレヴィランド伯爵。ところで『アレ』はいつになったら私にも分けてもらえるのかい?」

「もう少しお待ちいただきたい。あと少しで完成するのですよ」

「そうか、それは楽しみだよ」

「そういっていただけると嬉しいよ。マゼンダ卿」

マゼンダ卿とレヴィランド伯爵をのせた車は屋敷から遠ざかっていった。





 
TOP