「おまえらには文字どおりもう『道』はない。逃げ『道』も助かる『道』もエジプトへの『道』も輝ける未来への『道』もない」
崖上へ逃げおおせた承太郎たちを、崖下の車はあざ笑う。
その勝気な姿勢に、承太郎たちは油断せずそちらを観察していた。
「なぜなら!」
グギギ、とタイヤが音を鳴らす。
「この『運命の車輪』でひき肉にして、この岩場にブチまけるからだァ!!!」
ガギィ、ガギ、と歪な音を鳴らしながら、運命の車輪は崖を登ってくる。
流石に地面よりはスピードは出ていなかったが、その異様な光景に承太郎たちは血の気が引いた。
タイヤにスパイクが出て、岩壁を登ってくる―――本当に"なんでもあり"な車。
どうするべきか、と全員がその車から目を逸らせない。
と、承太郎が腕を伸ばし花京院たちを制す。
「やれやれだ。やりあうしか無さそうだな。みんな下がってろ。やつはここに登り上る時…車のハラを見せる。そこでひとつ、やつとパワー比べをしてやるぜ」
「なるほど…ヤツが何を飛ばしているか正体不明だが、ハラを見せたときならこっちから攻撃できるかもしれん」
承太郎の策に、花京院はじっと崖の端を見ながら首を縦に振る。
もう崖下をのぞくことはやめ、全員がその時を今か今かと待った。
音が近付く。
そして、瞬間。
「来たッ!」
承太郎の言ったとおり―――運命の車輪は、その腹をこちらへ見せる。
承太郎は雄叫びと共にスタープラチナを出現させる。
だが、運命の車輪は笑う。
その余裕と勝気の姿勢は変わらない。
「だがシブくないねえ〜冷静じゃあないんじゃないのか…?まだ自分たちの体が何か臭っているのに気付かないのかッ!!」
その言葉に、承太郎たちはハッとした。
「そういえばさっきからガソリンのにおいがするが!」
「ランクルが破壊されたせいで臭ってると思ったが…………!!」
スタープラチナは既に出現させている。
そして、"ハラ"を殴ろうとしていたスピードは泊まらない。
「おれたちの体だッ!おれたちの体がガソリンくさいぞ!!」
先程の攻撃が再び放たれる。
そうして見れば―――それがガラスでも刃物でもなく、"液体"だということがわかった。
運命の車輪はガソリンを超高圧で少量ずつ、弾丸のように発射し攻撃していたのだ。
だが、ガソリンをやたらめったに撃ちこんだところで致命傷になるはずもなく。
つまり―――運命の車輪の攻撃は、承太郎たちにダメージやキズを負わせるためではない。
ガソリンを体中にしみこませるためだ。
「気付いたか!しかしもうおそいッ!電気系統でスパーク!!」
これだけガソリンまみれになってしまえば、微かな火花でも炎は燃え上がる。
一瞬だった。
一瞬で、承太郎の身体は炎に包まれる。
熱さに声を零し、承太郎は地面に倒れる。
なまえとジョセフは承太郎に近付こうと一歩足を踏み出したが、花京院とポルナレフに制止された。
2人ともガソリンを浴びている―――炎に近付けば、ただでは済まないだろう。
それでも、なまえとジョセフは手を伸ばそうとした。
「「承太郎!!」」
ジョセフとポルナレフが叫ぶ。
そんな様子を見て、運命の車輪は可笑しそうに声を張り上げた。
「勝ったッ!第3部完!!」
「ほーお。それで誰がこの空条承太郎のかわりをつとめるんだ?」
声。
聞き覚えのある―――間違うはずのない低音に、ジョセフたちは勿論、運命の車輪も驚いたようにそちらを見た。
「まさかてめーのわけはねーよな!」
ボコッ、と地面から腕が突き出る。
そうして現れたのは他の誰でも無い―――空条承太郎。
「地面にもぐってたのかッ!スタープラチナでトンネルを掘ったな!燃えたのは上着だけかッ!」
「フン!ところで、おめえさっき『道』がないとかなんとか言ってたなあ」
地面に承太郎の巨体が入るほどの穴を作るのも凄いが―――地面から這い上がってくる力も普通では考えられない。
これがパワー型スタンドか、となまえは開いた口が塞がらなかった。
「ちがうね。『道』というものは自分で切り開くものだ」
「……………………」
なまえは、承太郎の言葉をじっと聞く。
「ということでひとつ、この空条承太郎が実際に手本を見せてやるぜ。道を切り開くところのな」
ひ、と短い悲鳴が零れた。
運命の車輪の策は先程ので終了だったのだろう―――ただそのスタンドでひき殺すだけなら、スタープラチナのパワーに劣ってしまう。
かといってもう、男に逃げ『道』は無かった。
怒涛のオラオララッシュ。
その勢いのまま男は自身のスタンド内から吹っ飛ばされ、その男が地面をこすった跡が出来る。
それを見て、承太郎は口端を上げた。
「と、こうやるんだぜ。これで貴様がすっとんだ後に文字どおり『道』ができたようで…よかったよかった」