「DIOの体がジョナサン・ジョースターの肉体であるかぎり、わしと承太郎の行動はヤツにつつぬけじゃ。だから休むヒマを与えず我々を追ってくる」
しかし、とジョセフは鏡越しに同室のアヴドゥルへ視線を送る。
日は既に昇っており、各自次の町への手配を行ったり傷の手当てをしたりとしているのだが、ジョセフとアヴドゥルは未だに客室から出ようとはしなかった。
「DIOの考えも逆に読むことが可能じゃ」
「ポラロイドカメラを買ってきましょう」
「それにはおよばぬ。カメラがなくとも念写ができるよ」
「え?」
アヴドゥルの提案を断り、ジョセフはホテルに備え付けられているテレビへと近付く。
ジョセフがカメラを破壊して念写するところしか見たことがなかったアヴドゥルはどういうことだろうと不思議そうにジョセフの後ろに立っていた。
バシィッ、という音を響かせながら、ジョセフのスタンドであるハーミットパープルが備え付けのテレビへと刺さっていく。
すると、スイッチを押しているわけでもないのにテレビに映る番組が次々に変わっていくではないか。
その光景に驚いたようにアヴドゥルは腰を屈め、その様子がよく見えるようにテレビへと近付いた。
「現在、チャンネルごとで喋っているいろいろな言葉をさがして文章にしようとしておる。念写というより念聴だ」
その言葉と同時―――ガチャリ、とチャンネルが変わる。
『われわれの』『中に』『裏』『切り』『者』『がいる』
「なんだと……いまの文章はいったい…」
「『われわれの中に裏切り者がいる』と繋がってきこえたが…」
その結果に、ジョセフとアヴドゥルは唖然としたようにテレビに食いつく。
そうして驚いている間も、チャンネルは言葉を伝えようとコロコロ変わっていた。
『カ』『キョー』『イン!』『に!』
『気を』『つけろ』『DI』『O』
『の』
『手下』『だ!』
バラバラと機械音のようになったそれは、とんでもないメッセージを残す。
しかしそれに驚いていると、バシッ!と先程よりも鋭い音で画面が切り替わった。
それは何かのテレビ番組ではなく、闇のような―――
「こいつはッ!」
『ジョセフ・ジョースター!きさま!見ているなッ!』
「DIO!」
「ばれた!あぶないッ!」
ボゴォッ、という爆発音と共に、ジョセフが念写を行っていたテレビは砕け散る―――機械音とは違う、低く重たい声を残して。
「見ていることを感じて妨害したか…」
アヴドゥルがジョセフをテレビから遠ざけたおかげで、二人とも怪我は見当たらなかった。
その客室は悲惨な状況になっていたが、今はそれどころではない。
「し…しかしどういうことです!?」
「今きいたとおりじゃ!DIOのもつジョナサンの肉体はわしと不思議な絆でつながっているが――わしの『スタンド』隠者の紫がそれを読んだ。花京院はッ!DIOの手下で我々を裏切っているとたしかに言ったッ!」
「まさかッ!考えられん!心をあやつっている"肉の芽"をぬいたし、東京からの飛行機では花京院が虫のスタンド使いを倒した!」
「わからぬ…わしは花京院を信頼しておる!なにか理由があるはずじゃ!理由がッ!しかしもし本当に花京院がDIOと通じているのなら、いつでも我々の寝首をかくのは可能!DIOの『トロイの木馬』ということだ!」
二人の焦りは、こうして喋っている間も加速する。
ここまで共に旅してきた彼が、肉の芽をぬかれても自分達を欺くような邪悪な人間には思えない―――しかしジョセフの能力が確かなことも、二人は知っていた。
だからこそ、一刻も早く真実を確かめる必要がある。
「花京院はどこにいる?」
「承太郎と一緒です。インドへ向かうバスか列車の手配をしに出かけました…」
ポルナレフはなるべく休んで傷を治すということで出発の時間まで客室にいると言っていた。
なまえは必要なものを買いに行くと言っていたし、今はとにかく承太郎のもとへと向かうのが先決だとでもいうように二人は客室の扉を勢いよく開ける。
「……あれ?花京院くん。空条くんと一緒だったんじゃなかったの?」
同時、ジョセフ達の客室より二階下の客室の扉がゆっくりと開かれた。
1012号室―――なまえに割り当てられた部屋である。
扉を開けたなまえの視線の先には、人の良さそうな笑顔を浮かべる花京院が立っていた。
「ああ…名字さんが買い物に行くということだから、荷物持ちをしようと思って」
「え、そんなの良いのに」
「でももう承太郎は行ってしまったし…一緒に行っても構わないかな?」
「うん。ありがとう」
なまえは客室から出ると、ホテルの鍵をポケットの中へと入れる。
施錠はオートロックのため必要ないので、そのままなまえは花京院と共に部屋を後にした。