「これがおれの本体のハンサム顔だ」

そんな言葉と共に、ババァアン、とスタンド使いがその正体を現す。
その厳つい顔つきと雰囲気は花京院のそれとまるで違った。
此処に来るまでに自分が人通りの少ない道や薄暗い道を彼と共に通ったことを思い出し、背筋が凍る。

「ほーれほーれ、なまえちゃん〜手を見なさあい!先ほどおれに触ったとき、既におれの一部が喰らいついているぜ」

「!?」

はっとしてなまえは自分の右手を見下ろした。
すると、スタンド使いの周りを漂っているそれと同じ色のものが、ウジュルウジュルとなまえの指を痛めつけているではないか。
先ほどまで気付かなかったのは痛みがなかったからか、それとも彼のスタンド能力でなまえの手に見えるようにしていたのか―――なまえはそれをどうにかしようと反対の方の指を伸ばした。

「いっておく!それに触ると、左手の指にも喰らいつくぜ。左手の指は髪の毛でも整えてな!じわじわ食うスタンド!食えば食うほど大きくなるんだ。ぜったいにとれん!」

「っ……」

なまえは男が何かをする前に、座席を蹴って大きく右手を振り上げる。
その手は何かを握っているようだったが、何をする気だと男は一瞬身構えた。
しかしその手に武器のようなものが握られていないことに気付いて余裕の笑みを浮かべた、その瞬間だった。

「!?」

なまえの右手に、いつの間にか鉄パイプのようなものが握られていたのである。
それがケーブルカーに取り付けられていた手すりだということに男が気付いたのは、なまえが右手を振り下ろし終わったあとだった。
―――しかし。

「おれのスタンド『黄の節制イエローテンパランス』に、弱点はない!」

ボスン、となまえが振り下ろした手すりは男のスタンドに叩き込まれる―――否、取り込まれてしまった。
なまえは慌てて手すりから手を放し、男から距離を取る。

「おれのスタンドはいうなれば!『力を吸い取る"よろい"』!『攻撃する防御壁』!エネルギーは分散され吸収されちまうのだッ!!承太郎のスタンドみたいなスピードだろうが強さだろうが、このスタンド―――黄の節制イエローテンパランスの前には無駄だッ!おれを倒す事はできねーし、てめーの右手は切断するしか逃れる方法はないィィ!」

気付けば、ケーブルカー内は男のスタンドがいたるところに張り巡らされていた。
しかし気付いたところで既に手遅れ。
なまえの身体のいたるところに、イエローテンパランスが絡み付いて身動きが取れなくなってしまった。

「てめーにもはや、何ひとつスベはない!はなれることはできん!消化されるまでなッ!!」

「ぐっ………」

「ドゥーユゥー、アンダスタンンンドゥ!!」

なまえの腕や足だけでなく肩や首元まで男のスタンドが侵食し、ジジュー、となまえの身体を喰らっていく。
その痛みに顔を歪ませるが、手足を動かしたところで男のスタンドが千切れる気配はない。
なまえは動けない状態だというのに男の身体の周りには相変わらずスタンドが取り巻いている。
ケーブルカー内も相変わらず男のスタンドが至る所にくっついており、なまえが自分のスタンド能力で何かと位置を入れ替えたところで逃げれないことを理解した。

「本当は承太郎の野郎からやるつもりだったが…どうせ全員やるんだ。てめーからでも構わないよな!安心しな。女に化ける趣味は無いんでてめーの格好でスリの男をボコしたりしねぇよ!!」

「っ………………、」

心配しているのはそこではないと、なまえは男の冗談に笑えるほど余裕はなかった。
その間も、なまえの身体に巻きつくスタンドがなまえの身体を蝕んでいく。

「…空条くんでも、あなたには勝てないと?」

「当たり前だぁッ!おれのスタンドに、弱点は無いッ!」

「なるほど…だとしたら私に勝ち目は無い……」

なまえの小声を拾った男が、不気味に笑い声をあげた。
絡みつくスタンドにされるがままになるしかないと、男は勝利を確信する。

「だったら、とっておきの作戦をするしかないってことか」

「なにィ〜?」

「それは!」

再び、なまえの脳裏に友人であるジョセフの姿が浮かび上がった。
きっとジョセフならばこうしただろうと、なまえは男から視線を窓の外へと向ける。
男は何事かとそちらを振り返るが、瞬間。

「『逃げる』んだよ!!」

なまえと男の身体は、突然太陽の下に晒された。

「な、なにィ〜!?」

男の叫び声は先ほどと違い、心の底から驚いているような声である。
無理もない。
先ほどまで二人はケーブルカーにいたはずで、ほとんどの窓をイエローテンパランスが塞いでしまっていたのでこんな光が入ってくるはずがないのだ。
しかし、男―――ラバーソウルとなまえの二人は、ケーブルカーの外へと何の衝撃もなく投げ出されていたのである。

「私と一緒に水へ落ちろ!」

これが私のスタンド能力だと、なまえはイエローテンパランスに喰われていた右手でラバーソウルを指差した。


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