楽しんでいますか?


「今、何月だよ!!」

校庭に空しく響く、夏樹の慟哭。

「知らんが、まぁ、こんなところで野宿…もといキャンプをする季節じゃないことは確かだとおもうぞナツ」

その横で何故かエプロン姿の尚斗がそう言った。

「尚斗君、焦げちゃいますよ」

さらにその横では、これまたエプロン姿の小春が尚斗に注意を入れる。

「あ!?スンマセン!」

そそくさと作業に戻る尚斗。完全に尻にしかれている。

「飯まだかぁ〜!?」

いつの間にかテーブルを陣取っていた司が叫ぶ。

「…黙って待て、このアホが」

その後ろに音も無く近寄って殴りにかかっていた郷水が呟く。

なんだかんだのうちに始まったキャンプ大会(司命名)はその日のうちに計画され、即座に実行された。

夏樹、尚斗、小春の三人はパシリに使われ、残りのライオル、郷水の二人はとりあえずテント張りをしているはずだ。とうの司本人は…何もしていない。

とっさの判断で結界を張り、いくら騒いでも起こられない状況を作ったのは正解だった。
騒がずにはいられない司が側にいるのだから。

「それ、俺の肉だよ司兄!」

焼肉みたいな状況になったら、バトルは必須である。これテストにでるよ!

「早い者勝ちだぜーって、待て!それはっ!」
「…早い者勝ちなんですよね?」

にっこり笑って、司が後世大事に焼いていた肉を掠め取る小春。

「あぁ〜、俺の…肉…。…俺の…」

呟く司。ダークなオーラが出まくりである。

「ん〜、美味しい」

ライオルは一人、まちまちと肉や野菜をつついて食べる。

「…もう少し、静かに食えんのか?」

郷水は呟きながら、黙々と食べている。

ある程度、焼肉を食べ終えると、今度はカレーを食べ始める。
完全にキャンプの様相を呈している。楽しんでいることは確かだ。
そして満腹になったら寝る。

結界内。見事な月が皆の寝るテントを照らしていた。

小春が一人、月を見上げている。
「…楽しかったですね。今日は」

小春の後ろに一つ影が増える。
「また、勝手に出てきたんですか?」

『何よ、問題でもある?』
現れたのは九尾の狐。名を彼方【カナタ】という。

「…いいえ、別にそういうわけじゃないですよ」
しばらく彼方へと視線を向けた後、また月を見上げ呟く。

『珍しく、楽しんでいたようだけど?』
一瞬の間をおいて、彼方が人の姿を取る。

「…そうですか?…でも」
小春は彼方を見て微笑む。

『でも、何?』
「その姿のほうが可愛いですね、やっぱり」
彼方は少女の姿に転じていた。その頬が少し赤らむ。

『なっ…!?』
「ふふふ、正直者なんだから」
『う、煩い!』
うろたえる彼方を楽しそうに見つめる。

『もう、いい!!』
彼方は叫ぶとポン!と軽い音をたてて消える。

「クス。本当に可愛いんですから」
小春が月を見つめながら微笑んだ。

翌日。
「…昨日、何していたんですか?」
朝食作りを手伝っていた夏樹がそう聞いた。

「あれ、おきていたんですか?」
「まぁ、ちょっと…。で、何を?」

小春は微笑んでこういった。
「秘密ですよ」



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