時刻は、夜の10時を回っていた。
夕飯時にポルナレフの件を聞き、電話に出ない自分を心配していたのだというジョセフに苦笑いで謝罪をしたことを思い出す。
しかし、ポルナレフを襲った新手のスタンドが自分の部屋のにいなくて良かったとなまえは心の底からホッとしていた。

「……………………」

なまえは、ホテルのすぐ近くにある公園のベンチに座っていた。
ここら辺は治安も良く、環境も綺麗に整備されているため公園は綺麗で静かなものであった。
ベンチに座ってから30分も経っていないが、見回りの警備員のような人が公園を横切っただけで、なまえ以外に人は見当たらない。
なまえは一人、静かに公園の真ん中に設置されている噴水を見つめていた。
たまに晴れた夜空を見上げるものの、別にその景色に見とれているわけではなく、何か考え事をしているようである。

「お嬢さん。こんな夜に一人だなんて、彼氏にでも振られたのかな?」

「…………ポルナレフ」

「そこは『そうなの』って乗ってくれねーとな」

そう笑いながら、なまえの後ろから声をかけたポルナレフはなまえの隣へと腰掛けた。
ポルナレフはそのまま視線の先にある噴水を見つめていたが、なまえは何事だろうかと隣に座ったポルナレフを見上げる。
そんな視線に気付いたポルナレフは、少しだけ笑みを浮かべたあと、水が入ったペットボトルをなまえへ差し出した。

「やるよ。暑いだろ」

「ポルナレフの分は?」

「冷蔵庫の中のものが外に出てたからな。今冷やしてるところだ」

「?」

ポルナレフの言葉の状況がわからず首を傾げるものの、ポルナレフの差し出してくれた水をなまえは素直に受け取る。
少しキャップをあけるのに苦戦したが、なまえはキャップをあけると水を勢いよく飲んでいく。
自分で気付かないうちに相当喉が乾いていたのか、なまえはしばらく水を飲んでからキャップを閉じた。

「……そこまで飲むとは思ってなかったぜ」

「喉乾いてたみたい」

潤った唇を軽く指で拭きながら、なまえはポルナレフに「ありがとう」と感謝の言葉を述べる。
その後数分間、ポルナレフとなまえは無言のままベンチに座っていた。

「なあ、一つ訊いてもいいか?」

「うん?」

ポルナレフの質問に、なまえはポルナレフの方を見上げる。
しかしポルナレフは噴水を見つめたまま言葉を続けた。

「なまえ。お前は、DIOとどういう関係なんだ?」

「、え――――?」

ポルナレフの鋭い視線が、なまえの視線と絡み合う。
噴水を見つめていたはずの目はペットボトルを大事そうに持つなまえを映し出し、なまえの瞳の中の自分を見つめた。
驚きを隠せないでいる、その表情。
この動揺は、ポルナレフに伝わってしまっているのだろうか。

「俺はヤツからなまえ宛ての手紙を受け取った。そのときのDIOの様子が、とても敵に対するものじゃなかったんだ」

「そんなの、」

「まあ俺の勘違いだって言われたらそれまでなんだけどよ」

ポルナレフの視線が、なまえが視線を逸らすのを許してはくれない。
なまえはただ口を噤み、ポルナレフの言葉を待つ。

「なあなまえ。お前は自分がなんでDIOに目を付けられてるのか、心当たりはねぇのか?」

「…………………」

その言葉を口にした瞬間、ポルナレフはなまえに対して恐怖を感じた。
それは頭で理解するというより、本能的に悟った恐怖。
しかしそれも一瞬。
それこそが勘違い、もしくは気のせいではないかというくらいに、なまえは普段通りだった。
それでも、先ほどよりもその瞳は闇に包まれたように感情が読めない。
ポルナレフの疑問が真実か否か。
それを、ポルナレフは知るべきなのかと未だに迷っていた。

「…………無いよ」

言い切った。
なまえはきっぱりと、それこそが真実だとでもいうように言い放ったのである。

「そうか。なら、直接本人に会うしかねぇな」

DIO―――その名を言わずとも、なまえには伝わったらしい。
視線を逸らし、ライトアップされている噴水をじっと見つめる。
ポルナレフが公園でなまえを発見したのは偶然であったし、何かを考え込んでいるなまえに声をかけるつもりも最初は無かった。
しかしなまえがとても――――あまりにも泣きそうな顔をしていたため、自然と声をかけてしまっていたのだ。

「……………なまえ」

ポルナレフが、静かになまえの名前を呼ぶ。
名を呼ばれたなまえはゆっくりと顔ごと視線を隣のポルナレフへと向けた。

「なあ、何をそんなに…怖がってるんだ?」

「っ…………」

そこで初めて、ポルナレフになまえの動揺が伝わる。
ジョセフ達と笑っていた彼女はそこにいない。
ただ何かに怯える、ただの子供だった。
しかしなまえはそんな震えを無理矢理止め、ポルナレフから視線を逸らして地面を見下ろす。

「ポルナレフ。私は、やるべきことを出来るのかな」

「やるべきこと………?」

「ううん。嘘でもいい。ポルナレフ。私に、『お前なら出来る』って言ってほしい」

動揺。困惑。戸惑い。恐怖と嫌悪と、弱さに脆さ。
DIOの手下である敵に狙われ、戦闘タイプでないなまえが突然スタンド同士の戦いに巻き込まれ、知らぬ土地で敵に襲われる可能性が有る今。
ポルナレフは、自分が思っている以上になまえが追い込まれているのだと知る。
10年以上妹の仇のために戦うことだけを考えていた自分と違って、彼女は少し前まで普通の女子高生だったのだ。承太郎や花京院とも違う―――今まで平和に暮らしてきた少女に、コロシアイだなど荷が重過ぎる。
コレも全てDIOのせいではあったが―――そんなDIOが、自分に目をつけているいう謎。
なまえの持つペットボトルが、グシャリと静寂に木霊した。

「……言われなくても言うさ」

「え………………」

「なまえがしたいと思うなら、なんだって出来るぜ。もし出来ないようならジョースターさんたちを頼ればいい。簡単だろ?」

ポルナレフは笑みを浮かべ、なまえは驚いたように目を見開く。
ぐしゃりと潰したペットボトルに、噴水が歪んでうつっていた。


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