甲板へあがった承太郎たちは人の気配の無い貨物船を探りながら警戒心を高めていたが、なまえは外の風を浴びていた。
室内で寝ていろという先ほどの船の船員たちの提案も断り、なまえはポルナレフたちと共に外へいる。
彼らは中を警戒しているものの、なまえはそんな余裕が無いようだった。
と、突然、聞き覚えのある声が甲板へ響き渡る。
「アヴドゥル!その水兵があぶないッ!!」
その声になまえと側にいた子供が振り返った瞬間、既にもう遅かった。
クレーンの先が水平の後頭部から口までを貫通し、そのまま水兵は宙へと持っていかれる。
ポルナレフたちは驚きの声をあげるが、なまえは咄嗟に子供の目を自分の手で塞いでその光景を見えないようにした。
歓迎がきつすぎるな、と承太郎も冷静そのもので言葉をこぼしたが、警戒が更に強まったようである。
誰も触っていない。誰も。クレーンの操作レバーの近くに立っていない。それなのにクレーンは動き、水平のひとりを刺し殺した。
水兵たちは混乱しているものの、ジョセフ達はその原因を即座に悟った。
「どうやらこの貨物船は我々を救出するためではなくて、皆殺しにするために来たらしい!敵はひとりか!?それとも数人か!?」
彼らは水兵に聞こえないよう、自分たちのスタンドで会話を始める。
「だれか、今『スタンド』をチラッとでも見たか?」
「………いや…」
「すまぬ…クレーンの一番近くにいたのはわたしだが、感じさえもしなかった…」
「………………」
「よし、わたしの『法皇の緑』をはわせて追ってみる!」
花京院のスタンドが船の隙間からどこかへ行き、敵のスタンドを探り始めた。
「な…なにがなんだかわからないけど、やっぱりあんたたちがいるからヤバイ事が起こるんだわ………疫病神なの?災いをよぶ人間がいて巻き込まれるからそいつには近付くなって…そうなの?」
「……………………」
そう言うが、子供はなまえの手を離そうとはしない。
既に目隠しはしていなかったものの、なまえは子供の言葉に、無意識のうちに子供の手を握る力を緩めてしまった。
そのことに気付いたのか、子供は慌てたようになまえを見上げる。
「ち、ちがうよ!ねーちゃんはあたいのことを助けてくれたんだろ?疫病神なんかじゃないって!」
「?」
必死に首を横へと振る少女が何を言いたいのかいまいち理解していないのか、なまえはそんな少女を不思議そうに見下ろした。
「おいッ!機械類にはいっさい触るなッ!動いたり電機を流すものは一切触るんじゃあないッ!」
そんなジョセフの警告に、スタンドを知らない水兵たちはなにを言っているんだといった風にそれぞれ感想を零す。
誰もジョセフの警告に従おうとせず、そんな様子にジョセフは怒鳴り声をあげた。
「命が惜しかったらわしの命令に従ってもらおうッ!機械類には決して近付くなッ!全員いいというまで下の船員室内にて動くなッ!」
その鬼気迫る様子に、水兵たちも渋々頷いて室内へと入っていく。
そんな彼らを見送ったあと、なまえを見上げる子供の側へと歩いて行った。
そしてしゃがみ、子供の目線に合わせるとジョセフは真剣な眼差しで口を開く。
「君に対してひとつだけ真実がある。我々は、君の味方だ」
そう頷くと、ジョセフは立ち上がった。
アヴドゥルはそんなジョセフを見て頷くと、考えていた作戦を口にした。
「よし、2組に分かれて敵を見つけ出すのだ。夜になる前までに。暗くなったら圧倒的に不利になるぞ!」
そんなアヴドゥルの声と共に、くいっ、となまえの手が下に引っ張られる。
どうしたのかと子供を見下ろすと、手でしゃがむようにジェスチャーされた。
「どうしたの?」
「さっき、サルを見つけたんだ。危険だからって水兵たちには部屋を追い出されたんだけど、あとで見てみなよ。結構頭いいんだあのサル」
「………サル?」
「うん。あと、シャワーもあるみたいだから…その、あたい……浴びたいんだけど、1人じゃ…その」
「いいよ。一緒に行ってあげる。サルの場所も案内してくれる?」
なまえが笑顔を向けると、子供は嬉しそうに笑みを浮かべ、次いでそのことに気付いたようにプイッと顔を横に向ける。
そんな様子に笑っていると、ポルナレフがこちらに近付いてくることに気付いてなまえは立ち上がった。
「なんだなまえ。シャワー浴びるのか?」
「んだよテメェ!のぞくんじゃねーぞ!!」
「だれかガキのシャワーなんて覗くかよ。それに俺は騎士だから覗きなんて真似はしねぇっての」
「嘘つけ!エロそうな顔しやがって!!」
「なっ…!このクソガキ、」
「ポルナレフ、何か用があったんじゃないの?」
今にも喧嘩になりそうな二人の間に入り、なまえは苦笑いを浮かべながらポルナレフへと質問をする。
なまえの後ろに隠れながら、子供はポルナレフへ舌を出して悪態をついていた。
「あ…ああ。体調の方はどうかと思ってな。敵のスタンドのことは任せてここで休憩してろと言おうと思ったんだが、シャワーを浴びるならスッキリしていいかもな」
「…ありがとう、ポルナレフ」
「いやいや。気にするなって」
そう言うと、ポルナレフは敵スタンド捜索のためになまえへ背中を向けて歩き出す。
子供はそんなポルナレフの言葉に何か考えているのか、じっとなまえの後ろから動こうとはしなかった。
「どうしたの?案内、してもらってもいい?」
「い、いや。やっぱりあたい、1人でシャワー浴びてくるからここで待っててくれよ!」
「え?で、でも……」
「いいから!あたいが浴びてる間に倒れられても困るんだよ!!」
そう叫ぶと、子供はなまえの手を離して船内へと走って行ってしまう。
なまえはそんな後姿を見つめながら、そんなに顔色悪いかなあ、と自分の血の気の引いた顔をぐねぐねといじっていた。