敵のスタンド使いを倒した―――までは良かったのだが、瞬間、物凄い爆発音がなまえたちを包み込む。
船へ引き上げてもらった承太郎も、あまりの出来事に驚いたように目を見開いた。

「や…やはりあの船長、爆薬を仕掛けてやがったッ!」

「ちくしょう!」

「みんな早く、ボートに乗り移れッ!」

「近くの船に救助信号を出せッ!!」

船は、混乱に包まれる。
彼らが混乱している間にも、船のあちこちで爆発が起こり、甲板にいるジョセフたちもその爆風と熱に顔をしかめた。

「ねーちゃん!早く行かないと!」

「おい、どうした!!」

ボートの手配をしていた承太郎の耳に、子供の声が耳に入る。
その子供はなまえの側にいたはずだと思い、そういえばなまえの姿が見えないと承太郎はそちらへ怒鳴った。
すると、子供はなまえの腕を引っ張りながら承太郎へ焦ったように口を開く。

「ねーちゃんが動かないんだ!!」

「なに…?おい名字!さっさとこの船を降りるぞ!!」

「…………………」

ぐいぐいとなまえの腕を引っ張るが、子供の力で1人の女子高校生を動かすのは至難の業らしく、なまえは身体をガクガクと揺らすだけで動こうとはしなかった。
慌てて承太郎がなまえへ近付いて声をかけるが、なまえは燃え盛る船室を見つめるだけでこちらの話など聞いている様子が無い。
もう一度声をかけようとした瞬間、船のどこかが再び爆発し、承太郎は軽く舌打ちをしてなまえを抱きかかえた。

「おい、さっさと行くぞ!」

「あ……ああ!」

承太郎の行動に少し驚いたものの、今回ばかりは素直に子供は承太郎のあとを走る。
なまえを抱えていないかのように足が早かったが、少しの距離だったので子供も無事ボートへたどり着けた。

「おい承太郎、なまえがどうかしたのか!?」

「さあな…ただの船酔いだろうぜ」

ジョセフが承太郎に抱きかかえられているなまえを見て驚くが、承太郎はそれだけ言ってボートへ飛び乗る。
その後子供も承太郎に続き、爆破によって沈む船を彼らは見送った。
承太郎におろされたなまえは、そんな様子をぼんやりと見つめるだけ。
そんななまえを承太郎は見つめていたが、その感情が表に出ない顔では彼が何を考えているかがわからない。
船が沈み、静かになった海の上で、なまえはぼうっと下を向いていた。

「なまえ。お前さん、大丈夫か?」

「……………え?」

ジョセフの声に少し遅れて顔をあげ、なまえは自分に話しかけたのかと首を傾げる。

「顔色が、これ以上ないくらい悪いが……」

「え、ええー。見ないでよ、恥ずかしいなあ」

「今の顔色で言われても、全然可愛くないわい…」

なまえは自分の両手で顔を隠すように覆うが、その手が微かに震えてることに気付いて慌てて後ろへ隠した。
震える手についてはジョセフたちに気付かれなかったらしく、なまえは陸地につくまで我慢するかと笑顔をジョセフ達へ向ける。
しかし、なまえの隣にいた子供がなまえの震える手に触れた。

「!?」

「ねーちゃん、手、震えてるけど大丈夫か?」

「!」

子供の言葉に、ジョセフたちは驚いたようになまえを見る。
なまえは困ったように目をそらし、体調の優れない頭で必死に言い訳を考えた。

「あー、えっとね、これは船酔いで吐く一歩手前の症状なんだよ」

「え!ちょ、ちょっとこっち向かないでくれよ!!」

「女の子がそんなことを言うもんじゃない…ほれ、なまえ。水を飲むといい。救助信号はうってあるからもうじき助けは来るだろう…」

なまえへ、ジョセフは持っていた水が入った水筒を差し出した。
真っ青な顔のままのなまえにそう笑顔で言われ別の意味で顔を青くした子供は、そんなジョセフの提案に力強く頷く。
なまえは静かにジョセフから水を受け取り、しばらくそれを見つめていると子供へとそれを差し出した。

「え?」

「私これ以上口になにかいれたら吐いちゃいそうだから、あなたにあげるよ」

「い…いらねぇよ!あんたが飲めよ!!」

「飲んでくれないと吐いちゃうかも……」

「わ、わかった!飲むから吐くな!!」

ううう、と口を手でおさえるなまえの言葉に、子供は慌てて水筒の口を開けると水を口に含む。
扱いが慣れてきてるな、とジョセフが呆れていると、子供が何かに驚いて突然口にふくんだ水を噴出した。
なまえの方を向いていなかったためその水は海へと落ちたが、ジョセフは「貴重な水を…」と子供を怒る。
しかし、子供はそんなジョセフも無視してなまえの後ろを指差した。

「み、み…み…みん、みんみんみんみんなあれを!見て!!」

子供の言葉に、子供が指差す方向をなまえを含めた全員が見つめる。
正確には見上げる、だが、それよりも。
目の前に突如現れた先ほどの船よりも巨大な船に、一同は驚きを隠せなかった。

「おおおおーッ!」

「か…貨物船だッ!」

「気がつかなかった!」

「いつの間にこんな近くまで来ていたんだっ!」

「た…助かったッ!」

「タラップがおりているぞ、救助信号を受けてくれたんだッ!」

「ラッキーだ!」

それぞれが、その巨大な船を見上げて嬉しそうな声を漏らす。
ただ、貨物船の登場に驚いた子供と気分の悪いなまえと、そして何かを案じている承太郎だけは静かに貨物船を見上げていた。

「承太郎…何を案じておる?まさか、この貨物船にもスタンド使いが乗っているかもしれんと考えているのか?」

「いいや………タラップがおりているのに、なぜ誰も顔をのぞかせないのかと考えていたのさ」

ジョセフの質問に、承太郎は冷静に考えを口にする。
確かに、貨物船は誰も乗っていないかのようにシィンとしていて、ポルナレフ達も一歩を踏み出す前に貨物船をもう一度だけ見上げた。
しかし、ポルナレフは意を決して一歩を踏み出す。

「ここまで救助に来てくれたんだ!誰も乗ってねえわけねぇだろーがァッ!たとえ全員スタンド使いとしても、おれはこの船にのるぜッ!それに、そんな体調のなまえをずっとこんなボートで海に漂わせてるわけにもいかねぇだろ?」

ポルナレフはそう言うと、先頭をきって階段を上がっていく。
その後に先ほどの船の乗組員が続き、アヴドゥル、花京院、ジョセフ、とボートから降りていった。
なまえがボートから降りようと立ち上がったところで、一歩先に降りた承太郎が振り返って子供へと手を差し出す。

「つかまりな。手を貸すぜ」

その言葉になまえは立ち止まり、後ろで未だ少しだけ混乱している子供を振りかえった。
ジョセフや花京院もそんな様子を見下ろしていて、子供は少し考えるように承太郎の手を見つめる。
しかし。

「あ」

「べーっだ」

子供は承太郎の手を無視し、なまえの左手をガッシリ掴んだ。
そして承太郎へ舌を出して悪態をつくと、プイッと顔を背けてしまう。
なまえはそんな子供へ苦笑いを浮かべ、承太郎が差し出した手を掴んだ。

「ありがと」

「ったく…やれやれ」

子供が掴んでくれず、差し出した手をどうしたものかと考えていた承太郎は、そのままなまえの手を引っ張る。
そんななまえに続いて子供も貨物船へ乗り込み、全員がタラップをのぼり終えた。

「はあ……また船か…」

そんななまえの言葉を、手を握っていた子供だけが聞いていた。


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