花京院とジョセフは、広いホテル内を辺りを警戒しながら歩いていた。
彼らも部屋にいたなまえ同様、エンヤ婆のスタンドが操る死体に襲われたのである。
しかし先ほどまでいた死体達はその不気味な姿と気配を消し、辺りには静寂だけが残っていた。
2人は他の仲間たちを探そうとホテル内を歩いていたが、死体とも味方とも遭遇しない状況がしばらく続いている。

「……………………」

花京院は、辺りを警戒しながら前を歩くジョセフの首元をじっと見た。
ジョセフ・ジョースター。
彼も"ジョースター家"の1人であり、DIOとの因縁を持つ者である。
その服の下に隠れた星の痣を花京院は一度見せて貰ったことがあるが、DIOのもつそれと全く同じであった。
―――それはそうだろう、と花京院は視線を逸らす。
DIOの首から下はジョセフの祖先である"ジョナサン・ジョースター"の身体なのだから。

「どうした花京院。腹でも減ったのか?」

首を傾げてこちらを見るジョセフに、花京院は考え込みすぎたかと反省する。

「いえ…その、」

少し、考える。
だが、訊くなら今しかないだろうと花京院は言葉を続けた。

「名字さんのこと、ジョースターさんはどれくらい知っているんですか?」

「ん?なまえか?」

花京院からなまえについての質問が飛んでくると思っていなかったのか、ジョセフは驚いたように目を丸くする。
そして、顎に手を当てて悩むように目線を横へ流した。

「財団で保護していたからスタンド使いなことは知っとったし、何回か食事も一緒にしたことがあるから好き嫌いもある程度はわかるがの…」

「名字さんの家族、とかは…」

「…なまえの家族は随分と前に亡くなっているな。わしも会ったことはない」

「そうですか」

花京院にとっては割りと踏み込んだ質問だったのだが、あまりにもジョセフが簡単に答えるので質問を間違えたのだろうかと少し困惑する。
再び足を進めた2人だが、やはり辺りに人の気配は無い。

「では、今はジョースターさんが保護者の代わりを?」

「保護者!?」

ジョセフが突然大声を出すものだから、花京院は驚いて彼の方を向く。
ジョセフはもっと驚いているとでもいうような顔をしていた。

「心臓に悪い冗談はやめてくれ…。なまえとは昔からずっと友人じゃよ」

「名字さんとはいつ知り合ったんですか?」

「え?あー…いつだったかな」

「…?」

花京院にとってはジョセフの気分を害してしまったらしい気まずさを紛らわせるための"繋ぎ"の質問だったのだが、どうもジョセフの歯切れが悪い。
ジョセフのことだ。忘れている可能性はゼロではないだろう。

「しかし花京院、何故それをなまえに直接訊かずにわしに?」

とりあえず話題を変えようとでもいうように、そうジョセフは切り出した。
花京院はその話題変更へは特に疑問を持たずに言葉を返す。

「名字さんとは車で待っている間少し話しましたが、どうやら僕には話してくれないようで。まあ、こんなことに巻き込まれてしまっては仕方の無い話だとは思いますが…」

「いや…いやいや、待て。花京院。なまえもまた、お前さんと同じことを思ってるはずだ」

「え?」

「『皆を巻き込んでしまった』と思ってるんじゃよ、なまえは。特にDIOに肉の芽を植えつけられてしまった花京院、お前さんに対してのその想いは強いだろう」

"因縁"の血が流れているジョセフや承太郎よりも、と捉えられるジョセフの言葉に花京院は驚く。
まさかついこの間まで日本で学生をしていた少女が、そんな"責任感"を感じてしまうこの状況。
花京院にはわからなかった。
"血の繋がり"も何も無いなまえが、何故それほどまでに責任を感じているのだろう。その理由は。その原因は。
自分が導き出した答えの1つは本人に既に否定されている。
だとしたら、知っているというのか?目の前の"ジョースター"はその真実を。

「巻き込んでいると思っているから…彼女は僕たちに隠し事を?」

「隠し事…のう」

思い当たる節はあるのだろう。ジョセフは、何かを考え込むように顎に手を当てる。
今の会話から、自分たちが知らないことをジョセフが知っていることが花京院には理解できた。
しかし、それを訊いたところで答えてくれるジョセフではない。
それに、花京院自身もこれはなまえ本人から教えてもらうべきことだろうとそれ以上の追求はしないことにした。
2人がスタンド使いを倒し終えた承太郎たちと合流したのはそのすぐ後である。
無傷とはいかなかったが、それほど重大なダメージを受けているわけでもない(ポルナレフの舌に関しては色々な意味でダメージが大きいが)3人に花京院とジョセフはほっと胸を撫で下ろす。

「…名字」

承太郎に名前を呼ばれ、なまえの肩が跳ねる。

「さっきのは…どういうことだ?」

「さっきの?」

ジョセフが首を傾げる。
なまえは自分のイタズラがバレた子供のような気まずさを感じていた。
しかし、まあ、いずれこうなっただろう、となまえは腹を括っていた。

「そこでのびてるスタンド使いと戦ったとき、"俺"と"名字"の位置を入れ替えたように見えたが、位置を入れ替えただけで俺とスタンドの自由が効くようになったのは理由が付かない。むしろ、"俺"と"名字"を入れ替えたような感覚だった」

「承太郎と名字さんを?」

承太郎自身も有り得ないと思い、100%確信しているわけではない。半信半疑というよりは、"それくらいしか説明が付かない"という風に言葉を並べているだけだ。
だが――ここまで何人ものスタンド使いを相手にしてきて、"有り得ない"と100%否定することは出来ないということを彼らは少しずつ理解していた。
そして、なまえもまた、そんな彼らの成長を身近で見て感じ取っている。

「なまえ、お前さんまさかとは思うが…」

「……仕方ないでしょ。こうでもしないと全員死体になってたよ」

顔を青くするジョセフに、なまえは溜息を吐く。
いずれこうなったのだ―――説明するならば"今"だろうとなまえは言葉を続けた。

「『盤上の支配者ゲームマスター』…それが私のスタンドの本来の名前」

瞬間、なまえの背後にスタンドが出現する。
その姿かたちは花京院たちが見せてもらったものと変わっていない。
誰もわからない。"見ただけ"で手に入る情報量など限られている。
空条承太郎はエンヤ婆に操られているはずだった。しかし、彼はなまえがスタンド能力を発動した途端、身体の自由が利くようになったのである。
対し――なまえは、あのとき"エンヤ婆のスタンドに操られていた"のである。
"位置を入れ替えるスタンド"――それは単なるフェイクだった。なまえは自分がスタンド使いだということがバレるという万が一のことを考えて、ここまで保険をかけていたのである。
それは見事に味方ごと敵を騙し、なまえたちは勝利を勝ち取った。
だがこれは彼女にとっては誤算だった。確かにこの旅は辛く苦しいものになるだろうということはわかっていたが、まさかこんなにも早く"本来の"スタンド能力を使うことになるとは。
――彼女の本来のスタンド名は『盤上の支配者ゲームマスター』。それは、"位置"ではなく"運命"を入れ替えるスタンド。
"正義は勝つ"という"運命"を入れ替えないと勝てないほど、エンヤ婆というスタンド使いは強敵だったのだ。

「私の視界に入る全ての"続いている運命"は入れ替えることが出来る――ただし、私が理解できるものに限るけどね」


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