スタープラチナに殴られた車は煙をあげながら崖下へと落ちていく。
しかし承太郎たちは、安心しきれていなかった。
なまえが言った、『あの車自体がスタンド』だという言葉に、些細な音でも聞き逃すまいと辺りを警戒している。
そんななか、"スタンド"を知らない家出少女は不思議そうに崖下を覗き込んでいた。

「どうしてかしら…?この一本道をあたしたちの先に走っていたのに、なぜかいつの間にか後ろに回っていたわ」

『少しも…不思議じゃあないな……』

家出少女の疑問に答える、声。
その声が聞こえた方向を見れば、そこには同じように驚きの表情を浮かべているポルナレフ。
ジョセフたちと目が合ったポルナレフは慌てて口を開く。

「なんでおれを見るんだよ。おれが喋ったんじゃあねえぜ!信用ね〜なあ〜!ラジオだ!ランクルのラジオから声が出たように聞こえたぜ!」

ポルナレフがそう説明すれば、皆車の方を向く。
それを待っていたとでもいうように、ラジオはガーガーとうるさい雑音を流していた。
そして。

車輪ホウィール・オブ・…「運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン」…「スタンド」!!だからできたのだッ!ジョースター!!』

運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン……?」

ジョセフは自身の名を呼ばれたことに驚き、誰もなまえの呟きを耳にしていない。

「わしの名を言ったぞ。わしの名を知っているということは!ただのスタンド使いではない…『スタンド使いの追手』!」

「どこから電波を流しているんだ、まさか今落ちていった車じゃあないだろうな」

「バカな!メチャクチャのはずだぜ」

「『車』自体がスタンドなら…それが有り得るのかも」

各々の思ったことが錯綜するなか、突然の地鳴り。
地震か。崖崩れの前兆か。それとも。

「みんな車に乗れ!」

「いや!乗るなッ!車から離れろッ!!」

「まさかッ!」

「地面だッ!!」

なまえは手を繋いでいた家出少女の腕を引っ張り、衝撃から遠ざける。
地面から勢い良く現れたのは先程の"スタンド"―――『運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン』。
見た目はポルナレフの言ったとおりメチャクチャであったが、それの勢いは止まらない。
まさか普通の車が地面を掘って崖上にこれるわけもない。

「これからは…我々をひとりひとり順番に殺すつもりだぞ…こいつが我々を今までトラックにぶつけたりガケから突き落としたりしたのは、全員一挙に殺すためとみたほうがいいッ!」

突然のことにバランスをとることなどできず、全員が地面に膝をつけている。
ゆっくりと立ち上がる承太郎たちと同じように、車もその見た目を変形させていった。
元の形に直っていく―――を通り越して、それは攻撃形態へと。
立ち向かうは、パワー型のスタンド使い、空条承太郎。

「力比べをやりたいというわけか…」

「やめろッ!承太郎!まだ闘うな!やつの『スタンド』の正確な能力が謎だ!それを見極めるのだ!!」

ジョセフはそう言うが、敵の攻撃の方が早かった。
一瞬の間に、承太郎は敵の攻撃を受けていた。
身体中から血が噴出し、口からも血が零れる。

「ば…ばかなッ!今、何を飛ばしたんだ。こ…攻撃が見えないッ!!」

承太郎だけではない。
花京院もポルナレフも、なまえだって敵の攻撃を目視することはできなかった。
何をどうやって承太郎に攻撃を"撃ちこんだ"のか―――

「ヒャホハハハッ!今の攻撃が見えないだと?ヒャホアハァ!しかし、承太郎。おれの攻撃の謎はすぐに見えるさ!今にわかるよッ!!きさまがくたばる寸前だけどなアァ!」

見えない攻撃に怯み、瞬時に動けない承太郎。
そこに、敵の二度目の攻撃が襲い掛かる。

「承太郎!!」

瞬間、ジョセフの近くに居た花京院とポルナレフが承太郎を庇うように敵との攻撃の間に出た。
承太郎が防げなかった攻撃を防げるはずもなく―――2人とも同じように、敵の攻撃をもろに喰らう。
突然の流血に、家出少女がなまえの隣で叫んだ。
傷は深くないが抉られている。しかし、傷口に針やガラスなどのようなものは何も突き刺さっていない。
どういうことだ、と全員が観察し疑問をもつものの、答えは見つからなかった。

「きさまらの脚を狙って走れなくしてひき殺してくれるぞッ!」

「岩と岩のスキ間に逃げ込めッ!」

6人は咄嗟に後ろにあった大岩の隙間に逃げ込むが、まさか『スタンド使い』相手にそれで逃げられるはずもない。
車は物凄い音を立てながら、大岩の隙間に無理矢理入ってこようとする。
たとえるなら知恵の輪ができなくてカンシャクをおこしたバカな怪力男だ、と唖然とその車を眺めていたが、花京院が焦ったように口を開いた。

「また飛ばしてくるぞッ!見えんッ!!」

「奥へ逃げろ!」

「!」

家出少女を攻撃から庇おうとしたなまえを、家出少女ごと承太郎が指示を出しながら庇う。
なまえはそのことに気付いたが、今は承太郎よりも家出少女だと上を見る。

「あれ?」

そこにいたはずの家出少女がいない。

「あっ!だっ、誰もあたしを連れてってくれないッ!」

ひィィィイ、と情けない悲鳴があがるところを見てみれば、小石にでも躓いたのか家出少女は車のすぐ前で転んでいた。

「どーせあたしは家出少女よッ!ミソッカスよ!誰にも愛されずひとりぼっちでみんなのつまはじき者なんだわッ!クキィィーッ!死んでやるわッ!」

「『悪戯な遊戯シャッフルゲーム』」

「なまえ!?」

ガケを登っていたなまえは、あろうことか"自分の位置"と"家出少女の位置"を入れ替える。
突然のことに家出少女はガケから手を離してしまいそうになるものの、少し先を言っていたジョセフに服の襟を掴まれ難を逃れた。

「『運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン』…だっけ?それ……なんていうかさ、」

『小娘!貴様からひき殺してやる!!』

「私が相手しないとだよね?」

「何言ってやがる」

謎の浮遊感。と思えば、腹部を圧迫される。
突然なんだと顔をあげれば、なまえは状況をすぐに理解した。

「く、空条くん!?」

「オメーとアレの相性は最悪だろうが。大人しくしてろ」

「いや、あの、この運び方はちょっと……」

先程までの威勢はどこにいったのか。
なまえは承太郎の肩に担がれ、ガケを共に登っていく。
ほんの数秒前まで敵と戦おうとしていたなまえだったが、今は承太郎の肩から落ちないよう静かにしているしかなかった。


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