なまえは住人達の往来を眺めながら、ぼんやりと先ほどのことを思い出していた。
ジョセフたちには一人で出歩くのは危険だと言われたが、襲ってきている敵はポルナレフを狙っている。それに、先ほどのこととは関係無しになまえは一人になりたい気分だった。
アヴドゥルやポルナレフはたいしてコチラについて気にかけていないようだったが、花京院―――そして何よりも厄介なのが承太郎である。
同じ高校で、クラスメイト。しかも自分の祖父と知り合いである自分のことを探ろうとするのは至極当然のことであると納得は出来るが、なまえにとってそうされることは良いことではなかった。
彼の心情を読み取れない表情とその洞察力。更には頭の回転の速さに加え、とんでもない勘の良さには今までの戦いで十分理解してるつもりである。

「(くっついて守ってもらうだけで自分じゃ何もしない…)」

なまえはポルナレフに言われた言葉を思い出しながら、ゆっくりと目的地もなく歩き出した。
なまえはポルナレフの言葉に衝撃を受けたが、それはショックを受けたという意味ではない。
・・・・・・・・・・
そう思われていることに衝撃を受けたのだ。
自分は彼らに守ってもらうつもりもない。最終的に承太郎が倒す事になったとはいえ、ラバーソウルとの戦いではなまえは一人で勝つつもりでいた。
助けを呼ぶという考えが、全く浮かばなかったのである。
だからこそ、"守る"という、"仲間"であることを前提としたポルナレフの発言に、なまえは言葉を詰まらせた。

「お嬢ちゃん」

「え?」

突然横から声がかかったものだから、なまえは驚いてそちらを向く。
自分より背が高いその人物に、慌てて顔を上に上げた。

「いいからそのままおれと一緒に歩きな」

「あの、いきなり…」

「あそこの店の前にいる男、嬢ちゃんの財布でも狙ってんのかあんたのことずっと見てる。通り過ぎるまでおれと一緒の方がいい」

「…………………?」

男は目線を前に向けたままで、こちらを見ようとはしない。
なまえは店の前、という単語だけで静かに視線を動かし、男が言う人物を見つけた。
確かにじっとこちらを見ている人物がいるが、日本人が珍しいだけではないのか、とすぐに視線を逸らす。
しかし下手に事件に巻き込まれても面倒なので、黙って男と一緒に歩くことにした。

「嬢ちゃん、東洋の生まれか?ここらじゃ見ない顔だぜ」

「……あなたこそ、この国の人には見えませんね」

「おれはただの風来坊さ。その日その日を気ままに暮らしてる」

帽子に触れ、そこで初めてなまえと男の視線が合わさる。
ツバの広い帽子。金色の髪はなまえよりも長かったが、男にとって邪魔ではないよう。
今は吸っていないが喫煙者なのだろう。タバコの匂いが微かにした。

「旅行にしても、女の一人旅ってのは危険だぜ」

「……一人じゃないので、大丈夫です。今はたまたま別行動なだけで」

「へえ。嬢ちゃんみたいな可愛い子をこんな場所で一人にさせるなんて、酷い男だな。おれならそんなことはしねぇ」

「私、連れが男って言いましたっけ?」

街は賑わっていたが、この国の言語をまだハッキリと理解できるわけではないなまえは彼らが何を話しているのかはわからない。
しかし、それらは警戒するに値しないだろうと、なまえは隣の男の目を真っ直ぐ見た。
男もじっとなまえを見下ろしている。瞳が揺れ動くことも、表情が崩れることも無い。
瞬間、男の顔から優しい笑みが零れるものだから、なまえは少しだけ驚いた。

「嬢ちゃん、こういうのはナンパの常套句だぜ?嬢ちゃんに"彼氏"がいるかどうかを訊きだすためのな。覚えておくことだ。……しかし、あれだ。嬢ちゃん―――何をそんなに警戒してんだ?」

「!」

男に上手く逃げられたせいで、なまえの警戒が裏目に出る。
飄々とした雰囲気とは裏腹に、どうやら抜け目の無い人物らしかった。
かと言って男の言葉を全て鵜呑みにしたわけではない。
もう店の前を通り過ぎて随分経つだろう、と足を止めた。

「それじゃあ、私は連れと合流するんで」

「そうかい。気を付けて―――と言いたいところだが」

男が一歩足を踏み出し、再びなまえの横へと並ぶ。

「さっきみたいなことがあったら心配だ。お連れさんのとこまで送ってくぜ」

「……結構です」

「まあそう言わず。おれが勝手にすることだからよ」

男は律儀に歩く速度をなまえに合わせて見慣れない街並みを歩き出す。
走って―――もっと言えばスタンドを使って男を振り切っても良かったが、なまえは男のもつ雰囲気と勘のようなものから、男を野放しにするわけにはいかないと先ほどとは打って変わって共に歩くことにした。

「(もし"スタンド使い"なら―――)」

先ほど歩きながら確認したが、この男は"両手とも右手の男"ではなかった。
つまりは、この男はポルナレフの敵であるスタンド使いと"別"でここにいるのか、それとも"一緒に行動"しているのか。
―――後者だとしたら。

「(ポルナレフすら、ブラフ…)」

しかしあそこまでまんまと敵の策にハマったポルナレフを見逃すほど敵も馬鹿ではないだろう。
敵の本命はポルナレフ。だとしたら故意ではなく何か"想定外"のことが起こってこうして"別行動"していると考えるほうが自然だ。
恐らくアヴドゥル辺りがポルナレフの後を追ってくれたのだろう―――彼ほどの強力なスタンド使いがいれば安心だ、と目の前(正確には横だが)にいる男をどうしたものかと考える。

「そういや名乗ってなかったな。おれの名はホル・ホース。嬢ちゃん、あんたはなんていうんだ?」

「名字なまえ」

「えーっと、東洋だからファーストネームはなまえか。嬢ちゃんにピッタリな可愛い名前だ」

「ど、どうも…」

どうもこういうのは苦手だ、となまえはホルホースから目を逸らした。
お世辞だとわかっていても、異性から褒められることに慣れていないなまえはこの恥ずかしい気持ちをどう表していいのかわからず何ともいえない表情を浮かべる。

「しっかしまたなんでインドに?観光か?」

「まあ、そんなところです」

「おれはなまえみたいな可愛らしい子に会えて嬉しいけどよ。この土地に慣れてねえみたいだし、何か困ったこととかあるか?」

「……………………」

どうしてそういう言葉をサラリと言えるのか、となまえは"可愛らしい"という単語に恥ずかしくなり更にホルホースから顔を逸らした。
ポルナレフのときもそうだった。お世辞とはいえこちらを褒めるようなことを言われ、上手く言葉を返せなかったことを思い出す。
外国の人間はいつもこうなのか、と日本で電話をしたきりの友人を思い出したが、そうでもない知り合いのことも連鎖的に思い出し、一体どうなっているんだと思考回路を無理矢理切り替えた。

「ホルホースさんはインドに何回か来たことが?」

「ああ。といっても数えられるくらいだけどな」

「風来坊…も、観光みたいなものですか?」

「まあ……そんな感じだな」

何故かその質問にだけ煮え切らないような答えだったが、なまえは特に話を広げるつもりはないと気にかけなかった。
ホルホースは「流石に女に会いに行ってるとは言えない」と内心少しだけ冷や汗をかいていたが、なまえがそれを知る由も無い。
そうして少しずつ、なまえとホルホースは街中を進んでいった。



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