「この町のどこかにスタンド使いが潜んでいる可能性が強い…この濃すぎるほどの霧もヤツらにとっては絶好のチャンス…今夜はもうずっと油断は禁物ですね」

冷や汗をかきながら、花京院は戻ってきた承太郎たちへと呟いた。
というのも、承太郎たちが町の真ん中で『アナがボコボコにあけられた死体』を見たという話をしたからである。
体中に穴の開けられた死体。しかしそれらのどの穴からも一滴も血がでておらず、それにどんな意味があるのか―――どういう殺され方なのか。まさに"意味不明"であるそれは、『スタンド使いの仕業である』と考えるほうが"まとも"だろう。
それに、ジョセフが合流直後にジープがないはずの場所へ飛び込もうとしたのもポルナレフたちは首を傾げていたが、深く考える前に新たな登場人物。
ヒタヒタとこちらへゆったり寄ってきた"老婆"は、優しそうな笑みを浮かべながら承太郎たちへ軽く頭を下げた。
言葉も無い挨拶に多少は警戒しながらも、承太郎たちも会釈を返す。

「旅のおかたのようじゃな…この霧ですじゃ、もう町を車で出るのは危険ですじゃよ。ガケが多いよってのォ…わたしゃ民宿をやっておりますが…今夜はよかったらわたしの宿にお泊りになりませんかのォ…安くしときますよって」

「おお〜っ!やっと普通の人間に会えたぜ!」

承太郎たちが大柄なこともあり、小柄な老婆は余計に小さく見える。
自身が持っている杖よりも小柄な身体で、しかし大柄な4人に怯むことなく老婆は静かに笑みを携えていた。
他に行くあても、この霧の中崖の多い町の外を車で走行する選択肢もない。
乗り気のポルナレフに反対意見を言うでもなく、承太郎たちはゆっくりと歩く老婆についていく。
その間嫌でも町の中を歩くことになるわけだが、ヒソヒソと喋りながら霧の中をふらふらと出歩いている住民達をみて、ポルナレフや花京院は不気味に思っていた。
先ほどあのような死体を見つけたあとだというのに警官も町の住民も騒ぐ様子はない。

「ささ!ジョースター様、あれがわたしのホテルですじゃ。ご案内いたしますよって…ついてきてくだしゃれ」

そこは、先ほどの場所からそう遠くは無い場所に存在した。
承太郎たちは足を止め、そのホテルを見上げる。

「あのホテルは小さいですが20年ほど前、映画の撮影に使われ、有名人も泊まったというようなエピソードが…」

「え!あるのか!?」

「いえ。じぇんじぇんありませぬが、結構いいホテルだと自負しておるのでごじゃりますですよ。ホテルは今、ほかにお客はおりませんが夕食はお肉がよろしいですか?それともお魚がいいですか?」

冗談に反応したポルナレフを軽く笑いながら、老婆は5人に夕飯の質問をする。
最初に口を開いたのは承太郎―――しかしそれは、老婆の質問に対する答えではない。

「待ちな婆さん。あんた…今、ジョースターという名を呼んだか」

「!」

「なぜ、その名がわかった?」

承太郎の冷静な声が、霧の中に広がる。
ホテルへ案内しようとした老婆はこちらに背中を向けており、その表情を伺うことはできなかった。
だが―――老婆は勢いよくクルリと笑顔で承太郎たちを振り返る。

「いやですねェお客さん、今さっきそちらの方がジョースターさんて呼んだじゃありませんか」

「え!おれ!?そういやあ呼んだような…」

「言いましたよォ、客商売を長年やってるから、人様の名前はパッとおぼえてしまうんですからねェ!たしかですよォ〜!」

ポルナレフと老婆は仲良さげに会話をしていたが、先ほどの答えに納得したのかそうでないのか、承太郎は表情を全く変えずに老婆を見、その後自分達が泊まるホテルを見上げた。

「先ほどから随分と静かじゃが、どうかしたか?」

「え?ううん…なんでもないよ」

突然ジョセフに話しかけられたなまえは、ハッとしたようにジョセフに返事を返す。
随分と上の空だった、とジョセフはなまえをじっと見たが、それ以上は何も聞かなかった。


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