犬猿の仲


ピコーン、ピコーン、ピコーン。

「何?このウル●●マンが三分たって、帰らないといけないような音は…」
やけに説明的な浩介の言葉の後、隣の隼人がズボンのポケットから携帯を取り出した。


「会長の着メロなの!?ややこしすぎだって」
「悪い、悪い。でも、これってヤバイことがあったって感じするだろ?」

「誰からのメールなの?」
隼人の正面に座る明里がデザートを食べる手を止めて聞いた。明里の隣の琴乃も紅茶を飲みながら、耳だけを傾けている。

「生徒会室にある、俺のノーパソから。学校の警備システムに反応があると、携帯にメールが来るようにしたんだよ」
「警備システム…って、そんな事しても平気なんですか?」

「心配すんなよ琴乃。この天才な俺様がそんなへまするかよ」
(((それって犯罪…)))
ばれなきゃ大丈夫と笑顔を見せる隼人に、三人の心が重なった。

「それでさ…結局何があった訳?」
「A校舎三階にアポ無しのお客さんが来たみたいだぜ」
早との言葉で三人の顔が急に真面目なものになる。毎年何かしら問題が起こっているが、こんなにも早く起こるとは思っても居なかったのだ。

「侵入者ですか…。先生方に知らせますか?」
「やめた方がいいよ。変に動いて一般性とに知られたら困るもの」
立ち上がろうとした琴乃を明里が止める。騒ぎを起こして、ここに居る生徒を混乱させたら逃げるとしても大変になる。それにまだ、詳しいことが分かっていないのだ。

「とりあえず、誰かが見に行くしかないよね?…さて、誰がいく?」
「俺は行くぞ。ってか、行かないと不味いからな。一応生徒会長だし。明里は俺と一緒に来い、浩介と琴乃はここを頼む。やばそうだったら、すぐ連絡する。俺から連絡するまで 誰にも言うな」

全員が頷くのをみて、隼人は急に話を変えた。何事も無かったように四人は席を立ち食器を片付けると、それぞれの役割の為に動き出した。





「なぁ、誰か食い物持ってねぇー?」
図書室では、司がぐったりとテーブルに伏せていた。

「図書室での飲食は禁止だよ、司兄」
夏樹は文芸部の部長らしく注意する。

「体育館に行けば、たくさんあるんじゃないのかな?」
小春は本から目を離さずに言った。

「よし、体育館に行くか。夏樹、尚斗、行くぞ!」
司は後輩二人の腕を掴み図書室を後にした。

「神取先輩、柳先輩達を置いてきて良いんですか?」
司に腕を放してもらい、今は夏樹と並んで司の後を歩く尚斗が言う。

「いーの、いーの。あいつら本を読み始めたら終わるまで動かねーもん」
「そうですか…じゃあ、もう一つ…。何で俺達はA校舎に居るんですか?体育館へはB校舎から行くんで通り過ぎてます」

ピタッ!司の歩みが突然止まる。そしてロボットのようにぎこちない動きで振り返る。
「どうしてそれを早く言わないんだよっ!」

「えーっ!?司兄、わざとじゃなくてマジで迷ってたの!?」
「仕方ねーだろ。学校来てもほとんど図書室で過ごしてんだから。だいたい、この学校広すぎなんだよ!普通に迷うっつーの!」
「そんなのサボってた司兄が悪いじゃん!しかも学校のせいにして…」
「だったら、夏樹が前歩けばいいじゃねーかよ!」
怒鳴りあう二人を見て、自分一人で体育館に行こうか本気で悩む尚斗だった。





一方、体育館をでてA校舎へとやって来た隼人と明里は、侵入者を探しつつ今後の計画を立てていた。

「まず、表向きのコンテスト名を考えないとね」
「生徒会企画、『新入生No.1決定戦』とかどうだ?分かりやすいだろ。それで、一年全員参加させて、最後の決定とともに、晴れて生徒会メンバーってわけだ」
「優勝商品は、食堂の食べ放題一ヶ月とかはどうかな?」
「それぐらいが丁度いいだろ、問題は種目をどうするかだな。これは後で考えるか」
そういった隼人だが、大体の種目の目星はついていた。

生徒会メンバーに欲しいのは、頭脳、体力、機転の良さ、そしてカリスマ性。
それを試すテストをすればいいのだ。

(とりあえず、半分から下は切り捨て法で…最後の人気投票を持ち点に追加して、合計得点の上位二名ぐらいをスカウトすればいいか…)
ポスターを美術部、宣伝を放送部に協力してもらうことにした。

そんな事を決めていると、いきなり隼人が歩くのを止める。
「どうかしたの?」
不思議に思い、明里が声をかける。侵入者らしき、怪しい気配を感じないからだ。

「気のせいか…嫌な感じがしたんだよな…」
「気のせいじゃねーよ、無能生徒会長さんよ」

隼人は後ろから聞こえた声に即座に振り返り、そして固まった。

「お…お前はっ!」「神取君…」
そう、隼人に声をかけたのは司だった。

「誰かと思えば…二年生に部長の座を奪われた、神取じゃねーか」
「…譲ってやったんだよ。夏樹がどうしてもって言うからな」

「面倒だからって押し付けたくせに」
夏樹はボソッ!と真実を語る。

「そういうお前だって、実力も無いのに大役なんてするから、坂本や長谷川に迷惑かけてんだろ」
「俺だってなりたくてなったわけじゃねーよ。まぁ、人気投票だから仕方ねーけどな」

実はこの二人、会えば必ず喧嘩するほど仲が悪いと三年生の間では有名なのだ。
いつもの見慣れたことだと、明里は二人から離れる。夏樹と尚斗は二人の関係は知らないが只ならぬ空気に後ずさりするように離れた。

「だいたいテメェは前々から気にいらねぇーんだよ、神取!」
「それはこっちの台詞だっ!」
「「今日こそ殺ってやる!」」

侵入者に会う前に一波乱ありそうな予感…。
A校舎内の生徒は流れ弾にご注意ください。



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