・・・・・
「水へ落ちろだぁ…?おれのイエローテンパランスは『攻撃する防御壁』だと言ったろう!このくらいの高さからの着水なんぞ、"移動するだけ"しか能のねぇてめーのスタンドと違って痛くも痒くもねぇッ!」
落下しながら、それでもラバーソウルは余裕の笑みを取り戻す。
しかし、ラバーソウルは笑みをなまえに向けた瞬間、違和感に気付き目を見開いた。
「てめー…おれの黄の節制 からどうやって逃れやがったッ!!」
「…………………」
なまえの身体の周りには、既にラバーソウルのスタンドが纏わりついていない。
その驚きになまえはチラリとラバーソウルを見たが、迫り来る水面に意識を向けた。
確かにラバーソウルの言う通り、あの高さから生身のまま水面へと飛び込めば、どんな強靭な身体であろうと無事ではいられないだろう。
ラバーソウルは既に自分のスタンドで身体を覆っており、なまえはじっと水面の奥を見つめた。
「何っ――――!?」
ラバーソウルが驚くのと、水面に着水するのはほぼ同時。
水しぶきの音は、その一度だけ。
なまえは既に、水の中に存在していた。
「っ、はぁっ……!」
先に水面へ顔を出したのはなまえ。
瞬間、なまえの隣に、先ほど自分と入れ替えた水中に落ちていた小石がポチャンという音を立てて沈んだ。
そんな小石には目もくれず、なまえはポケットに入れていた手を水面へと勢い良く出し、その水しぶきがラバーソウルの沈んだ部分へとかかる。
未だに揺れる水面で波に身体を持っていかれないようしっかりと足をその場につけ、なまえは上を見上げた。
「く…い…息が……」
次いで、ラバーソウルが息苦しさに水面へ顔を出す。
しかもその顔には彼の自慢のスタンドである黄の節制 がついておらず、息を吸うためにスタンドを一時的に解いたのだ。
絡みついたスタンドがいくら無敵だろうと、本体が倒れてしまえばスタンドも消えてなくなる―――そのことを、同じくスタンド使いであるなまえも当然知っている。
「――――悪戯な遊戯 !!」
「っ!!?」
瞬間、ラバーソウルを照らしていた太陽の光が消失した。
太陽に雲がかかったのかと思ったが―――違う。
目の前にいるなまえの濡れた髪は、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
・・・・・
「私のスタンドは物の位置を入れ替える――――それがたとえ、"コイン"と"ケーブルカー"のように質量が全く違うものでもッ!!」
「な、あ――――!!」
なまえがポケットから取り出し、水面に顔を上げると同時にラバーソウルの頭上へ投げたものは、先ほどケーブルカーのチケットを買ったときのお釣りのコインであった。
しかし水中にいたラバーソウルがそれを見ているはずもなく―――見ていたとしても、何を投げているのだろうと興味を持つことはなかっただろう。
だからこそ。
自分の能力に自信を持っているラバーソウルだからこそ、なまえはそこに付け込んだ。
「理解した ?」
ザァアン、と二度目の水しぶき。
ラバーソウルの前に立っていたなまえにも、勿論その水しぶきは大波おのように襲い掛かる。
なんといったってなまえはお釣りのコインと先ほどまで乗っていたケーブルカーを"入れ替えた"のだ―――その波は、ラバーソウルが着水したときとは比べ物にならない。
「っ、と……」
なまえは波に身体を引っ張られ、そのフラついた身体は壁に当たって体勢を持ち直した。
「…何か情報を聞き出せば、良かったかな……」
波も収まりつつあり、なまえは完全に水の中へと沈もうとしているケーブルカーを見つめる。
あれだけの重量のものが上空から垂直に落下してきたのだ。いくらイエローテンパランスとはいえ、無事ではないだろうとなまえは静かになった水面を見下ろした。
息を潜めてみたところで、ラバーソウルが浮上する気配は無い。
「(なんとかしてジョセフ達に連絡しないと…)」
暑い地域だ。このまま水の中に浸かっているというのも結構気分が良いものであったが、今はそんな場合ではない。
周りに人がいないことを確認し、ポケットに残っている小銭を道路に投げてそれと自分をシャッフルしよう、と考えて。
「あ…」
ラバーソウルに攻撃を受け弱っていた身体は、緊張が解けたように力が入らなくなっていた。
腕や手は動くものの、水に濡れたこともあり脱力感は昨日船から降りたときと同じくらいである。
指先が上手く動かず、ポケットから出そうとした小銭は水底へゆらゆらと沈んでしまった。
それを拾おうと、水面に視線を落とした瞬間。
「黄の節制 !!」
「っ――――!!」
なまえの背中に、衝撃が走る。
冷たいものが身体を押し潰そうと圧をかける一方、なまえの腕や首を喰いちぎるかのように、そのスタンドはなまえの身体中に纏わりついていた。
「よくもやってくれたなァ!」
「ぐ、ぁ…………」
額から血を流すラバーソウルの顔を目の前に、なまえは言葉を発することが出来ない。
ラバーソウルは痛みのせいか怒りからか、自分自身にイエローテンパランスを纏ってはいなかったが―――その代わり、出せるだけのイエローテンパランスでなまえのことを壁に張りつけていたのである。
なまえの首にはラバーソウル自身の手が触れ、その首をへし折る勢いで絞めていた。
なまえはなんとか自分と入れ替われそうなものを探すが、スタンドを出そうとする前に視界が霞み、頭が白くなっていく。
このままではマズイと抵抗するものの、まず体格が違うラバーソウルになまえが力で敵うはずもない。
意識が飛びかけ、ラバーソウルの腕を離そうとしていた手から、力が抜けて。
「星の白金 ッ!!」
「ゲブァッ!!!」
聞き覚えのある声と共に、なまえは息が出来るようになった口から突然大量の酸素を吸い込み、咳き込む。
目の前にいたラバーソウルの姿は、再び水面へ叩きつけられたように水しぶきをあげながら吹っ飛んだ。
「法皇の緑 ッ!」
瞬間、なまえの身体は勢い良く水中から引き上げられ、直射日光を受けて熱くなっている地面の上へと横に置かれる。
その声の主を理解したなまえは、驚いたように上半身を上げてその人物を確認した。