船内での捜索を終えたポルナレフたちは、再び最初にいた甲板へと戻ってきていた。
そこにはなまえもおり、あと承太郎が戻ってくれば6人は全員揃うということであったが。

「どうだ?何か見つけたか」

「いえ…考えられぬ……スミズミまで『法皇の緑ハイエロファントグリーン』をはわせてみたが、人の気配はどこにもない…パイプの中にもあらゆるスキ間にも、どこにもない」

「一体敵はどこに……」

「なまえ、何か見たか?」

「え?ううん…ずっとここにいたけど特には……」

結局シャワーを浴びにもサルを見にも行かなかったなまえは、ポルナレフたちが去ってから戻ってくるまでずっとこの甲板にいたのだが、特にこれといった変化は見当たらない。
ジョセフたちも何も見つからなかったようで、どうしたものかと溜息をついた。
あとは承太郎か、と室内へ繋がる扉を見つめて。

「、なぁっ―――!?」

「なまえ!?」

ジョセフたちの背後で、なまえの声が響いた。
慌てて振り返ってみればなんと、なまえの足が船へと沈んでいたのだった。
それに驚いて一歩踏み出そうとしたジョセフたちの足も、いつの間にか船へと沈んでいく。
何事かと力を入れて足を抜こうとするものの、段々と彼らの身体は船へと埋まっていった。

「な……なんだッ!!」

「こ…これ…は!?」

「こ…この貨物船は!?ま…まさか、この『船自体』がッ!?」

なまえ達は、あっという間に胸元辺りまで船へ飲み込まれてしまっていた。
ジョセフがこの貨物船自体がスタンドだということに気付いても、もう遅い。

「すべて…なにもかも、この船自体が巨大な『スタンド』だっッ!」

「こ…この船がッ!?し…しかし、水夫や女の子にも見える『スタンド』があるのか?」

「この実在感!エネルギーがあまりにも巨大だからと!考えるしかあるまい!」

ポルナレフの疑問に、アヴドゥルが船へと抵抗を示しながら答えるものの、その抵抗は無意味に近かった。
段々と沈んでいく身体はどうにもならず、焦る彼らは必死で頭を回転させてどうするかを考えている。

「そ…それにしても、このような巨大な『スタンド』を操るのは相当なパワーでなくては……花京院、『法皇の緑ハイエロファントグリーン』をはなって承太郎に連絡を!」

「だ…出せない…ガッチリ『スタンド』自体がつかまえられているッ!」

先ほどから何度か『スタンド』を出そうと頑張っているものの、それすらも許されないこの状況。
彼らの上半身はほとんど船に飲み込まれ、腕も満足に動かせないでいた。

「そ…それじゃあこういうことか!!絶体絶命!…おれたちはすでに完全に囚えられていた…」

「ゲホッ!あ…圧迫が強まってきた…こ…このまま…では胴体が切断されるぞ……ぜ…全員…」

「う…うかつ……だった………」

彼らが、苦しさに顔を歪ませる。
それはなまえも同様で、苦しそうに咳き込んだ直後口から静かに血が流れた。
それ以前に船酔いで顔色があまり良くなかったこともプラスしてか、酷くぐったりとしている。

「なまえ!…くそ、どうにかしないと……」

ジョセフが焦ったように辺りを見渡すが、どうすることも出来ない。
なまえのスタンドが使えれば自分達の場所と他の物の場所を入れ替えてこの危機的状況から一時離脱することは出来るだろう。
しかしこの船が『スタンド』である以上、再度この船に取り込まれないという絶対の保障は無い。

「………………………」

そしてなまえも、ただ具合が悪いからといって戦うことを放棄していたわけではなかった。
何か自分達5人と位置を"交換"出来る物が無いかと、目を動かせる範囲で動かし探している。
花京院と違ってスタンドを出していたわけではないなまえにとって位置を交換することは容易かったし、なまえの動く視線に気付いたアヴドゥルも交換するものを探しているのだろうと何も言わずに悟っていた。
だが、アヴドゥルは知らない。
なまえのスタンドの、4つあるうちの弱点の1つ。

「(この船自体が――『スタンド』)」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
スタンドの位置を入れ替えることはできない。
それが、なまえのスタンド、『悪戯な遊戯シャッフルゲーム』の弱点である。

「くそっ…アヴドゥル、てめーのスタンドでどうにかできねーのか!?」

「どうしろというんだ。この船の素材からして、スタンドの炎で溶かすことは出来たとしても自分達にも熱は伝わるぞ…!」

「そ、そいつは勘弁だな…承太郎が、なんとかしてくれるといいんだが…」

この大きな貨物船の素材は、どうみたって金属である。
たとえスタンドとはいえ、その熱伝導率は一般の金属とあまり変わらないだろう。
取り込まれているポルナレフたちは既に船の一部になりつつあり、そんな彼らが熱から逃れる術などなかった。
自分の首を自分で絞めるという行為に気付き、ポルナレフは抵抗を強める。
貨物船と言うのだから、確かにこの船に積荷は色々な種類が乗っていた。
しかし―――そのどれもがスタンド。
木箱の一つくらい、となまえがスタンドを使おうとしたところで、どの位置だろうと動かない。
こういうときに限ってジョセフは帽子をかぶっていないし、普段帽子をかぶっている承太郎は行方知れず。こうなったらアヴドゥルが身につけているアクセサリー類に犠牲になってもらうしかない、となまえが視線をアヴドゥルで止めた瞬間だった。

「っ!?」

一瞬の浮遊感。
ぐにゃりと歪んだのは視界かと思ったが、どうやらそうではないようだ。

「ふ、船が…!」

「歪んでいくぞ…どういうことだ!?」

自分達を取り込もうとしていたときとはまた違う歪み方をするそれに、ポルナレフ達は動揺を隠せない。
それに、段々とではあるが自分達の取り込まれそうになっていた身体が浮き上がってくる。
そして完全に身体全てが自由になったところで、こちらへ駆け寄ってくる足音に全員がそちらを向いた。

「あ、承太郎じゃねえか!」

「急ぐぞ。この船はじきに沈む」

承太郎の後ろを慌てた様子で走ってついてきている家出少女の姿を見て、全員が無事なことを確認する。
この状況になっても水兵が出てこないということは、そういうことなのだろう。

「……………はあ…」

早く船とはおさらばしたいなまえが、またボートに乗るのかと溜息をつく。
自分のポケットに入っていたハンカチで口についた血を拭き、駆け足でボートへと走って行った。


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