「……………………」

小さく息を吐く。
思い出すなと自身の記憶に命じたところで意味など成さない。
なまえは自身に割り当てられた部屋にあるベットの上から、窓の外を見つめた。
霧が深いここでは、外の暗さがどれくらいのものなのかすら検討が付かない。
なまえは視界のはっきりとしない外を眺めながら花京院との会話を思い出す。
先ほどジョセフにはああ言ったが、ずっとあの会話が引っかかり上の空だったのは事実である。
それに、花京院が"疑問"を持つなら承太郎はとっくの昔からそれを持っているのだろう。なまえはたまに感じる視線はそれか、と溜息をつきたくなった。

「(ジョセフ……)」

彼はなまえについて知っている。そうでなければ、今までこうして繋がることはできなかっただろう。
この旅の目的は『DIOを倒す』こと。勿論なまえの目的もそうで、ジョセフたちもそうだ。
だから、なまえは自分自身について何も話すつもりはない。必要もないと考えていた。
それなのに彼らがあまりにも自分を『仲間』として考えるものだから、なまえは再び溜息をつきたくなる。
目的だけを考えれば良いのだ。それ以外に何も必要はないだろう。
信頼も絆も、"私"を除いた彼らで築けば良いものなのだ。

「…………………?」

扉が軽く叩かれる音でなまえはいつの間にか俯いていた顔を上げる。
ジョセフたちだろうか、とベットの上から降りて扉の方へ向かった。

「…あ、どうも……」

―――違う。扉を開けて視界に入ったのは見知らぬ人間だった。
恐らくこのホテルの従業員なのだろう。
もう夕飯の時間なのだろうか、と空腹を訴えてこない自分のお腹に触ろうとして気付く。

「っ!!」

咄嗟に閉めようとした扉の隙間に入れられた足。
どうして―――何故こんな近くにくるまで気付けなかったのか。
気配がない。何も無い。"生気"すらないのだ。
まさか――――"これ"は。

「『悪戯な遊戯シャッフルゲーム』ッ!」

スタンドを発現させる。そして、"やはり"か―――と舌打ちをしたい気持ちをぐっと堪えた。
扉を閉めることを妨害してくるこの人物との"位置を入れ替えることができない"。
なまえのスタンドの4つある弱点のうちの1つ。そこをつかれたということは。

「なんで"死体"が動いてるのよ―――ッ!!」

"死体"の位置を入れ替えることはできない。
そう気付いてしまえば、微かな腐敗臭が鼻をつく。
"スタンド使い"の仕業だ―――そう気付いたところで、これでは自分だけではどうすることもできない。
相手は"死体"だというのに、今にも扉をぶち破って入ってきそうなこの力はなんだというのか。

「っ、ジョセフ!」

なまえは一番部屋が近いはずのジョセフの名を呼ぶが、廊下へ出てくる様子はない。
気付いていないのか、それとも既に戦闘中か。

「(どうする?どうすればいい…?)」

なまえは"スタンド同士の戦い"に慣れていない。
というより、"自分が戦う"ことには慣れていないのだ。こんなときどうすれば良いのかなど、混乱する頭で機転のきくことなど考え付くはずもない。
ましてや相手は"死体"だ。既に死んでいるのに動いている。そんな相手にどうしろというのだ。

「くっ、」

そうこうしている間にも、全身で抑えている扉は内側に開きそうである。
ズシン、と更に重さが圧し掛かる。
なまえは更なる絶望に気付き、顔色を青くした。
つまり―――"動いている死体は1つではない"?

「ジョセフ!!!!」

もう一度ジョセフの名を呼ぶのと、なまえの部屋の扉が破壊されるのはほぼ同時だった。



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