虚空夜市 [ 53/54 ]

夜空に浮かぶ三日月が
妖しく微笑むその晩は
不定期開催夜市【よいち】の日
「さぁ、おいで」

不死【ふじ】の樹海を越えて行き
輝く竹を目印に
霞衣に隠された
秘密の岩扉を開けた先
闇の中

夜市は客で溢れている
売り手も買い手も異様な姿
今宵並ぶのは一夜夢【ひとよゆめ】
東雲の時が来る頃に
泡沫となりて消えてゆく
それが虚空夜市

噂を信じ迷いこむ
哀れな男【オス】と憂いの女【メス】
彼らが求める物は何?
「さぁ、ごらん」

紅い暖簾の古い店
たった一つの商品は
黒に金字の乗車券
本日最後の不定期便
“異界ゆき”

夜市は欲で溢れている
己の体を代価に買うは
目覚めることない永遠【とわ】の夢
異界へ旅立つ彼らへと
忘れること無き餞を
これが虚空夜市

東の空が白くなる
近づく夜明けの時告げる
終わり近づき値引きする
「さぁ、買った」

最後に残った商品を
「鮮度の落ちた肉だから」
値切って買うのは化け狸
全ての商品売りつくし
店仕舞い

夜市は物で溢れている
売り手が手にした新たな品は
若く瑞々しい体
肉体捨てて旅立った
彼らの帰る場所は無い
これぞ虚空夜市


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和と妖をイメージして作った歌。
日本語の綺麗な響きを表現したかった。
異界ゆきの汽車が銀河鉄道だったらいいな。



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