ポルナレフたちはあの車を視界にいれていたものの、先程のトロイ運転が嘘のようにデコボコな山道を猛スピードで駆けていくではないか。
両者の距離が変わらないまま、急なカーブへと差し掛かる。
「野郎ッ!あそこの…次のカーブで絶対とらえてやるぜッ!!」
そう、ポルナレフが意気込んでカーブを勢い良く曲がった瞬間。
一同は驚きの声を漏らし、ポルナレフは慌ててブレーキを踏んだ。
そこは、今にも壊れそうな吊り橋がかかった崖。
そして、先程までポルナレフ達が追っていた車の姿はない。
「やつがいないッ!や…やつはどこだ!?カーブを曲がった途端消えやがった?車じゃ、吊り橋は渡れないし…」
「まさか墜落していったんじゃねーだろうな…」
承太郎の焦りの混ざった声音に、恐る恐る崖下を覗こうと―――
「えっ!?」
後ろからの衝撃に、なまえは驚いた声を出す。
その衝撃は勿論同じ車に乗っている承太郎たちにも伝わっており、全員が驚いたように後ろを振り返った。
「なにィィ〜ッ!?」
後ろには―――先程までポルナレフたちが追いかけていた車が、どこから現れたのか平然と存在している。
しかもそれは後ろから思いっきりぶつかってくると、ものすごい馬力でポルナレフたちの車を押してくる。
ボロボロな車からは想像もつかない馬力に、ポルナレフたちは成す術もない。
「バカなッ!四輪駆動の車輪があっけなく空回りするだけだッ!承太郎ッ!『スタープラチナ』でそのクソッたれをブッこわしてくれッ!」
ポルナレフは急げとばかりに後ろに座る承太郎へ叫ぶが、承太郎は冷や汗を浮かべながら「無理だ」と冷静に呟いた。
「殴れば反動がある。おれたちのクルーザーもフッ飛ぶぜ…トラックに衝突したときのように」
「そんならなまえ!"位置"を"入れ替え"ろ!」
「さっきからやってるけど……多分、"あの車"自体が"スタンド"で………!」
「無理なのか!?くそっ、そ…それじゃあもうだめだ!!」
車内、しかも"崖から落とされそうになっている"という空間で、なまえの視界は酷く狭い。
ここから見えるもので交換できるものといえばすぐそこにかかる"吊り橋"か"目の前の車"くらいである。
"吊り橋"と交換したところで落下は免れない。
ならば選択肢は一つだが――――その"車"自体が"スタンド"であれば、なまえには手出しが出来ない。
焦ったポルナレフは、選択を間違える。
「みんなッ!車をすてて脱出しろッ!!」
「あッ!」
ポルナレフの行動に、なまえの膝の上に座っていた少女が短く悲鳴をあげた。
花京院も、その悲劇を瞬時に理解する。
「ポルナレフッ!ドライバーがみんなより先に運転席をはなれるか普通は……!?誰がこのランクルをふんばるんだ?」
「えっ」
一瞬の間。
それでも、時間と重力は待ってくれるはずもなく。
「……ごっ……ごっご、ごめーん!」
ポルナレフの絶叫と共に、踏ん張りの利かなくなった車は崖下へと落ちていく。
なまえは嫌な浮遊感を感じながらも、必死に辺りを観察していた。
何か。何か位置を入れ替えられるものは―――
「『法皇の緑』!」
瞬間、助手席に座っていた花京院からそのスタンドが放たれる。
法皇の緑はするりと車内から抜け出すと、崖上の車へと向かって行った。
そんな法皇の緑に、ジョセフは慌てたように声をあげる。
「花京院ッ!やめろッ、おまえの法皇は遠くまで行けるが、ランクルの重量をささえきるパワーはないッ!体がちぎれ飛ぶぞ!!」
その忠告は最もだった。
だが―――花京院は、幼い頃からこのスタンドと一緒だったのだ。
自分のスタンドが"どんなもの"なのか――――それは花京院本人が一番知っている。
「ジョースターさん。お言葉ですが、ぼくは自分を知っている…バカではありません」
そう冷静に言葉を返すのと、法皇の緑が行動を終わらせるのは同時だった。
ガチャリ、という音とともに、花京院たちの乗る車についているワイヤーウインチを崖上の車へと取り付けた。
これで、準備は整った。
「フン!やるな…花京院。ところでおまえ、相撲、好きか?」
その様子を見ていた承太郎は、花京院の言葉がなくとも自分の役割を知ったらしい。
ニヤリと口端を上げ、自身のスタンドを出した。
「とくに土俵際のかけひきを!」
手に汗にぎるよなあ!、とスタープラチナはワイヤーウインチを力の限り引っ張っていく。
そのまま承太郎たちの乗った車は飛び上がり、無事に崖上に着地した。
その際スタープラチナは崖上にいた車を殴り、崖下へと落としていった。
そんな一連の流れを見ながら、花京院は笑みを浮かべて先程の問いに答える。
「ええ…相撲、大好きですよ。だけど承太郎。相撲じゃあ拳で殴るの反則ですね」
そんな花京院の返答に、承太郎も笑みで返した。