「……ふう、」

なまえは人数が増えて少し窮屈になっていた車から降り、息を吐く。
やんちゃな家出少女は何故かなまえの手をずっと握っていて、なまえも別に離さなくとも支障はないのでそのままにしていた。

「…………………」

先程の車、と眉間に皺を寄せる。
トラックとの正面衝突は流石というべきか、承太郎の星の白金スタープラチナが車を宙に浮かせ(といっても加速していた勢いもあるが)回避していた。
星の白金スタープラチナに殴られたせいで滅茶苦茶になってしまったトラックは承太郎の『知らんぷりしてりゃあいい』という言葉で放っておかれているが。
承太郎の『星の白金スタープラチナ』のパワーがなければ今頃グシャグシャにされていただろう。
ポルナレフの『戦車チャリオッツ』や花京院の『法皇ハイエロファント』がいくら素早いといっても、トラックとも正面衝突はとめられない。
その原因を作った車は騒ぎに紛れてそのまま走り去っており、あれが『追手のスタンド使い』なのか、それともただの精神のねじまがった悪質ななんくせ野郎なのか、わからずじまいである。
ポルナレフは殺されるところだったのだから追っ手に決まっていると言い、花京院も半分はポルナレフの意見に賛成なのだろうけど『スタンドらしい攻撃はしてこなかった』ということで、半信半疑の様子だった。

「……………………」

街道の茶屋で小休憩、ということで車から降りて道を進む。
茶屋というくらいなので流石に飲み物は販売しているみたいだが、試しにということで受け取ったコップを見て、ジョセフは驚いたように後ろを振り返る。
何事だとジョセフに続いてそちらを振り返れば、見覚えのある車。

「やっ、やつだ!あの車がいるぞ!!」

茶屋で休憩しゆっくり行けば車と出会わなくて済むと思っていたのだが―――どうやら外れたらしい。
承太郎とポルナレフが近付いて車内を観察するものの、運転手らしき人物は見当たらなかった。
――――と、いうことは。

「……………………」

ゆっくりと再び前を向く。
そうして観察してみると、休憩している輩は誰も彼もが強面であり、腕も同じくらい鍛え上げられている。
あれだけでは判断がつかない―――そう考えたジョセフは飲み物を売っている男に『あの車から降りたのは誰だ』と問いかけるが、そのようなことをいちいち見ているわけもなく、男は困惑したように『わからない』といった言葉を返した。
不穏な空気を感じ取ったのか、強面の男たちがジョセフたちをじっと観察している。

「どうします?ジョースターさん。とぼけて名のり出てきそうもないですね」

「しょうがない。どいつがあの車のドライバーか、そしてそいつが追手かどうかはっきりせんことには安心して国境を越えられん。この場合やることはひとつしかないな?承太郎」

「ああ。ひとつしかない」

「?」

ジョセフと承太郎の会話に、花京院は一体何のことだと2人の顔を見比べる。
どうやらポルナレフも会話には参加していないがわかっているようで、怪しい男たちをじっと観察していた。
なまえはというと、家出少女の手を引いて少し承太郎たちから離れていた。

「無関係の者はとばっちりだが、全員ブチのめす!」

え?、という花京院の声は届いていない。
承太郎の言葉が合図だったとでもいうように、三人は一斉に男たちへ掴みかかった。
突然知らない男たちへ殴りかかる三人に一瞬状況が飲み込めないでいた花京院だったが、慌てたように3人に駆け寄る。

「お…おいッ!無茶なっ!承太郎!やめろ!ジョースターさんあなたまでッ!やりすぎです!!」

「てめーのよーなつらが一番、怪しいなあ!」

「えっ、なに!?そ、そんなッ!?」

ポルナレフの振り上げた拳が、無関係の男へと振り下ろされそうになったとき。

「!!」

勢い良く扉がしまった音がして、驚いてそちらを振り返れば問題の車は走り出していて。
既にのびている2人と、逃げ出した男を放って、一行は唖然とその後姿を見つめていた。
ようやく声を出せたのはポルナレフ。

「お…おれたち、ひょっとしておちょくられたのか!?」

「誰かやつの顔を見たか!?」

殴り合いに参加していなかったなまえや花京院たちですら、まるでそちらには意識がいっていなかった。
なまえはそんな自分に呆れたように唇を噛んだが、今更どうにもならない。

「い…いや、またもや腕だけしか見えなかった…やつはいったいどういうつもりだ!?奇襲してくるわけでもなく…戦いを挑んでくるわけでもない……頭のおかしいドライバーのようでもあり、追手のようでもある……」

「追っかけてとっつかまえてはっきりさせんことにはイラついてしょうがねーぜッ!さっきのトラックとの正面衝突のうらみもあるしなッ!!」

今度はポルナレフの怒りに反対する者はいなかった。
皆何も言わずにそそくさと車へ乗り込み、勢い良く走り出す。
あとに残された好き放題された男たちは、先程の承太郎たちのように唖然と取り残されていた。



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